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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

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皆殺しの王子様


「クラウス、あんたの仲間に入れて欲しい。」


 あいつに、初めて声を掛けられたのは、繰り返しの数を、もう覚えていない頃だった。


 俺は10歳で傭兵にされた。呪われているから、死んでも今までの記憶を持ったまま、初めて戦場に送り出された日に戻る。


「…お前、歳は?」


「14だけど。何でもするから!俺と一緒に組んで欲しい。」


「俺と同い年だな。その細さで、よく今まで生きて来れたな。」


 俺は相手にしないで、地面に溜まった泥水で返り血を洗い流した。

 戦いにも、殺しにも慣れた。常に誰かの血を浴びている。怖がって皆んな俺を避けている。大人でも話しかけない。

 だから、話しかけた度胸だけは認めてやる。

 でも、背も低い。声変わりも出来ていない、女みたいな細い身体の男と、一緒に戦地に立つ事なんで出来ない。

 繰り返しの中で、名前も知らないあの男は、何度も俺を仲間にして欲しいと言ってきた。

 ずっと無視していたら、暫く現れなくなった。何も気にしないで、俺はいつも通りに生きるために殺戮を繰り返した。

 仲間であろうと、俺を気に食わない奴は全員、戦場のどさくさに紛れて殺した。


「お前、俺の飯に唾吐きやがったよな?」


「やめろ!クラウス!俺を殺したら誰か指揮を取るんだっ。」


 断末魔なんて出させるものか、喉を深く切り裂いた。


「お前の指揮じゃ、この先で全員死ぬんだよ、糞が。」


 部隊の目の前で指揮官を殺した。

 やつの首は皮一枚で繋がっているみたいに、捥げそうだった。俺は笑いながらその頭を蹴り上げて、胴体から離してやる。転がる指揮官の頭を見て、皆怯えている。

 はい、これでこの部隊は俺のもの。

 どさくさに紛れては、撤回だな。堂々と、誰が強者か見せしめるために仲間でも構わず殺した。

 それでも俺に反抗する奴には心理戦だ。何度も同じ戦場に立っている。いつ何が起きるかは、神のように言い当てる事が出来た。

 仲間から恐れられる存在が、次第に〝救世主〟として崇められた。

 俺がいる戦場は必ず勝つ。

 でも何のために戦っているのか、わからない。生きる為だと自分に言い聞かしてはいるが、もう疲れた。いっその事、この地獄で死ねたら良いのに。心の奥底は、そう願っている。


 次の侵略他に向かうため、何日も歩いて移動をした。キャンプ中、真夜中に女の叫び声が一瞬聞こえた。

 気になって、テントを出た。外は特に何も変わった様子は無い。だから余計に、いるはずの無い女の声が気になった。

 1人で見回りをしていた時、茂みから複数人の男達が出て来た。


「オッサン達、こんな時間に何やってんだ?」


 剣を持った俺を見て、皆な青ざめた顔をした。


「クラウス、お前こそ…み、見回りか?あとは俺たちがやるから、お前はもう寝ろよ。」


 1人は辛うじて俺の問いに返事をしたが、他は逃げるように去って行く。

 全員逃げ去った後、茂みの奥から苦しそうな唸り声が聞こえた。

 声のする方に向かう。すると、血だらけの裸の女が仰向けに倒れていた。

 見覚えのある顔だと思ったら、その女は俺に仲間になって欲しいと言っていた奴だ。


「…大丈夫か?」


「…大丈夫そうに、見える?…あいつらに、…骨盤を折られた。もう、動けないの…。」


「俺にどうして欲しい?」


「クラウス…。私を殺して、…こんな地獄から…もう、…早く…死にたいの……。」


「わかった。今すぐ楽にしてやる。」


 剣を握り、女の心臓に狙いを定める。すると、泣いていた顔は、俺を見て嬉しそうな表情に変わった。


「やっぱり…あなたは、この地獄の救世主ね…」


 体重を掛け、急所を一突きし絶命させる。きっと、苦しまないで死ねたと思う。


「あ…。お前の名前、聞くのを忘れたよ。」


 何故、男と偽ってこの戦地に居たんだ?

