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5 南棟3階の階段教室③

「えっ………」

 ユーラにとって、今のルークの言葉はかなり魅力的なものであった。けれども、今日会ったばかりの人物に対する警戒心もある。

 さっきのロゼとのやり取りを見ると、この先生は気をつけるべきかしらーーーーー。

「ま、興味があればだがな。もし、エウリュ語を勉強したければ、明後日の昼食時間に来い」

「でも、明後日は魔法歴史学の授業は無いはずですが……」

「ああ、だから昼食時間なんだろ。俺は基本的に此処にいるからいつでも良いが、君は明日は休日、明後日は別の授業が入っている。君が空いている時間は昼食時間しかない。学友とランチをしたければそうすればいいし、気が向いたなら此処に来ればいい」

「ありがとうございます。では、失礼します」

 結構、勝手な理論で話をしているルークが、こちらをじっと見ている瞳の奥で何を考えているのか、ユーラには全く分からなかった。


✳︎✳︎✳︎


 寮の食堂で夕食を1人で食べながら、ユーラはルークの所に行くかどうかを考えていた。

 ユーラにとっては、ちょうどエウリュ語の学び直しをしようと思っていたので、ルークの誘いは正直願ったり叶ったりな話である。

 エウリュ語を勉強できるだけではなく、あの階段教室に入られるってことも、嬉しいことよね。だって、授業の前にしか入られないから、今まで以上に本が読めるかもしれないし。けど、あの先生の真意が分からないわーーーー。

 デザートのタルトを食べようと目線を上げると、ロゼがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

 先程ぶりだったが、目が合うとロゼはいつも通りにこっと笑ったので、ユーラはほっとした。

「さっきはごめんな」

「ううん。大丈夫。それよりも、ロゼは大丈夫なの?」

「まあ、大丈夫かな。確かに、あの先生の言うとおり、浅はかだったのはこちらだからな」

 ロゼはユーラの隣に座ると、持ってきた紅茶をゆっくりと飲み始めた。それに合わせて、残りのタルトをユーラは口にした。

「でも、そんなに警戒しないといけない状況なの? 私には状況が見えないのだけど」

 きっと小声で話したほうがいいだろうと思い、ユーラは聞いた。

「……そのことなんだが、ユーラには伝えておいた方が良いかなと思ってね。ただ、寮の中だと誰が聞いているか分からない。だから、明日一緒に出かけないか?」


✳︎✳︎✳︎


 出かける支度をして寮の外門まで来ると、すでにロゼが待っていた。用意されていた馬車に2人で乗り込む。

「馬車を準備してるってことは、ちょっと遠い所に行くの?」

 行き先は聞いていなかったので尋ねると、ロゼは魔法騎士団の本部に行くからねと告げた。

 魔法騎士団の本部ということは、あの素晴らしい書庫がある場所ね!!!

 ユーラは心を弾ませた。

 しばらく授業の内容について話をしていると、目的地に着いたことが告げられた。

 ブランノワール魔法騎士団の本部は、とても高い塀に囲われた城塞である。そのため、街から少し離れた場所に置かれている。

 そう簡単に訪れることができる場所ではないが、今日は事前に連絡をしていたのか、すんなりと入ることができた。

 馬車から降りると、お迎えの騎士がいた。

「ロゼルト様、お待ちしておりました。総団長がお待ちです」

「ありがとうございます。じゃあ、行こうか。ユーラ」

 総団長と会うとは聞いていないけど。

 そんな表情をロゼに向けると、困った顔をしたが、そのままついてくるよう促された。


✳︎✳︎✳︎


「久しぶりだな。ユーラ」

「お久しぶりです。ハロルド様」

 きちんとした姿勢で挨拶をすると、ハロルドは微笑みながら椅子に座るよう伝えた。

「学術院の新学期が始まって早々、申し訳ないのだが、ユーラにお願いがあって来てもらったんだよ」

 言葉と同時にテーブルに示されたのは、以前ロゼから借りたブーゲンビリアの古い魔術書だった。

「実は魔法騎士団の中にエウリュ語が読める人があまりいなくてね、それでロゼルトからユーラがエウリュ語を読めると聞いたので、これの解読をお願いしたくて来てもらったんだよ」

「ですが、私は読めると言っても、大体と言ったほうが良いくらいの程度でしか読めないですよ。きっと魔法騎士団にいらっしゃる方のほうが読めると思うのですが」

 エウリュ語が読めることをロゼはなぜ教えたのだろうと疑問に思いながら、ハロルドのお願いに対して質問をした。

 だって魔法騎士団って言ったら、優秀な方々の集まりなのだから、私より絶対に読める人がいるはずなのに。どうして、私に?

