とある装置
ある日、アール博士の研究所に、友人のエヌ氏が招かれた。
エヌ氏は研究所内を見て回り、そしてある部屋にたどり着いた。エヌ氏は不思議そうな表情を浮かべて言う。
「この部屋にはレバーしかないようですが」
「はい、レバーだけです」
「このレバーを引くと何が起こるんですか」
「何だと思いますか」
「うーむ。わかりませんなあ」
「もし当てることができたなら、大金を差し上げましょう」
「それは本当ですか。では当てて見せましょう。うむむ……」
エヌ氏は腕を組み、悩んだ。悩んだ末に出した結論は、「部屋拡充装置」。
しかし、アール博士は首を横に振った。
「残念ですな。ハズレです」
だが、エヌ氏は悔しそうな素振りを一切見せなかった。
「博士の発明品は奇抜ですからなあ。考えるだけ時間の無駄だったかもしれません。で、正解は何なのですか」
「それでは、お教えしましょう。なんと、これは幽霊発生装置なのです」
「ほお、実に面白いですな。ところで、この装置はどういった時に使うのですか」
「心霊屋敷や、あまり人を近づけたくないような廃墟での使用が目的ですかな」
「なるほど。既に商用化を見越していらっしゃるんですね」
「ただ、まだ実験さえしていない状況なので、実際にどのようになるのかは神のみぞ知るということなのです」
「では博士、ここは一つ私で実験してみてはいかがですか」
「なに。客人を実験に巻き込む訳にはいきません」
「いいじゃないですか。客人たっての希望なんですから」
博士は腕組みをし、顔をしかめた。
「では、約束して下さい。何が起こっても自己責任ということで……。無論、万一何かが起これば、我々が全力であなたを助けます」
「分かりました。いやはや、博士の実験台になれるとは真に光栄ですなあ」
エヌ氏は、まるで子供のように目を輝かせた。
「では、私は部屋の外で助手とモニターしています。準備が出来次第、お声をかけますので……。それと、この懐中電灯をお持ち下さい。部屋を真っ暗にするので」
かくして、実験の準備がなされた。
エヌ氏は期待に胸を膨らませ、懐中電灯を片手に今か今かと待ち構えていた。
「準備が完了しました。ではそのレバーを下に引いて下さい」
それきたと言わんばかりに、エヌ氏はさっとレバーを引いた。すると、部屋が真っ暗になり、どうも気味の悪い雰囲気が漂い始める。
「む、何かの気配がするぞ。早速、幽霊のお出ましか」
懐中電灯を四方に向ける。が、まだ何も出てはこない。
ふと、背筋が寒くなった。
「コロシテヤル……」
突然の冷ややかな声。反射的に後ろを振り向くエヌ氏。
「うわああああ!」
エヌ氏は恐怖のあまり絶叫し、その場で倒れて気絶してしまった。
これを別室のモニター越しに見ていたアール博士と助手が、急いで実験室に駆け込み、エヌ氏に駆け寄った。
「おい、しっかりするんだ。おい」
その声に、エヌ氏は意識を取り戻した。
「う……は、博士……」
「大丈夫かね」
「いえ、まさかあんなリアルなものだと思いませんでした。博士の実験の凄さを身をもって知りましたよ……」
アール博士に頭を抱えられながら、淡々と話すエヌ氏。
「あの髪の長い女。殺してやるなんて言って、私のことを物凄い形相で睨み付けて……今思い出すだけでもおぞましい。あまりにも現実的で、予想だにしないリアルさだったので、この有り様です。本当にすみませんでした」
それを聞いたアール博士と助手は、顔を見合わせた。
「どうかしたのですか」
「いやね。さっきの実験、実は失敗だったのです」
「はい、私のせいで……」
「いえ、あなたのせいではありません」
涙ぐむエヌ氏を見つめながら、アール博士は続けた。
「実は、システムがエラーをはき、装置は起動すらしていなかったのです。それに、そのような女性はプログラムには含まれていません。あなたは、きっと悪霊か何かに取り憑かれているのでしょう。一度、祈祷師に見てもらった方がいい」