 きっと、この女は何度もこんなふうに死んでいたのかもしれない。戦地で女は確実に生き残れない、だから身を守るために、俺を仲間にしたかったんだろう。

 あの日の夜がきっかけで、次の繰り返しの時は、あの女を探す事にした。



 しくじった。これが最後の戦いなんだ。

 終われば14年振りに王都に戻れる。

 やっぱり、真冬の北部侵略は難しい。寒さでバタバタと兵が死んだ。中には雪を知らない人間もいたから、寒さの対策が出来ていない。敵の攻撃では無く、自然の力で兵の半分を殺された。

 やっぱり、もっと火が必要だ。吹雪の中でも扱える武器もいる。短期間で侵略をするにはどうすれば良いのか、そんな事を考えながら、凍傷になった足はもう動かない。吹雪の中、雪に埋もれながら、俺は死んだ。


 次に目を開けると、見覚えのある光景。

 10歳の子供に戻って来た。

 俺は悔しくて、「わー!」と叫びながら、面倒見役の制止を無視して、死んだ仲間の剣を拾い敵陣に向かった。

 何人か殺せたら、少し気持ちが落ち着いた。返り血で顔を真っ赤にし、面倒見役の元に戻った。


「お、お前は一体何者だ?閣下からは、殺すなとしか言われて無いが…。」


「オッサン、俺はマリオの子供だ。だから死なねーように丁重に扱え。後、30分後に援軍が来る。それまでオッサンは死ぬな。どっかに隠れてろ。俺が戦ってやるから、その勇姿を仲間に伝えろよ。」


 マリオの子供は嘘だが、援軍は来る。いつも通り、俺を殺してはならないと周りに認知させる事から始める。

 今日は本当に苛立っていたから、剣をしっかり研いで、今度は馬に乗って敵陣に向かった。



「お、お前は本当に何者なんだ?オジサン、怖くなってきたよ…。」


 敵の指揮官の首を持って帰って来た。

 面倒見役も仲間の全員が、得体の知れない子供に驚愕している。


「俺の名前はクラウスだ。おめーら絶対に覚えておけよ。あと、マリオ・ガーランドの子供だからな。上司の子供だぞ、絶対に絶対、丁重に扱えよー。ほら、向こうは雑魚だからたたみかけろ!」


 俺は長槍に敵指揮官の生首を刺し、旗のように高く掲げた。

 「うおーー!!」とガーランドの兵達は士気を高め、敵陣を制圧する。

 自分でもこんなあっさりと、敵陣の指揮官を殺せるとは思わなかった。

 やはり、繰り返した分だけ、俺の経験値は高くなっていた。子供の身体でも工夫次第では、ちゃんと殺しが出来ることを理解した。

 

 言った通りマリオ・ガーランドは援軍を引き連れて来た。

 だが、戦場は敵を完膚なきまでに叩きのめし、完全勝利だ。


「指揮官、お前ではこんな事は出来ない。誰がこの戦いを勝利に導いた?」


 マリオ・ガーランド公爵は、指揮官の胸ぐらを掴み詰め寄った。


「か、閣下のご子息様が、敵の指揮官の首を持って参りまして、あの、それのおかげで士気が高まりまひた!」


 公爵の威圧感に、役に立たない指揮官は怯えながらも頑張って答えた。


()()()()、俺です。クラウスです。あなたの父と名乗れなかったら、ここまで活躍は出来ませんでしたよ?これでお許し頂けますか?」


 生首が刺さった槍を受け取れと、差し出した。

 それを見て、公爵は笑い出す。


「ははは。よく出来た()()だ。こいつは俺が殺したかった1人の息子だよ。リボンを付けて父親に届けてやろう。」


 これは初めてな展開だった。

 何度か戦場から逃げ出したりもした。俺を戦場に連れてきたマリオ・ガーランドが憎くて殺しに行った事もある。だが、戦場以外では俺の命は短命だった。


「全員、良く聞け。今日からこの部隊の最高指揮官はクラウスだ。この戦いで三分の一は侵略出来た。援軍も率いて、敵国を完全に落とせるか?」


「勿論です、お父さま。兵が子供の俺の命令をちゃんと聞いてくれたら、1週間も掛かりません。あと、何人かは敵国のスパイがいますので、この場で殺しても良いでしょうか?」


