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静かな森で

作者: 音無悠也

人間が様々な発展を遂げていく中でも、人間が立ち入ることを拒んでいるかのような領域が存在する。

ここの、恐ろしいくらいに静かな森もその一つなのかもしれない。

といっても、本当に静かなわけではない。


ここにも森の動物たちは生きているし、木々の音ももちろん聞こえる。

それでも、この場所が静かな森と呼ばれるのは別の理由がある。


この森の真ん中に湖がある。

そこにはどんなに強風が吹き荒れる時でも波が起きず、凪いでいる状態だそうだ。

しかし、それを目撃したことがある人間は限られており、話を聞こうとすると決まって


「あれは、聞いてはいけないものだよ」


とその一言で話を終わらせるらしい。

しかし、唯一近くの街の家に手記が残っているらしい。

私はそれを見せてもらうために、この街にきた。

私自身、仕事のために来ているというのもあるが、元々こういったものは大好きなので記事に出来なかったとしても個人的なものとして、まとめておきたい。

そんな思惑もあって、取材という名の趣味にきた。


「突然すみません。こちらに、静かな森についての情報があるとお聞きしてきたのですが…」


インターホンを鳴らして出てきたのは普通の女性。

てっきり、おばあちゃんが出てくるものかと思っていたので、拍子抜けしてしまったがそこは関係ない。


「確かにありますが…正直、あそこに出向くのはお勧めできませんけれど…よろしいですか?」

「大丈夫です、何か良くないなと思ったら引き返すつもりなので、情報だけでもよろしくお願い致します。」


最終確認のようなものをされ、客間に通される。

立派な家だ…。

女性はお茶を出すと、押し入れから博物館でしか見たことないような木箱を取り出し、開けると何かの動物の皮で作られた手帳を出してくれた。


「これは祖父が書き残した手記です。祖母も多少書いているそうです。最後の方には父も書き連ねています。」

「お父様もこちらを読んで…?」

「父は実際に現地にまで行き、何かを見聞きしてここに書き残して行方不明となりました。それ以降、この手記の中身は私は読んでいませんし、親戚一同も見ていません。見たのは貴方同様、メディアの方や興味本位でいらした方のみです。」


きっと、当の本人たちからしたらただの呪いの手帳でしか無いんだろうな。

少し複雑な心境ながらも、手帳を開いてみる。

そこに書かれていたのは、いかにも男性!が書いたような雑な文字と綺麗な文字が交互に書かれていた。

きっと、ここの部分はお祖父様とお祖母様が書いた部分なのだろう。

言葉の言い回しなどが少し古い。

所々、良く分からない表現が混じっているのでかいつまんで、まとめると。


「この森に立ち入ること自体は何の問題もないようだ。しかし、ある一定の距離以上の森の奥地に踏み入ろうとすると得体の知れない気配に包み込まれる。お祖父様はそれでも探索を続けていたが、お祖母様はこの時点で引き返してきた。その後、1週間ほどで帰ってきたお祖父様は、家族との時間を過ごした後、必要最低限の外出以外せず、ずっと書斎に引きこもり何かを書き続けている。この手帳自体も私との共同とはいえ、こまめに書くあの人が何を書いているのだろうか?〜書き終えたのかスッキリした顔で出てきた彼は息子に一冊の本を手渡し、『この先はお前に託したぞ』と、言ってそれ以来、森については語ってくれなくなった…」


お祖父様とお祖母様の内容はこんなところだ、1ページ空白を挟んで次は比較的新しい文字で書かれ始めている。

おそらく、ここからがこの女性のお父様の内容なのだろう。


「父と母の内容を見て、この森の奥深くまで来たのはいいが、父が言っていたような変化や現象は未だ起きていない…何か条件でもあるのだろうか…」

「奥地を歩き回ってみてようやく、湖に出た。しかし、こんなに大きな湖がこの森にあったなんて…湖の周りを歩こうとしたが、歩き始めて気づく。森の規模に対して湖が大きすぎる。父の言っていた不思議な現象はこれのことか…」


その後は帰ってきたようで、その道中のことが少し書いてあるだけだった。

今の所、手帳に書かれていることだけを読むと、そこまで怖さや得体の知れない感覚などは出てこない。

むしろ、なぜこれだけの怪奇現象でこの森は別名が付けられるほどの森になり得たのかが不思議だなぁ…。

どっかしらに、とてつもない何かが隠されているような気がする。

確信はないけど私の中の何かが呼びかけてくる。

同時に何か悪いものがあるわけでもないとも思う。


きっとこちらに害を与えてくるようなことは無い気がする。

今までいろんなところを見てきた私の勘が告げている。

その後も奥様から色々と話を聞かせてもらい、今日のところは一泊する事に。

翌朝、早朝から森に行くために準備していると、おじいさんから話しかけられた。


「おまえさんや?森に行くのかい?それならば、このナイフを持っていくといい。これは、この街に伝わるお守りじゃ」

「そんな大事なもの…良いんですか?」

「このナイフがそう望んでいるように感じるからの…できれば湖まで共に行ってやってほしい。」


そうして、ナイフを預かり準備を終えて森の入り口へ。

心なしか気分が軽くなっているような気がする。

やっぱり、この森にあるのは邪気とそういう良く無いものではない。

道中はもちろん迷わないように、目印をつけながら進んでいく。

そうすると、例の湖にぶつかった。

しかし、手帳に書いてあったようなほど大きくなく。

反対側が見えた。

そしてその奥に、古びた神社もある。

もしかしてこの森は何かの神様などを祀っているところだったのではないか?


「それにこの湖の周り…空気が澄んでて落ち着く…」


湖沿いに進み、神社へ。

そこに足を踏み入れると、景色が一変し一面花畑の森に。

あの森は、この場所を守るために入ってきた人を惑わして、時に記憶を消したりしていたのだ。


「そりゃあ、これを外に伝えるわけにはいかないなぁ…」


ここにきた人たちが、一様にきた事に対してのコメントや話をするのを避けていた理由がなんとなくわかった気がした。

これの情報を無闇に外へ持ち出すべきではない。

本能でそれは理解できた。

けれど、それにしても、こんなものがここにある理由がわからない。

正直気になるところではあるけれど…気にしたら負けか…


そして、おじいいさんのナイフに導かれるように奥地に進んでいくと。

小さな祠の前に辿り着く。

本来なら、とっくのとうに森のエリアからは出ているレベルで歩いてきてはいたが、今更そんなことは気にならなかった。

おじいさん、絶対これ知ってたなぁ。

ここのこと知ってて、私にこれを渡したんだろな。


その祠にはよく分からないが辛うじて読み取れる文字だけを拾うと。

狩猟・極・眠

きっと、狩りが上手い人がここに眠っているのだろう。

なぜだかは考えない、考えない方がいいような気がする。

その祠にナイフを返して、私は引き返して森を出た。


その道中も私が、歩く音以外は何もしなくて。

湖を波一つたたなくて。

どこまでも静かな森を私は出ていく。

誰にも伝えず、静かにその地を去った。


その森は、静かな森。

どこまでも広がる湖とともにいつまでも美しい自然を守っていく森。


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