メタ視点のわたし vs ハーレム体質の幼なじみ、ファイッ
いつからか、わたしは密かに疑っていた。
この周囲の環境に。
具体的に言うなら、物語の中でしか、あり得ないような状況に。
もっと言うなら、この世界のすべてに。
もしかして、とあるジャンルの創作物の世界にでも紛れ込んでるんじゃないだろうか? と。
たとえば、あいつが主人公で、わたしは脇役、彼女たちがヒロインな配役で……いや、まさかまさか、はは……は。
そんな疑念を生産しては引きつった笑いで打ち消していたが、不安は日々つのり。
ついには抱えきれずに、ぽつりともらしてしまったわたしを、そいつはまじまじと凝視した。
「うわ、何だっけコレ。えーと、言葉が出てこねぇ……ああ、アレだ、中二病。えっ、幼なじみが中二病とかドン引くわ。わたしたちは漫画の世界にいる! って? おいおいおい、ないないない!」
爆笑とともにそう返しやがった屈辱は今も忘れない。
悔しすぎて、胸の内に巣くっていた不安も恐れも悲観もぜんぶ消し飛んだ瞬間である。
「うわっ、くそ、何だ?!」
そのにっくき幼なじみがいま目の前で、アスファルトに突如展開された魔方陣に沈みこみつつある。
「──はぁ?! 悪いが人違いだ、俺は勇者なんてもんじゃねぇよ!」
驚きつつも焦った声で、断固とばかりに否定している。まるで誰かと会話をしているかのように。
わたしの耳には目の前の彼がひとりで騒ぐ声と、一本離れた大通りの微かな喧噪ぐらいしか聞こえないが、違う次元で繰り広げられているのかもしれない。
誰と?
勇者を呼ぼうとしてる異世界の召還主さんと?
「ふっ……」
思わず吐息をこぼしたら、ハッとした顔でこっちを見た。
一緒に下校中だったわたしの存在を思い出したようだ。
「お、おいっ、何やってんだ、助けろよ!?」
普段見ない必死の形相だ。
人気のない住宅街の道路一面に広がったキラキラ光る金色の魔方陣。
そこにかろうじて腕をひっかけるように顔を出し、ふんばっている我が幼なじみの前にしゃがむ。そしてニコリ。
「あっれぇ? 前にさんざん中二病だオタクだアホかとコケにしてくれた涼さんじゃないですか。何やってんですか?」
「おまっ──」
「まさか異世界に召還中? さっすが主人公体質の涼さん、やること違うなぁ」
「──っ」
無造作に切られた黒髪から出てる耳を赤くし、ぷるぷる震わせてる幼馴染の肩を、にやにやぽんぽんとたたく。
超まいってた時期の相談を一笑された恨みは根深いのである。
「あの時は馬鹿にしてすみませんでしたって言うなら、手を貸してあげなくもないよ?」
多分、無駄だろうけど。
正直な話、こういうこともあり得るとわたしは予測していたのだ。
なんせお隣の涼ちゃんというこの男子は、いろいろと規格外な人物であった。
ひとたび家を出ればとんでもないトラブルに巻き込まれ、乗り気でないくせに何だかんだで解決しては、多大な感謝と好意と、たまに熱烈な愛情を向けられ。
高校入学時の段階で、彼はこれまで助けたキャラの濃い美少女たち数名に日々追いかけられ、求愛されることとなっていた。
常識から考えるとちょっとあり得ないくらい過剰に、全校生徒を巻き込むどころか、ワールドワイドな規模で。
先日とか、アメリカのセレブ美少女がヘリで高校の運動場に降り立ち、涼ちゃんに愛を叫んだんだよ、ヤバくない?
こういうストーリーの創作物が何というか、隠れオタクなわたしは知っている。
ハーレム物、もしくはラブコメ物だ。
ギャルゲーとか、青年向け漫画によくある設定だと思う。
そのリア充物語も、ここに来て舞台を異世界に移すようである。
きっと、そっちでも周りの女性をタラシこんで、うまくやっていくことであろう。
アデュー、我が竹馬の友よ。
おばさんにはうまく言っとくから、心おきなく行ってこい。
「おまえっ……おまえなァ……」
よほど頭にきたのか、それとも召還の力にあらがっているせいか。うつむき加減の顔も、しがみつく指先までも真っ赤に染まっている。目が泳ぐように動き、くちびるが言葉にならないように震えた。
……もしかしたら、これが今生の別れになるかもしれない。
そう思うと寂しさが胸に去来したが、彼のことだからさくっと解決してすぐに戻ってきそうでもある。
しかもまた、新たな美少女ヒロインを引き連れて。
「パンツがっ」
そんなこっちの複雑な思いも知らず、幼馴染は理解できない呻きをもらす。
ぱんつ? と疑問に思う間もなく、唐突にがしっと体に衝撃がきた。見るとわたしの足首を涼ちゃんの手が掴んでいた。
「丸見えなんだよこのバカッ!」
「けぴょ!?」
おもいきり引っ張られた足首は、無防備にしゃがんでいたわたしの体勢を見事に崩した。魔方陣で出来た穴の淵でお尻をしたたかに打って、涼ちゃんもろとも中へと引きずり込まれ、
「ざまぁみろ! おまえも生涯道連れだ!」
遠のく意識の中で聞こえた勝ち誇ったような声に、もっと早く縁を切っとけばよかったと、ガチで後悔した。
その後、この地で縁付いて地球に帰るのを諦められたら困るという、わたし個人の大きな理由で。
異世界全土を巻き込む勇者と魔王の壮絶な争いの脇で、なんとか勇者に近付こうとする異世界ヒロインたちと、威嚇し、邪魔して蹴散らす凡人幼なじみのわたしとの、凄惨な攻防が繰り広げられることになるのだった。
「──ていうか、何でそんなに嬉しそうなの!? 魔王との戦いきついんじゃないの! 私の為に争わないでポジションはそんなに甘美かコノヤロー!」
「まぁなー! 普段あっさり俺を見捨てるお前が、必死に女たちに立ち向かっていくのを見てるの、めっちゃ楽しい!」
何やかんやでくっついて、帰還後の二人を見たヒロインたちの目から光が消えるエンド。