「ああ、息子よ。お前の好きなようにしろ。子供だからと言って、歯向かう奴も容赦なく殺せ。そして、侵略出来た暁には褒美をやろう。」


 公爵は援軍を置いて、自分の戦場に戻った。

 俺は初日から最高指揮官の座を授かった。そして神童として扱われた。このルートはなかなかに気分が良い。次からはこの流れで進もうと決めた。


 さあ、お次はスパイを殺そう。俺は5人の兵士を選んだ。

 

「く、クラウス様!俺はスパイなんかじゃありません!!」

「私もです!何か証拠でもあるのですかっ?!」


 言う通り、選んだ全員はスパイなんかじゃない。

 こいつらは、あの夜の森から出て来た男達だ。最後まで生き残れない小者だ。せめて今世では、未成年の女をレイプした罪を償えよ。


「戦鎚持って来い、全員俺がやる。」


 全員をひざまずかせ、額を地べたに付かせた。1人ずつ、狙いを定めハンマーを頭にめり込ませた。

 大衆の中で、何の躊躇いも無く子供が大人を次々と殺すのだ。俺は、マリオ・ガーランドよりも恐ろしいと言う事を見せつけた。

 最後の1人が抵抗して逃げ出した。


「誰か!助けてくれっ!!」


 走り出す背中を狙って戦鎚をぶん投げた。ちゃんと命中し、男は地面に倒れ、身体はピクピクと痙攣していた。


「皆さん、父の言う通り、俺に歯向かう者は全員こうなります。見ていて下さい。」


 身体にめり込んだ戦鎚を拾い、何度も振り上げた。人が肉片になって行く過程を披露する。


「はぁ…この身体は疲れるな。」


 ふと周りを見ると、全員が恐れ慄いているのが良くわかる。あまり恐怖を与えすぎると、結託して殺される事があるから駆け引きが難しい。


「全員、良く聞いて下さい。ぼくの言う事を信じてくれたら無駄死にはさせない。戦利品も均等に分ける、戦いの功績が良い者には更に報酬を与える。…だって、ぼくは子どもだから、まだ金や宝石には興味ありません。父さんには秘密ですよ?」


 頑張って子供らしい笑顔を見せた。ざわついてるが、報酬が今までより貰えると聞いて、喜びの声が聞こえた。


 兵を一日休ませ、次の日から目的地に向かう。

 最高指揮官の座を手に入れたが、俺は最前線で戦いたい。

 面倒見役のオッサンを呼んで俺の補佐官として任命した。


「坊ちゃん、副官がいるのに、なんで俺を補佐官にするの〜。」


「坊ちゃんはやめろ。クラウスと呼べ、じゃないと殺すからな。オッサン、名前は?」


「バルドです。…く、クラウス、本当にこの指示通りすれば良いんですか?」


 バルドに、指揮内容を書いた紙を渡した。


「指示通りにしろ、絶対に勝てる。言う事聞かないやつは誰であろうと殺せ。あと、子供の傭兵を集めてリスト化しろ。戦場にはまだ出すな。どんな奴がいるか自分の目で確かめる。」


