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Beast in the City ❖ RE:CONNECTION  作者: 貴葵音々子@カクヨムコン10短編賞受賞
Case file 1:ファースト・スターミッション
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Act.1 Love Bomb Magic-愛の爆弾-(2)

『おぅ♡ じゃないっ! こんな時までイチャついてんじゃないわよ!』


 キーン! と耳を(つんざ)くような金切り声がパクトから放たれた。二人だけの甘い世界に業を煮やしたミラージュである。シティガードの末端企業【セキュリティ()コネクト()サービス()】の女社長であり、クセツヨ従業員五名を束ねる若きエルフ族だ。


『マホロくん、万が一間違えたらガルガも一緒に吹っ飛ぶのよ? いいの?』

「う……」

『ガルガも。簡単に絆されてないで、マホロくんを守りたいならしっかり手綱を握っておきなさい』

「……わりぃ」


 昔馴染みでもあるミラージュにかかれば、この通り。マホロとガルガにとってお互いがお互いの弱点であるとよく理解している。幼い頃から親しくしていた近所の世話焼きなエルフのお姉さんは、今も二人にとっては実の姉のような存在だ。どうにも頭が上がらない。


『それにこのまま無事に事態を収めたら、ショッピングモールの運営会社が報酬を上乗せしてくれるって! いい? 絶対にしくじるんじゃないわよ!』


 目を通貨の模様にして興奮気味に語るエルフなんて、世界中どこを探してもミラージュしかいないだろう。常日頃から金策に奮闘している貧乏社長業のため仕方がないのだが、様々な伝承を通して美化され続けてきた種族へ向けられる憧憬が、粉々に崩れてしまわないか心配だ。


 それから金に目がくらんだ社長からの不純な叱咤激励を受け、爆弾処理は順調に進んだ。

 しかし、最後の最後にとんでもない事実が発覚する。


「おい、コードが二本余ってるぞ!」


 タイマーが進み続ける爆弾を見下ろして、尻尾を逆立てたガルガが叫ぶ。順当に行けば全てのコードを切り終わって解除されるはずが、赤錆色と紺色のコードが残ってしまったのだ。


