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ガーディアン~天空の約束  作者: 黒坂 志貴
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辺境の島3

目まぐるしく日常が季節と共に過ぎ去り、生まれてビックリの双子だったカイナの弟達、フドウとアイゼもあっという間につたえ歩きからよちよち歩きになったと思ったら、たまに小走りまで入れてくる油断のならない成長を遂げてきている。

砂浜のちょうど大木と岩で日陰の出来る場所にゴザを敷き、浅瀬を柵で仕切った簡易プールに子供たちを放牧しながら、カズーとライラは畑で採れた大量のドウレン豆の皮を剝いている。

煮て潰し、薬味を入れて薄く伸ばして干せば、夏でも日持ちのする食料になる。そのまま食べられるので、携行食としても重宝し、使い勝手が良い。

薬味を変えれば味のバリエーションも増え、見た目より腹持ちが良いのも便利なところである。そして少し甘味を加えれば子供のおやつにもなって、子育て家庭においては忙しい時期や手が離せない時に繰り出される「小腹空いた」攻撃の即戦力だった。

カラリと晴れた日が多い気候がドウレンを干すのにも適していて、乾燥するまで半日もかからない。豆の収穫がある夏から初秋にかけて大量生産されるので、庭先や浜辺に干される姿が島の夏の風物詩だ。


豆の皮むきがひと段落したところで、子供たちに休憩の声をかける。大人の両手ほどの大きさをした、薄茶色のゴツゴツしたヤンの実を割って、水代わりにほんのり甘酸っぱい果汁を飲ませた。

慣れれば気にならないが少しクセがあるので、チビっ子たちの中でアイゼだけが苦手そうに顔をしかめている。汲んであった井戸水を示してやるとヤンの実を置いて走っていき、手ですくって飲んでいるのをカズーとライラは穏やかに見ていた。

「わあ、ドウレンだ。これ、おいしいんだよ」

ヤンの実を飲み終えたカイナがライラ達に寄って来て、キーラの前で豆を指さす。

「おいち?あむあむしゅる?」

剥かれて籠いっぱいの、親指の先くらいある乳白色の実をひとつ手に取り、カイナを振り返る。

「このまま、ダメ。おなべでぐつぐつするのよ、やわらかいの」

腰に手を当て、言い聞かせるようにキーラを覗き込んで説明するカイナは、なかなかしっかり者のお姉さんだ。

「うわぁ。ぐつぐつ、ね。ぐつぐつ」

キーラはのんびりと答え、ふわりと笑う。肩にかかる程に伸びた髪、耳横の一房だけは変わらず鮮やかな紅だったが、不吉な事などありはしない。

おっとりとして優しく素直で、カイナを姉のように慕ってついて回る。育て親のタオを特別困らせる事も無く、むしろすっかりその愛らしさに魅了されたタオの方が、時折親バカモードに入るくらいだ。

「さて、残りも剝いてしまおうかね」

カズーが言って、ライラが同意する。まだ遊び足りない子供たちに向き直り、

「じゃあ、ここのお豆を全部剥くまで、プールで遊んできていいよ。出来たら呼ぶから、運ぶのと片付けを手伝ってね」

駆け出したくてうずうずしている子供たちに、言い聞かせる。

「はあい」

返事と同時に、くるりと向きを変えて走っていく。柵で囲まれた浅瀬の水位は、大きめの波がきても一番小さいフドウとアイゼの足の付け根くらい。

皆で水をかけあったり潜ったり、きゃあきゃあと楽しそうな声が響く。これでお昼寝もバッチリね、と、豆を剥きながらほくそ笑むライラだったが、電池切れの前に切り上げて家まで歩いてもらうために、そっと皮剥きのペースを上げた。


カイナに思い切り水しぶきを飛ばして見上げた空、大木の葉の隙間に、人影が見えた気がした。

「おそら……だえか、いる?」

呟いたキーラに近づき、カイナは空を見上げる。人はもちろん、水鳥の一羽も見えなかった。

「分かんないなぁ。けど、もしかしてガーディアンかも?」

「ガーディアン…、なに?」

大きなすみれ色の瞳に、吸い込まれそうになる不思議な感覚。見つめられると、妙にドキリとする。

「このくにを、まもってるの。つばさがあって、とべるのよ」

「……しょれ、しゅごい!」

キーラは珍しく興奮したようすで、すみれ色の瞳を輝かせる。もう一度探して空をじっくり見上げたけれど、白い水鳥を2羽見つけただけだった。


「おーい、お豆剥けたから帰るわよー。手伝ってちょうだい」

ライラに手を振りながら呼ばれたので、今日のプールはお終いだった。浜に上がってゴザを畳んで丸め、大人とカイナで手分けして豆の入った籠を持つ。

キーラは双子と手をつなぎ、電池が切れそうなフドウを励ましながら、なんとか無事にメドウの家に着くと、子供たちは庭で井戸水を頭から被って海水を洗い流した。

カイナとキーラが双子を一人ずつガシガシ拭いている間にも、睡魔が襲ってくる。が、それぞれ自分も雑に拭き上げて、なんとか家の中まで行くと、いきなり限界がきたようだ。入ってすぐの部屋で四人、転がると同時に寝息が聞こえてきた。

それぞれに布をかけてやり、カズーは豆を煮込み、ライラは浜の皮を畑の隅に集めてたい肥にする。ちょっと一服したいところなのだが、大人の仕事は子供が寝た後も続くのだ。

読んで下さって、ありがとうございます。

初めての長編チャレンジです。

毎日更新したいところですが、遅筆ですのである程度キリの良いところまでを書き溜めた分だけ連続更新、しばらくお休みしてまた溜めてから続きを更新の予定です。

いいねやブクマで応援いただき、のんびりお付き合い下さると嬉しいです。

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