 あと何人か、俺と最後まで生き残れた兵士を探した。あいつらとは長く過ごしたから、人間性や癖、家族環境まで知っている。


「お前ら全員、故郷で恋人や家族が待っているだろう。俺と組んでついて来い。敵国の王を殺しに行く。俺に従えば、退職金弾んでやるから皆んな家に帰れ。」


 1人1人の、大切な人の名前を出した。半信半疑な奴もいたが、全員ついて来た。


「クラウス、どうして俺は丸腰で平民の格好をするんだ?」


 剣術が上手かったロベルトが話しかける。


「敵は見栄を張って総動員で来る。城にはほとんど兵は居ない。俺たちは臆病者の王が逃げる前に首を取る。ロベルト、俺と2人で芝居をしよう。」


 ニヤリと笑う俺の顔を見て、みんな怖がっていた。

 城は籠城状態だが、逃げ遅れた平民だと言った。子供の俺は泣いた真似をして助けを乞うた。


「助けて下さい!父さんは今、怪我をして戦場に行けません。中に入れてください!」


 簡単に正門から城に入れた。籠城しているとは言ったが、手薄すぎる。


「ロベルト、武器庫まで行くぞ。」


 耳元で話し、彼は俺の言葉に頷く。

 まるで我が家のように、人目を避けて地下の武器庫まで行けた。


「本当に…お前は何者なんだ?」


「何も考えず、俺だけを信じろ。無駄な血は避けたい。玉座にはたった10人しか兵が居ない。首を取ったら開門して外にいる仲間を入れる。」


「こっちも10人しかいないのに城を落とすのか?」


「この城には戦場に出れない老兵だけ、残りは全員平民だ。玉座にいる兵と王を殺せば、もう戦争は終わりだ。敵の兵は捕虜だが、俺たちの兵に加わる者だけ生かす。」


「もう、俺にはお前が子供に見えない。本当は悪魔が取り憑いているんだろ?」


「はは。お前の言う通りかもな。」


 お喋りをやめて、武器を持った。本当は玉座の兵や王も俺1人で十分に殺せる。

 だが、俺が戦ったと言う証人が必要だ。だから、実力のある者を連れて来た。

 言った通り、ロベルトはただ見ていただけ。

 1人で玉座の間を血の海にした。


「ロベルト、見てろ。俺が王を殺す、お前はその証人者だ。」


 格好良く言ってみたものの、子供身体では何度も剣を降らないと首は取れない。大人の身体だったら一太刀で首を刎れたのに…。


「あーやっと取れた。ノコギリ持って来れば良かったなぁ。」


 髪を掴み上げて、生首を持って移動する。


「く、クラウス様、どちらに行かれるのですか?」


「俺はこの首持って戦場に戻る。お前らは城を制圧し、先に戦利品を奪え。玉座の下に隠し扉がある。中には金貨が入ってる。それ持ってお前は傭兵辞めろ。恋人の元に帰れ、もうすぐ子供が産まれるぞ。」


「恋人はいるが、…子供なんて嘘だ。」


「帰って、俺の妄言が本当か確かめろ。ほら、開門するからお前も仕事しろよ。」


 ロベルトの子供は死産だった。いつもあの時、彼女の側に居られたらと言っていた。

 今度はそう出来たら良いなと、心から願う。


 王の首を見た途端、全員降伏した。ロベルトはまだ剣を振ってもいない。簡単に正門が開き仲間が来た。


「俺は戦地戻るが、誰か1人ついて来い。」


 また、長槍に王の首を刺して持った俺を、信じられないような顔で見ている。


「俺が行きます。」


 すぐに名乗り出たのはロベルトだった。


「子供が産まれるんでしょ?一度帰りますが、父親になるんだから、クラウス様の元でもっと稼がないと。」


「…様はやめろよ。クラウスでいい。」


 すぐに馬を走らせた。早く着けば、戦地には無駄な血が流れない。




「おおお!やっとクラウスが帰って来た。」


 バルドは嬉しそうに出迎えた。


「その面だと、俺が不在中に好き勝手されてたな?」


「…仰る通りです。副官がクラウスの命令を無視してて。殺せと言われても、副官の取り巻きが怖くてできませんよ!」


「全員、戦闘は一時中止だっ!前進を止めろと伝達しろ! バルド、ロベルト!副官と取り巻きを達を捕まえるから手伝え。」


 戦闘を一時中断する合図が鳴った。皆守りの体制を取る。

 それを見て、敵は勝機があったと一瞬勘違いをした。

 だが、王の生首を持った男が最前線に現れると士気が下がるのが目に見えた。

 前線の兵は、王の変わり果てた姿を見て逃げ出した。後方にいる指揮官は、まだその首が王の物かわからないでいる。


「た、大変です。たった今、城が落とされたと連絡が入りました。あの首は確かに王です。閣下、どういたしましょうか…。」


「マリオ・ガーランドめ…。息子の首を汚して、送りつけて来た。ゆ、許さない。殺せ!ガーランドの兵は皆殺しだ!」

 

 王の首を持たせ、前線の敵兵に見せるように、自軍と敵軍の間を馬で走らせる。首を持たせた男は、敵の弓矢で呆気なく殺された。

 馬から落ちたのを見届けて、戦闘開始の合図を送る。


「あははは。案の定、副官が死んだぞー。弓兵撃て!」


 俺は双眼鏡で覗きながら、楽しそうに命令を出した。


「3回目の攻撃で弓矢兵は待機しろ。前線で遊んでから、馬鹿な司令官の首を取ってくる。」


 そう言ってクラウスは馬に乗って行ってしまった。


「なあ、あいつ…子供みたいに遊んで来るって言ったよな?」

 

