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23話 中間テスト

 



「ねぇ先輩、これを見てください」


「これは……」


「これをバラされたくなかったら、アタシに協力してください」


(最悪だ)


 僕は今、後輩の女子生徒によって窮地に立たされていた。もう本当に、モブでありたい僕がモブとしての平穏平凡な学生生活が送れないほどの窮地だ。


「どうします、先輩?」


 悪魔、いや小悪魔が妖しい笑顔で僕に取引きを持ち掛けてくる。

 さて、僕が何故こんな崖っぷちの窮地に立たされているかというと。


 それについて説明するには、少し……いや大分時間を巻き戻さなければならない。



 ◇◆◇



 僕の名前は佐藤太一さとうたいち

「佐藤」というありふれた苗字で、「太一」といった極普通の名前。


 無難な黒髪に、イケメンでもなくブサイクでもなく特徴のないモブ顔。

 身長は175センチ。運動はそこそこできて、勉強の成績もそこそこ。


 家から電車で三十分ほどの平和高校に通っている極普通の高校生二年生だ。


 既に知っていると思うけど、僕はモブとして生きようとしている。

 物語の主人公でも敵役でも、ましてや脇役ですらなく、背景に溶け込んでいるような顔も名も無く目立たないモブにね。


 モブになりたい理由は、人生に荒波を立てず、可もなく不可もなく、平凡平穏な生活を過ごしたいからだ。平穏平凡な生活を送るためには、モブとして生きることこそが一番の近道なんだ。


 そして今も、モブとして生きるためにテストの答案用紙を埋めていた。

 体育祭が終わってから一週間後に中間テストが始まり、今日が最終日で、丁度最終科目を終えたところだった。


 キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴ると、担任の先生が「終わりだ~足掻くのをやめて手を止めろ~」と制止してくる。


 答案用紙を前の席の人に渡し、ちゃちゃっと帰りのHRが終わった途端に教室の空気が一気に解放された。

 そんな中、僕の友達である山田と野口が二人揃って僕の所に来る。


「あ~やっとテスト終わった~!」


「今回もデキは今一だったなぁ、赤点さえ回避できれば御の字だ。野口と佐藤はどうだった?」


「俺も駄目だ~全然書けなかった」


「僕はボチボチかな。少しは勉強したからね」


 と、無難に返す。


【モブの流儀その14】

 予防線を張っておく。


 ここでミソなのは、「全然勉強していなかった」という言葉を使わないことだ。本当に勉強していなくてテストのデキが悪ければ使っても構わない。


 しかし、勉強していないと周りに広言している人に限って実は勉強している人が中にはいるんだ。


 それは悪手である。だって勉強していないのにテストのデキが良かったりするとこの言葉は相手に対して嫌味になってしまうからね。嫌味と捉えられてしまうと、嫌な奴と思われてしまうかもしれない。それはモブとしてよろしくない。


 だから僕は抑えめで勉強したと伝えておく。そうすることで、彼等より良い点数を取っても「佐藤は勉強したんだもんな」と思ってもらえるからだ。


 僕は平均点よりほんの少し上を狙って点数を取りにいっている。

 モブとして生きる為には馬鹿キャラでも秀才キャラでもいけないからだ。目立たない為には真ん中あたりの成績が丁度良い。


「あ~あ、体育祭の一週間後にテストとかやめて欲しいぜ」


「それな。そんな日程で満足な勉強できるかっての」


 彼等の言う通り、体育祭が終わってすぐ中間テストが始まった。

 これでも一応進学校だから生徒達も普段から予習復習をしていると思うけど、二人のように勉強スイッチが入らない生徒も多かった。


 まぁ、グダグダ言ってもしょうがない。嫌なら普段から勉強しておけよって学校からの意図でもあるんだろうしね。


「でもま、これでやっとテストから解放されたし?」


「体育祭の打ち上げっていう楽しみもこの後に残ってるしな! なぁ佐藤!」


「まぁね」


 山田の言う通り、これから僕等のクラスは体育祭の打ち上げをやる。

 何で体育祭の打ち上げをその日ではなくテスト終わりの今日なのかといえば、体育祭で疲れてやるよりも、休日でも平日にやるでもなく、午後丸々使える今日が最適だと判断されたからだ。