「読める人物たちは皆、『白の魔法師』を捜すためにここにいなくてな。それで君にお願いしたのだよ。その分の報酬はきちんと払うから、お願いできないだろうか?」 

「ユーラは確か魔法騎士団の書庫に興味があると言っていたよな?」

 横に座っているロゼがちょうど良いタイミングで間に入ってきた。これがきっとロゼがハロルドに、ユーラがエウリュ語を読めることを伝えた理由だろう。

「そうか。なら、その魔術書を解読している期間、ここの書庫への出入りを特別に許可しよう」

「えっ! 本当ですか?」

「ああ。ただし、これについても条件をつけよう。書庫にある書籍もだいぶ増えてしまっていてな。蔵書の確認作業ももしできたら、してくれないか?」

 ハロルドからのお願いは、ユーラにとっては夢のような話である。なんなら、今すぐ学術院に休学願を出してしまって、書庫に住んでしまいたいくらいだった。

「学術院のこともあるから、なかなか時間が取れないかもしれないが、引き受けてくれないだろうか?」

「はい! よろしくお願いします」


✳︎✳︎✳︎


 2人は早速、書庫に行くことにした。

 ロゼはここに何度も来ているようで、書庫へは難なくたどり着くことができた。

 見るからに厳重な造りになっている扉に、先程ハロルドから教えてもらった『鍵』を挿した。

「ーーーっ?」

「ロゼ、どうしたの?」

「いや、鍵を回そうとしてるんだが、なぜか回らないんだ」

 ロゼは一度鍵から手を離し、再び鍵を回すために手を掛けたが、やはり回らない。

「代わりにやってみる?」

 次にユーラが鍵に触れてみると、鍵穴の奥で何かが動くのが感じられた。そして、ゆっくりと鍵を回す。

 ガチャーーーーーー。

 ロゼがやっても全く動かなかったが、今簡単に鍵が回り、扉を開けることに成功した。

 ゆっくりと扉を開くと、部屋中所狭しと本が並んだいる。棚に入らないものは、テーブルやら椅子の上に積み上げられている。あまりの多さに、ユーラの表情がキラキラと輝きだした。

「…………これは噂以上だな」

 隣にいたロゼも呆気に取られている。

 二人が部屋に入ると扉が勝手に閉まり、大量の本に囲まれた状況となった。

「ロゼ、ありがとう! もう夢のようだわ! なんか、私の日常がいろいろ上手くいきすぎているわ」

「それはどういうこと?」

「だって、魔法騎士団の書庫に入る許可もいただいて、明日は南棟3階の階段教室にも入れるかもだし」

 ユーラの言葉に、ロゼが険しい表情を見せた。

「……どうしたの? ロゼ」

「……昨日、話したかったことだけれども、あのルーク先生には気をつけろよ」

 いつになく真剣なロゼの表情に、ユーラは驚いた。

 さらにロゼは続けた。

「それと、ヒューゴについてもだけど、ルーク先生が言っていたことは事実だ。他国の国王に近い立場の者が学術院に編入し、『白の魔法師』の情報を得るために動いている」

「うん」

「そして、ヒューゴがそうであるように、情報を持っていそうな人物ーー例えば、ユーラ、君に近づいてくる者がこれから増えると思う」

「えっ、どうして?」

 ユーラは学術院に入学してからの3年間、学問も魔法も武術もそこそこにして、ほとんど本しか読んでいない。特別なことはしていないはず。

「君は自分の価値を分かっていないよ。世界中の書物が集まるブランノワール学術院の本を読み尽くしているということは、世界の歴史や魔術史など何でも知っているということになる。それはとても尊いんだ」

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