 バルドは思わずロベルトに確認する。


「ああ、クラウスは必ず有言実行するよ。可愛い顔した子供なのに、戦場の天使か?いや、やっぱり俺には、黒い羽の生えた悪魔にしか見えない。」


 バルドは頷き、2人でクラウスの勇姿を双眼鏡で眺めた。

 弓兵の3回目の攻撃が終わった。クラウスは本当に最前線に居た。攻撃の合図を自ら出している。


「駄目だ、もっと近くでクラウスを見たい!俺も行ってくる。」


 ロベルトはクラウスの元へ向かった。


「本当に皆んな血の気の多い男達だねぇ…。」


 バルドは独りで、2人の帰りを待つことにした。



「お疲れ様です。本当に司令官の首まで取って帰るとは思わなかったです。」


「この馬鹿のせいで無駄に血が流れた。もっと捕虜を増やしたかったぜ。あ、王の首は見つたかったか?」


 クラウスとロベルトは司令官のテントで返り血を洗って、着替えていた。


「あー、ボロボロですがちゃんと確保しました。」


「バルド、2つの首をリボン付けて父上に送れ。」


「わかりました。あの、褒美は何貰うんですか?個人的に気になっちゃって〜、教えて下さいよ。」


 クラウスは久しぶりに綺麗なタオルで顔を拭いた。子供らしい笑顔見せて、バルドに答えた。


「今、父上が南の方の国で戦闘している、蛮族の戦闘兵を頂く。リーダーがもの凄く強い奴なんだ。」


 側にいたロベルトも驚いた顔をする。


「へ、ヘぇ〜。そりゃあ、我々の部隊の戦闘能力上がって良いですねぇ…。」


「ああ、後でそいつらの言語を教えてやるからな。あいつらに冬の戦い方を教えないと、何とかあの部族を生かせる事が出来たら、北部侵略の夢が叶う。」


 2人はクラウスが何を言っているのか、わからなかった。


「あの〜、クラウス。…飴ちゃんいります?」


 バルドにもクラウスと同じ歳の子供がいる。飴一つで喜ぶので、試しにと渡してみる。


「あ?いらねーよ、そんなモノ。子供(ガキ)じゃあるまいし。」


(お前はどう見ても10歳の子供(ガキ)だよ。)


 バルドとロベルトは同じ事を思った。

 クラウスはバルドが作成した子供の傭兵リストを見ている。


「あ、最年少で6歳、最年長で16歳までをまとめました。」


 リストの中には懐かしい名前があった。アイザック、ラインハルト、ラウール、ケヴィン…。まだ戦地に送り込まれて居ない者もいる、早く戦友に会いたかった。


「すぐに、俺の前にリストの者を集めろ。」





 バルドは命令通り、子供の傭兵を集めた。

 すぐに俺はアイザックを見つけた。彼は小さな子供と手を繋いでいる。あいつには兄弟は居なかったはず。


「アイザック、そいつはお前の弟か?」


 俺に名前を呼ばれて、馬鹿みたいに驚いた顔をした。初々しいアイザックが新鮮だった。


「はい、そうです。まだこの子はまだ8歳なんです。共に行動しても良いでしょうか?」


 アイザックは連れて行かれると勘違いしている。手を握っている弟は震えていた。


「弟、下を向かないで顔を見せろ。名前は?」


「か、カルロです。クラウス様。」


 髪は雑に短く切られ、顔は泥で汚れていた。汚い子供だが、丸いグリーンの瞳は、一目であの女だとわかった。

 アイザックはきっとカルロが女だと知っている。

 世話好きのお前が、俺の代わりに守っていたんだな。子供の頃から彼は何も変わっていなくて嬉しかった。


「カルロもアイザックも俺の側に居ろ。今から呼ぶ奴も、俺の近くで行動しろ。他の子供達は、これからはまとまって行動する。理不尽な奴や、子供狙う変態は俺が殺す。ちゃんとした戦闘要員になるまで生かせよ、聞こえてるか面倒見役?」


