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旅の途中で料理を作り、街にいる時に買い出しに出て、またダンジョンに潜る。そんな日が続いた。
最初は一人での買い出しだったのに、「わたくしもお料理覚えたいですわ!」なんていうマジェスティと、「ついてってやらない事もないわ。あたしが食べたいものも買いなさいよ!」そんな事を言いながら、アテナも護衛も兼ねてと、ついてくるようになった。
『戦闘職だし…、護衛いらないんだけどなぁ』
そう思いながらも、好きなものを聞いて作る分、献立を考えなくて済むなぁと、ついてきてもらっている。
「あたし、この間作ってくれたお肉をミンチにして固めたの…、また食べたいわ!」とか「この野菜苦くて苦手」とかアテナは好き嫌いが多い。それらを工夫してどうしたら彼女に食べさせられるかが、目下の目標と化している。
肉の塊を買い、干し肉ほどではなくとも、全体に火が通る程度に木で燻し、燻製にし持ち歩くなどして、料理の幅を広げている。
保存食として、しっかりとつけた塩味と、香辛料特有の香りと旨味でスープに入れたり、卵と焼いたりするだけで味に深みが増す。
「どうしたら、こういう調理法学べるのかしら……」
マジェスティが不思議そうに首を傾げる。
「私は以前エルフの里の教会でクレリックとして生きていましたから。いつも充分な糧に、恵まれる訳ではないので、保存していたのですよ…」
「生活の知恵ですね……! わたくしにも教えて欲しいですわ!」
「私には、魔法より生きる術が大切だっただけですよ」
「でも、そんなに大事な日常なら、なんで冒険者になんかなったのよ」
戸惑いもなくアテナはそういった。
「私は里にいられなくなったのです…。居られるものなら骨を埋めるつもりでしたが……。許されませんでした…」
「なに? あんたを見初めたやつが闘いでも始めたの?」
「アテナ!」
からかう様にそういうアテナに、嗜めるようなマジェスティ。そんな彼女達に
隠し切れないやるせなさの籠もった、力ない笑みを浮かべると何かを察した様だった。
「そう…、見目が綺麗だと、あたしよりもずっと幸せなんだと思ってたわ…。ごめんなさい…」
「いいの。誤解はとけたのでしょう? 不幸ではないもの。両親たちに愛されて幸せだったもの…。ただ第三者の望んでいない想いに振り回されただけ…」
家族が懐かしくなって、淋しげに笑うと、アテナとマジェスティが腕を組んできた。
「あの……?」
「今回のダンジョン攻略はミリアムさんの好きな物を食事に選びましょう? わたくしも手伝いますわ!」
「あたし達がいるんだし、淋しがってる暇なんてないわよ! 覚悟してなさい!」
「偉そうだけど…、アテナなりに慰めているんですわ…」
残念そうにマジェスティが言うと「うるさいわねぇ!」とアテナが噛みつく。
少し温かい気持ちになりながら、買い物を続ける私達だった。