第10話 最初のマネタイズ
登録者は205人。
正義はダッシュボードを眺めながら、ようやく次のステージに足をかける感覚を覚えていた。炎上は落ち着き、流入は安定し始めている。週次サマリーの既読率は80%を超え、地方リクエストフォームの入力は累計43件になった。
「体験は、できている」
問題は、収益だ。
売上はゼロ。広告費は残り約6万円。YouTube成果報酬は継続しているが、いつ止まるか分からない。事業として続けるなら、どこかで“お金”の話をしなければならない。
正義はエクセルを開いた。
想定月額:980円
登録者:205人
仮に10%が課金した場合:20人
月売上:19,600円
小さい。だがゼロではない。
「テストするか……」
凛にメッセージを送る。
「β課金、やろうと思う」
少し間があって返信。
「機能は?」
「先行公開と、自治体優先分析」
「無料との差は明確?」
正義は一瞬考える。無料版は閲覧可能。β会員は、分析優先順位と詳細データダウンロードが可能。明確ではある。
「うん」
「ならやるべき」
即答だった。
その夜、正義は告知文を書いた。
《RE:PUBLIC βスポンサー募集のお知らせ》
本文はできるだけ冷静に書く。
・月額980円
・人数限定30名
・優先分析リクエスト権
・データCSVダウンロード機能
・広告費ではなく、開発費に充当
最後に一文を添える。
《無理にご参加いただく必要はありません。価値を感じていただけた方のみで構いません。》
送信ボタンを押す。
数分間、何も起きない。
正義は心拍数が上がるのを感じた。無料で集めた205人。そのうち何人が財布を開くのか。理想を語るだけのメディアなのか、事業として成立するのか。
通知が鳴る。
《βスポンサー登録完了》
一人目。
「……早いな」
数分後、二人目。
一時間後、五人。
登録者全体の約2%。
悪くない。だが爆発でもない。
チャットにメッセージが届く。
“応援しています。ただ、有料になると中立性が揺らぎませんか?”
正義はその問いに、真正面から向き合う。
《スポンサーは運営費に充当します。分析内容はスポンサーの意向では変更しません。スポンサー一覧も公開予定です。》
透明性で透明性を守る。
翌朝。
βスポンサー:12人。
想定売上:11,760円/月。
数字はまだ小さい。だが、意味は大きい。
「ゼロじゃない」
事業は、初めて自走し始めた。
昼、凛から電話が来る。珍しい。
「どう?」
「12人」
「いいじゃん」
「でも怖い」
正義は正直に言う。
「お金が入ると、期待も入る」
凛は少し笑った。
「だから最初から条件を公開してるんでしょ?」
「……うん」
「正義、理想を守るには、仕組みにするしかない」
その言葉が刺さる。仕組み。感情ではなく、構造で守る。
夜、登録者は223人。
βスポンサーは18人になっていた。
残り12枠。
正義はダッシュボードを見つめる。
登録者223人。
有料18人。
月売上17,640円。
まだ生活できる額ではない。だが、これは“証明”だ。
市場は、小さいが存在する。
そのとき、チャットに新しいメッセージが届く。
“スポンサー一覧、いつ公開ですか?”
正義は深く息を吸う。
次は、透明性を自分に向ける番だ。
RE:PUBLICは、思想の遊びではなくなった。
登録者223人。スポンサー18人。
事業は、確かに始まった。