 面倒見役の大人達は怯え、返事をする。


「すみませーん。クラウス様、あの男は子供が好きな変態で何人も犠牲者がいます。殺してくれませんか?」


 アイザックは嬉しそうに、告げ口した。


「おっしゃ、戦鎚持ってこーい。」


 俺は笑いながら、その変態の頭をカチ割った。

 それを見て、違う奴から被害を受けた子供達が次々に告げ口する。

 勿論、全員その場でぶっ殺す。


「わあ、豚の屠殺を見ているようだ。良かったね、カルロ。クラウス様のお陰で、もう狙われる心配は無いよ。」


「う、うん…。」


 カチ割った頭から何か出ているが、カルロは怖くて見れない。アイザックにずっと、しがみついていた。


 

 その夜、俺のテントにはアイザックとカルロを寝かせた。1番偉い奴が使う広いテントだ。初めから良い環で寝られるのは久しぶりだ。


「カルロ、お前は女だろ?何故この地に居るんだ。あ、あと。お前ら俺に『様』は禁止だからな。クラウスと呼べよ。」


「あ、あたしは…。」


 カルロは女だとバレて、怯えて上手く話せない。代わりにアイザックが流暢に答えた。


「クラウス、この子はエルザ。カルロ・ロメス伯爵の次女。俺と同じくルミナス家の奴らに嵌められて没落したんだ。姉は側室が集まる西棟に連れて行かれた。」


 アイザックの話途中に、エルザは抱きついた。家族を思い出し泣いていた。


「僕と同じ施設に居たんだ。女でいるのも危険だから男を装ってたみたいだけど、まさかこんな所に送り込まれるとはね。」


 彼は優しくエルザの髪を撫でている。


「エルザ、お前は俺とアイザックの側にいろ。暫くは男で過ごせ。女を隠せなくなったら、腹括って女で生きろ。狙われるなら、俺の女だと言えよ。」


 エルザは、最後がよくわからないけど「うん」と頷いた。


「わーお。僕と同じ子供なのに、クラウスは大人の男みたいだね。」


 テントから子供達の笑い声が暫く聞こえた。

 外で様子を聞いていたバルドは、クラウスの子供らしい笑い声が聞こえて安心した。

 子供達が安心して寝られる様に、外で見張りをする。

 誰もが寝静まった頃、クラウスは外にいるバルドに近寄った。


「バルド、交代だ。寝ろよ。」


「わっ!クラウスは見張りはいいって。一応、子供なんだから、たくさん寝て成長して下さい。」


「お前が寝ないなら、この後の作戦を話すぞ。」


「え?」


「マリオの元には戻らない、このまま進軍する。この先は小国家が集まる地域になる。互いに不仲な国だから連携は取られない。今日よりも楽勝で侵略出来る。」


 バルドは青ざめてクラウスの話を聞いた。


「ああ、神様。クラウスは閣下を子供の身体にしたみたいだ…恐ろしい。親子揃って血の気が多いなぁ。」


「お前がこれから副官だ。俺が前線に立つから、指示通り指揮しろ。」


 焚き火が弱くなって、薪を投げ入れた。また火の勢いがついて、何故か安心する。

 エルザ・ロメス、やっとお前の名前がわかった。

 もう、あの森でエルザは襲われない。同じ事は繰り返さない。

 俺は何度だって、エルザもアイザックも皆んな探しだす。

 こんな地獄の地で、仲間達の幸せを願ったていいだろ?

