第4話 最初のプロダクト
登録者は3人。
数字としては小さすぎる。だが正義にとっては、会社の億単位の取引よりも重かった。
「最初の記事、出すか」
土曜の朝、正義はノートパソコンを開いた。テーマは決めている。
――税金の使い道。
登録者から届いた最初の要望だ。
正義はスプレッドシートを開く。国家予算の資料を整理し始める。一般会計総額。社会保障費。防衛費。地方交付税交付金。補助金。特別会計。
数字を並べる。
だが、それだけでは意味がない。
「どう見せるか」
広告営業としての思考が自然に働く。人は“情報”ではなく、“構造”を見る。だから構造を見せる。
正義はページ構成を書き出した。
① 今年度予算の全体図(円グラフ)
② 前年度比較(増減表示)
③ メディアでよく出る項目
④ あまり報じられない項目
⑤ 元資料リンク
煽らない。
批判しない。
ただ、並べる。
「これがRE:PUBLICの型だ」
夕方までかかって、最初の記事が完成した。
タイトルはシンプルに。
《202X年度 国家予算 全体構造》
公開ボタンを押す。
しばらく何も起きない。
正義は広告管理画面を開いた。記事ページへの遷移率を確認する。クリックはある。滞在時間は平均1分12秒。
短い。
「読まれてないな」
スクロール率を確認する。半分以下。
構成が悪い。冒頭が固い。
正義は記事を修正する。
最初にこう書き直す。
《あなたの給与から引かれた税金は、どこへ行くのか。》
これで滞在時間が変わるか。
再度広告を回す。
夜、登録者のLINEに通知を送る。
“税金の全体構造を整理しました。ご意見ください。”
数分後、返信が来る。
“分かりやすいです。でも、ニュースではこの項目よく見るのに、ここはあまり見ませんね。”
正義は画面を見つめた。
「そこだ」
翌日、正義はテレビ録画を見直した。最近一週間のニュース番組。扱われたテーマと尺をメモする。
社会保障:18分
防衛:9分
少子化:14分
補助金不正:2分
地方交付税:0分
正義はスプレッドシートに入力する。
そして、新しいセクションを記事に追加した。
《報道頻度比較(直近7日)》
並べるだけ。
批判しない。
だが、並べると見えてしまう。
公開。
その夜、登録者は5人になった。
広告経由ではない。Xで、誰かが記事リンクを貼っていた。
《こういうの欲しかった》
正義はそのポストを何度も読み返す。
数字が動く。
登録者8人。
翌日10人。
「10人か……」
営業としては誤差だ。だが起業としては、初動だ。
正義は凛にメッセージを送る。
「10人になった」
少し間があって返信が来る。
「CPAいくら?」
正義は苦笑する。
広告費10万円。登録10人。
単純計算で1人あたり1万円。
「高すぎるな」
だが凛は続けた。
「でも、自然流入出てるなら改善できる」
その言葉に、営業スイッチが入る。
改善。
LPをA/Bテストする。
記事導線を短くする。
登録フォームを上に持ってくる。
CTA文言を変える。
「参加する」から「一緒に監視する」に。
夜、再び管理画面を開く。
登録者——15。
正義は息を飲んだ。
広告の数字ではない。ビジネスの数字だ。
RE:PUBLICは思想ではなく、プロダクトになり始めていた。
そのとき、メール通知が届く。
件名:取材のお願い
送り主は、小規模な政治系ブログ。
本文は短い。
《御媒体について詳しく伺いたいです。》
正義の指が止まる。
早すぎる。
まだ15人だ。
だが、誰かが見ている。
背筋に、軽い緊張が走った。
登録者15人。
売上0円。
だが、成長曲線は始まった。
正義は椅子にもたれた。
「これは……事業だ」
違和感は、ビジネスになりつつあった。




