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2話 恋愛は地雷爆弾

 



「おはよう佐藤」


「おはよう野口」


「なぁなぁ佐藤、昨日また面白い動画見つけたぜ」


「本当? でも山田の面白いは微妙だからなぁ。一応見させてもらうけどさ」


 二人の男子が僕の席にやってきて、気軽に声をかけてくる。

 眼鏡をかけていてインテリ風に見えるけどそれほど頭がよくない方が野口で、ぽっちゃり気味のお調子者っぽいのが山田。

 野口と山田は僕の友達だ。



【モブの流儀その2】

 無難な友達を作ること。



 モブといったら、ボッチを想像するかもしれない。

 しかしボッチは逆に目立ってしまうからダメなんだ。選択授業が多く一人でいても浮かない大学なら構わないが、集団生活がメインな高校でのボッチは意外と目立つし、集団行動の時に浮いてしまう。


 例えば体育などの授業で二人一組を作る状況とか、修学旅行などの学校行事などでも一人だけあぶれてしまうとか。あぶれた時点で他の生徒に迷惑をかけてしまうし、余計に目立ってしまう。


 だからボッチではなく友達を、そしてグループを作らなければならない。

 特定の友達やグループを作っておけば、ボッチに降りかかる問題を事前に回避できるからね。


 しかし友達やグループといっても、適当ではいけない。

 イケメン集団だったり、運動部のような一軍や二軍では駄目だ。野口や山田には失礼だけど、彼等のように僕と同じモブっぽい三軍の男子と友達になってグループを作ることが重要である。



「そういえば今日野口とゲーセン行くんだけどさ、佐藤も一緒に行かないか?」


「う~ん、ごめん。行きたいけど今日は用事があるんだ。また今度誘ってよ」


「おっけー、用事があるなら仕方がないよな」


「悪いね」



【モブの流儀その3】

 特定の誰かと深い関係にはならない。



 帰りにコンビニで買い食いするぐらいなら問題ない。しかしどこかへ遊びにいったりすると、それだけ同じ時間を過ごすことになる。


 同じ時間を過ごせば過ごすだけ仲は深まるが、些細なことで喧嘩してしまったりそれまでの関係を壊す恐れがある。

 だから友達とは、適切な距離感を保つことが大事なんだ。


「うわぁ~、八神の奴ま~たイチャイチャしてるよ~」


「俺達とそう変わんね~のに、どうしてあいつだけあんなにモテるんだろうな」


「さぁ、どうしてだろうね」


 山田と野口は教室の窓側後ろで繰り広げられているラブコメの光景に視線を送りながら、羨ましそうに唇を尖らせる。


 男なら、あれだけの美少女に一度は囲まれてみたいものだろう。僕は全く羨ましくもないが、客観的に見れば男のロマンと言えなくもない。

 山田と野口に限らず、多くの男子が八神に嫉妬しているだろう。


 逆に女子生徒の反応はというと、スルーを決め込んでいた。というか、寧ろ八神に感謝していることだろうね。


 恋敵になり得るかもしれない美少女達がこぞって、大してイケメンでもない八神一人を取り合っているんだからね。どうぞ勝手にやってくれと言わんばかりのスルーだ。

 まぁ、教室でラブコメを展開されることには少々ウザく感じているみたいだけどさ。


「俺も美少女と青春したい……この際美少女でなくてもいいから女子とお話したいぜ」


「同感。佐藤もそう思うべ?」


「はは、かもね」


 作り笑いを浮かべながら、思ってもいないことを口にする。

 女子と会話? はは、ナンセンスだ。



【モブの流儀その4】

 恋愛をしてはならない。



 高校生活をモブとして生きるための第一前提として、「恋愛」を如何に避けられるかが重要になってくる。

 何故なら「恋愛」とは、それまで築き上げた人間関係を一瞬で木端微塵に破壊する爆弾だからだ。


 高校で付き合ったカップルが卒業してからも関係が続くのは極小数、数パーセントにも満たないだろう。ということはつまり、高校で付き合ったとしても大多数のカップルが別れるということ。


 別れればほぼ気まずくなる。そして一度壊れた関係は完全に元には戻らないんだ。


 彼女個人との関係が拗れるのならまだいい。が、大体は彼女の友人だったり周りの人間とも気まずくなってしまうだろう。


 最悪なパターンは、彼女又は友人から自分に対して良くない噂が学内に振れ回ってしまうこと。考えただけでも恐ろしいよ。


 だから僕は、「恋愛」は絶対にしない。

 しかし、「恋愛」をしないだけでは「恋愛」を完全に回避することはできない。


 どうすれば、「恋愛」を回避できるか。



【モブの流儀その5】

 女子生徒とはなるべく会話を避ける。



 女子と会話をしてしまうと、好意を持たれてしまう恐れがある。被害妄想だ、馬鹿馬鹿しい、大袈裟だと言われるかもしれないが、男女……特に思春期の年頃はいつどんな時に何を起点にして恋に芽生えるかもわかったものではない。


 万が一にも女子から好意を持たれない為にも、女子とは必要最低限の会話に留めておくのが無難だろう。フラグだけは絶対に立ててはならないのだ。


 まぁこれらの要因は、それほど重要ではない。

 女子と会話することで一番厄介なのは、他の男子に嫉妬される恐れがあるということだ。


 仮に僕が女子と会話をしていたとして、その女子に好意を抱いている男子がその場面を見たら良い気分ではないだろう。接点のない男子から嫉妬されるなんてたまったものではない。


 その相手がイケメンだったり運動部などの一軍二軍だと尚最悪だ。「お前最近調子に乗ってるだろ」などとテンプレな言い掛かりをされたら面倒臭いったらありゃしないよ。


 さらに言えば、野口と山田が好意を抱いている女子が僕と会話するのは一番あってはならない。折角作った友達から嫉妬されるなんて嫌だからさ。


 今のところ二人に特定の好きな人はいないみたいだけど、好きでなくとも可愛い女子と僕が会話をしていたら嫉妬するかもしれないし。


 学校生活を平穏平凡に過ごす為には、「恋愛」をしないことと、「女子生徒と会話をしない」ことなんだ。


 と、このように学校内は地雷爆弾に満ち溢れている。

 常に気を張り詰めておかないと、いつ自分が地雷を踏むか分からない。一つのミスで、折角作り上げたモブの立ち位置が崩壊してしまうんだ。


「ホームルーム始めるぞ~」


「おっと、もうそんな時間か。じゃあまた後でな」


「授業中にもっと面白い動画見つけておくぜ」


「はは、没収されても知らないからね」


 担任がやってきて、二人も自分の席に戻っていく。

 僕は一限目の授業の準備をしながら、バレないように教室全体の空気を観察した。


 うん、今日もいつもと変わらなそうだな。



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