 俺を呪った神か悪魔かは知らないが、炎を見ながら問いかけてみた。



 バルドに話した通り、俺たちの軍は落城させた城を拠点に進軍を始めた。

 だが、その年は国1つしか落とせなかった。

 これは問題だ。原因は、まだ戦友が育っていない。

 兵が増えたからには、養うために侵略を進めないと。焦らずに、子供の身体の俺が出来ることを考えた。


「バルド、父上に手紙を書くから用意しろ。」


 初めて侵略出来た褒美は、蛮族の戦闘兵たちを望んだ。だが、願いは叶わなかった。

 あいつも、戦闘兵の価値がわかる。早々に手放さないだろう。

 ならば、最新の銃火器と、蛮族達が使っている毒の情報を渡してほしいと頼んだ。


 暫くして、マリオ・ガーランド公爵からの贈り物が届いた。


「『お前は、神に愛された人間のようだ。欲しいモノを送る』とメッセージがあります。」


 バルドは贈り物の箱を開け、全て違う種類の武器を取り出した。


「え、これだけ?」


「ああ、これで十分だ。解体して図面起こすから複製しろ。これを元にした改良版を量産する。あと、その瓶の中は猛毒だから扱いには気をつけろ。」


「ひえっ、怖っ! え?クラウスは図面も書けるのか?」


 この子供に出来ない事なんて、何一つ無いのだろう。バルドは改めてクラウスの能力に驚いた。

 そして、改良した武器は量産が出来た。

 兵の数で負ける戦も、最新の武器で押し切る事が出来た。その頃には、クラウスはどの戦地に赴いても必ず勝利を掴む。

 敵国には、戦地に君臨する子供の悪魔が居ると噂が広がった。誰かは、その悪魔を見たら死ぬと言ったり。勝てる戦いでも、悪魔が現れたとたんに命を奪われる。だんだんと尾ひれがついて恐ろしい噂が次々と出た。


 一時、故郷に帰ったロベルトが戻って来た。真っ先にクラウスの元に向かう。

 クラウスを見つけ、最高指揮官なのに抱きついた。


「クラウス!戻ったぞ。お前の言う通りだった!子供が産まれたんだ、女の子だったぜ!」


 その言葉に驚いた。自分の知っている、未来が変わったのだ。

 ロベルトの嬉しそうな顔を見て、幸せな気持ちになれた。


「ああ、良かったな、ロベルト。定期的に帰ってやれよ。」




 クラウスの軍は士気が高い。その日限りの傭兵にすら、最高の装備をさせる。捕虜達の扱いも丁寧だった。捕虜達は自ら傭兵になりたいと、殆どが志願した。

 そして、時は過ぎた。

 クラウスが16歳になった時は、すでに小国の侵略は終わっていた。

 現在は大国に挑んでいる。戦友は最高の戦闘要員として育った。誰1人としてまだ死んでいない。


 エルザは14歳になり、身体はもう女性だった。12歳で女を隠す事が出来なくなった。髪は伸ばしていたが、常に一つに結ぶ。女らしい仕草は絶対にしない。

 でも、男しかいない環境で身を守る為に、クラウスの女である事を公言した。俺もそれを認め、エルザに手を出す男は殺すと宣言した。


 ある日、エルザを呼んだ。


「話があるって聞いたけど、どうした?」


 エルザは少し不安な顔をしていた。


「来週の最終戦で、俺たちはやっとこの戦いに勝利出来る。」

 

「はは。凄い、またクラウスの予言だな。」


「…そうだな、俺の予言は必ず当たる。その最終戦で仲間が何人か死ぬだろう。だからエルザ、お前はここで離脱しろ。」


「どう言う事だ?!私が足手まといと言いたいのか?ちゃんと活躍出来ている、この間はアイザックよりも敵を殺せた!」


 エルザは、捨てられそうな仔犬のように、必死で訴える。


「お前だけでも、この地獄から抜け出して欲しい。」


「嫌だ!戦地でしか私はもう生きられない!死ぬなら戦って死にたいんだ、クラウス!」


 俺はエルザに手に、古いロザリオを握らせた。


「俺の名前はクラウス・アラーク。側室の子だが、王家の名を背負っている。それは、母が持っていた物だ。」


「え、…クラウスは閣下のご子息では…。」


「戦が終わったら、次は本土に戻り、北部侵略に移動する。その戦いは3年以内に終わらす。そして必ず王都に戻る。お前には生きていて欲しい。生き伸びて、俺にそのロザリオを返しに会いに来るんだ。」


「…クラウス…なんでだよ…。」


「エルザ・ロメス、お前は伯爵令嬢だろ?必ずその地位を戻してやる。アイザックもだ。俺たちは奪われたものが多過ぎる。必ず取り返し、皆んなで幸せに暮らそう。」


 エルザは泣いていた。何を言っても俺の決定は変わらないと、諦めている。

 俺は持てる限りの金をエルザ渡した。


「エルザ、王都に会う時は、伯爵令嬢らいし女になって来いよ。指差して笑ってやるから。」


 エルザは笑い出した。


「ふざけんな。だが、会いに行く時は最高に着飾ってやるからな。驚くなよ、クラウス!皆んなで幸せに暮らす約束絶対だからなっ!」


「ああ、絶対だ。俺はいつだって、何度だってお前を待っている。」


 最後にエルザは俺に別れのハグをした。初めて抱いた肩は、改めて小柄な女だったんだなとわかった。


 何度繰り返しても、俺はエルザに母のロザリオ渡す事にした。

 俺たちの約束は、いつか叶う日が来る。

 俺を呪った神か悪魔よ、疲れ切ったこの心に、一筋の希望を残したっていいだろ?