『嘘だろ!? んなわけ……』

「でも実際余ってる! どっかで指示間違えたんじゃねーだろうな、スネーク!?」

『犯罪グループが使ってるその手のアーティファクト爆弾は流用タイプがほとんどなんだよ! ……もしかして、新型か?』

「クソッ! ミラージュ、犯人の取調べはどうなってる!」

『スピアお姉様とマリちゃんが見るも無惨にボコボコにしてるわ! 二分で吐かせる!』

「一分だ! 残り時間がもう三分切ってる!」

『おっけぇええええ!』


 ミラージュとスネークはパクトを持ったまま全速力で走り出した。保安局のパトカーのサイレン、報道中継するマスコミの雑音。パクトの拾った様々な音が慌ただしく駆け巡る。


 ガルガは地の底まで抉りそうな大きな溜息と吐くと、長い足を畳んでしゃがみ込んだ。前髪を乱雑に掻き毟る様子を、相変わらず静かな緑の目が見つめる。


「無駄だよ。三分ならあいつらの口の堅さの方が有利だ。嘘だって吐ける」

「じゃあこのまま大人しく吹っ飛ばされるのか? ふざけんな」

「もちろん、そのつもりはないよ」

「……マホロ?」


 何を思ったのか、迷いのない手が赤錆色のコードにハサミを添えた。

 身体中の血が一気に抜けたように悪寒が走ったガルガは、とっさに彼の手を叩いてハサミを奪い取る。


「何してんだ!」

「どっちにしろ確率は二分の一でしょ。なら自分で決める。ガルガ以外の他人に命を委ねるなんてごめんだ」


 この期に及んでまるで死を恐れていない少年は、憤る相棒に「返して」と手を伸ばした。

 だがガルガは意地でもハサミを返すつもりはなかった。時間は少ないが、まだある。二分の一の確率を少しでも増やせる猶予がほんのわずかでもあるなら、それに賭けたい。


「ガルガは本当にいい子だね。僕のことを心配して、そうやって意地悪するんでしょ?」

「意地悪じゃない。お前がちっとも自分を大事にしないから、俺が代わりに心配してやってんだろうが」

「そうだね。いつもそうだった。ガルガのおかげで僕は今日まで生きてこられた」


 最後の言葉を告げられているのだと察して、ガルガは奥歯を強く噛みしめる。


 群れからはぐれて餓死寸前だった生まれたばかりのウルフ系獣人族をマホロの父親が保護して十六年。本当の兄弟のように過ごしてきた二人には、他者が入り込めない確かな絆と()()()()()がある。


 二人の関係を歪めてしまったのは自分のせいだと、ガルガはずっと負い目を感じて生きてきた。だから何に代えてもマホロを守り、いつだってマホロ以上にマホロのことを想う。そうでもしないと、彼の父親の墓に顔向けできない。


「……意地悪してるのはお前の方だ。俺が絶対に断れないのを知ってるくせに、いつも無茶な要求ばっかりしてくる」

「ひどい、まるで僕がいじめっ子みたいじゃないか」

「……なぁ、どうしてもって言うなら俺が切るから、マホロはなるべく離れて――」

「それはだめ」

「……やっぱりいじめっ子だ」


 無欲なガルガが望むのはマホロの安寧だけなのに、彼はいつも自ら危険に突っ込んでいく。()()()()()()()()()()()()()()()、平気で自分の命を軽んじる。そんなマホロを守るのは容易じゃなかった。ガルガはいつだって彼の無茶と無謀に振り回されてきたし、この瞬間だってそう。そんな時はいつも決まって――……。


「――仕方ねぇな」


 そう言って、ガルガはマホロの無茶を叶えようとするのだ。


 ハサミを手渡し、何よりも大切な人の隣に膝をつく。二人はお互いの目を見て頷くと、赤錆色のコードへ刃を添えた。一拍遅れてパクトのスピーカーからミラージュが叫ぶ。


『奴らが吐いたわよ! 正解は紺、紺を切って!』


 証言の真偽を確かめる手段は、もう一つしかない。


「紺だって言ってるよ? ガルガ、僕を信じていいの?」

「好きにしろよ。それに――……俺の助言を全く聞かねぇお前が他人の言う事をすんなり聞く方が、なんかムカつく」

「……ほーんと、かわいいねぇ」

「はぁ!? どこが!?」

「そういうところ」

『いいかお前ら、紺だぞ、紺! ……なぁオイ聞いてんのか!? 死ぬ間際だからってここぞとばかりにイチャイチャすんな! 勝手に二人だけの世界に行ってんじゃねー! ……オォォオ゛イ!!』


 スネークの怒号を歓声にして、二人はウエディングケーキ入刀よろしく、赤錆色のコードに刃を立てた。






◇◆-------------------------------------------------◆◇



<用語解説>


【セキュリティ・コネクト・サービス(SCS)】

 設立三年目の比較的新しいシティガード。個人経営の小さな会社で、オフィシャルの称号獲得を目指して日々奮闘中。

 だがメンバーリストを見れば、百年戦争で名を馳せたエルフの女傑や、最強種族と謳われたドラゴンを絶滅寸前まで追いやった幻のパペット族が名を連ねている。ビースト契約済みの獣人族、しかもシティ唯一のウルフ系という変わり種まで揃っており、保安局の受付嬢たちはその活躍に注目している。


 ――SCSエージェントリスト――

 ミラージュ :亜人種エルフ族/女性/推定百歳。

 マホロ   :祖種ヒューマ族/男性/十七歳。

 ガルガ   :亜人種ウルフ系獣人族/男性/十六歳。

 スピアライト:亜人種エルフ族/女性/推定五百歳。

 マリオネット:魔界種パペット族/性別不明/年齢不詳。

 スネーク  :竜種リザードマン族/男性/二十九歳。

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