 そもそも体育祭が終わってからすぐにテスト期間に入ったので、打ち上げをする雰囲気じゃなかった。それならいっそのこと中間テスト後にしようという話になったんだ。


 最終日の今日は午前がテストで午後が休みなので、思う存分遊べるしね。


 わざわざ打ち上げなんてしなくてもいいし、他のクラスはやってないところも多いけど、このクラスは一応体育祭で優勝したから記念ってことだろう。体育祭委員主導で、クラスメイト全員参加で打ち上げすることになっていた。


 打ち上げなんて凄く面倒なんだけど、【モブの流儀その11 場の空気を読むべし】的に参加は必須だ。クラスメイトや、山田と野口にノリが悪いと思われたくないしね。


 まぁ、用事があったり本当に行きたくなくて参加しない人達も少しだけいるけどさ。


「楽しみね、佐藤君」


「そうだね、蘇芳さん」


 隣の席から僕に声をかけてくる女子生徒。

 彼女の名前は蘇芳アカネ。アメリカから転校してきた帰国子女だ。


 真っ赤な長髪に、モデル顔負けの整った顔とスタイルを兼ね備え、勉強もスポーツもできる才色兼備。ただ座っているだけで絵になる、芸能人ばりの雰囲気オーラを醸し出している美少女。


 そんな蘇芳と僕は、ある勝負することになった。



蘇芳アカネ(わたし)佐藤太一アナタを惚れさせたら私の勝ち』


佐藤太一ぼく蘇芳アカネ(きみ)に惚れなかったら僕の勝ち』



 勝負の内容は、僕が蘇芳に惚れるかどうかというもの。

 三年生に上がるまでの約一年間で、蘇芳が僕を惚れさせたら彼女の勝ち。僕が惚れなかったら僕の勝ち。勝ったら三年生から未来永劫、僕とは関わらないという約束だ。


 何故蘇芳が僕にそんな勝負を持ちかけてきたかは知らない。本人は退屈凌ぎだと言っているが、本当のことを言っているか分からない。分からないが、メリットしかないので勝負に乗ることにした。


 だって、僕が蘇芳に惚れることは絶対にないからだ。それ即ち、勝敗は既に決まっている。モブとして生きたい僕にとっては、障害となる蘇芳は排除しておきたかった。


 というか、そもそも何故蘇芳が僕に目をつけているのか疑問である。僕で遊ぶよりももっと面白い奴は沢山いるのにさ。

「ラブコメの主人公」である八神陽翔とかね。


「お、おい佐藤! 何だよお前!」


「蘇芳さんと凄く親し気じゃねーか! 障害物競走の時といい、やっぱり何かあるだろ!」


「ち、違うよ。ただ席が隣なだけだよ」


 二人に捕まり、小さい声で追及される。

 蘇芳には極力目立つような真似はするなと勝負の条件に入れてあるが、今回はただ声をかけてきたので許容範囲内だろう。それを分かっていて僕に声をかけ、僕が友達に攻められているのを楽しそうな顔で見ているんだ。


 本当に性格が悪い女だよ。


「よ~し、それじゃあ打ち上げに行くぞ~!」


「「いえ~~~~い!!」」


 体育祭委員が先導すると、生徒達もテンション高めにはしゃぎ出す。

 これを利用して「ほらほら、皆行っちゃうよ。僕等も行こうよ」と話題を逸らすように二人に言って難を逃れた。


(ああ……憂鬱だ)


 この打ち上げで蘇芳は僕に仕掛けてくるだろう。アプローチには絶好の機会だからね。モブとして生きるためには、周りに気を遣いつつ回避しなければならない。


 疲れるなぁ。

 はぁ、本当に厄介な存在だよ。



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