 最終戦は、想像していたよりも壮絶だった。

 この戦いにはマリオ・ガーランド公爵も参戦する。


「オラッ!お前ら、俺たちの軍が最強って事を見せつけるぞ!!」


 俺は笑いながら、最前線に突っ込んだ。

 既に、戦場で俺の顔は知れ渡っている。誰もが俺を避け、逃げ出した。


「おいおいおい、背中見せてんじゃねーぞ!男なら正面から来いやっ!!」




「あーあ、今日のクラウス気合い入ってんなー。見ろよ、あの血吹雪。あそこにクラウスが居るってすぐわかるなー。」

 

 バルドはいつもの様に、双眼鏡でクラウスを監視していた。


「ははは。俺たちも、クラウスを守るために頑張らないとね。」


 アイザックは大型の投射武器のバリスタを担当していた。


「クラウスは、脳筋だと思ってたら、こんな武器考えるなんて凄いなぁ〜。」


 クラウスはバリスタを改良し、大型弩砲にした。見た事の無い武器の威力に、仲間も驚いている。


「わー、すご〜い。バルドさん見てよ、雨のように矢が降るの圧巻ですね。」


「ねー。俺らの大将はやっぱ天才だよなぁ。」


  ◇◇◇


「マリオ、あの戦士は誰だ?」


 蛮族のリーダー、マグニが指差して、公爵に質問する。

 すぐにクラウスの事だとわかり、笑って答えた。


「ああ、アイツはずっとお前を欲しがってる子供(ガキ)だ。」


「もっと側で見たい。行ってもいいか?」


「ふん、好きにしろ。」


 マグニは高鳴る気持ちを抑えられない、皆が噂する、戦場の悪魔が目の前で見られる。

 敵も味方も道を遮る者はなぎ倒し、クラウスに近づいた。

 クラウスはマグニに気づく。


「ハロー、部族長。やっと会えたな!」


 クラウスとは初対面なのに、何度もこの男と一緒に戦った気がする。


「これがクラウス…。やっと、わかった。お前が神に愛された男だったのか。」


「マグニ、お喋りは後だ。これが終わったら北部侵略の闘い方を教えてやるっ。」


 まだ成長中の身体で、大男を叩き斬っている。何処からそんな力がみなぎるのか不思議だ。

 マグニもクラウスに負けずと、敵を皆殺しにする。


「イェー!敵将が逃げるぞっ!馬貸せっ、追いかけてぶっ殺す!」


 クラウスは敵陣の馬を奪い、本当に追いかけて行ってしまった。

 マグニは必死になってクラウスを探す。

 暫くして、クラウスは、馬に乗って戻って来た。


「オラー!お前らボスの首だぞー。逃げるなら待ってやるから、今のうちだっ!」


 敵陣の旗を破き、先端に指揮官の生首が刺さっていた。子供の様に嬉しそうに掲げて、見せて回る。

 流石にマグニも、クラウスの異常に驚いた。


「イェー!次は城を落とすぞー!オメェらついて来い!!」


 仲間達もノリノリで、クラウスと前進する。

 そして城はクラウスが開発した、大型の投射武器で簡単に門を壊す事が出来た。

 我先にと、クラウスは単独で城に入り、迷う事なく隠れていた王の元へ向かった。


「お前には恨みは無いが、今回も死んでくれよな!」


 無慈悲に敵国の王の首を刎ねた。 

 クラウスはその首を足元に置き、奪った王冠かぶり、玉座に座って仲間達を待った。

 

「いつか必ず、俺の玉座に座る。王都の奴らは皆殺しだ。」



 だが、最後の北部侵略が成功し、王都に戻れたとしても、クラウスは必ず王妃の毒牙に殺された。

 何度繰り返しても、王妃には敵わない。

 彼はいつまでも、この地獄から抜け出せなかった。




END



【初稿/2025,11,2】

※こちらは、第二章完結後に、本編に移動します。


やっと、やさぐれる前のクラウスを書けました。

本編第二章でクラウスの水に毒を入れたのはロベルトです。


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