表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーディアン~天空の約束  作者: 黒坂 志貴
3/18

辺境の島2

「急にすまんな、助かるよ」

拾った赤子、キーラを育てる決心はついたものの経験は皆無だったので、隣のレン一家に協力を要請。

飲み仲間でもある父親のメドウを始め、まだ一歳を過ぎたばかりの娘がいる妻のライラも、祖母のカズーも快く引き受けてくれ、育児グッズとやらも揃えてくれる。

モスグリーンの長い髪に日に焼けた浅黒い肌、ひょうきんな笑顔が憎めないメドウは、見るからにライラの尻に敷かれている。

色白で水色のボブヘア、面倒見がよくて愛嬌のある人情家のライラに、自分から好んで尻の下に蹲っている感もあるのだが、いつも賑やかで仲が良さそうだ。

メドウより淡いグリーンの髪を結いあげているカズーはライラの実母で、そんな二人を優しく見守りながら陰で支えている。物事の見方も公正、落ち着きもあってとても頼りになる人だ。

ちなみに娘のカイナは母より少し濃い青の髪、やや浅黒い肌に両親と同じ濃紺の大きな瞳が可愛らしい。が、話し始めたカタコトと態度で主張が激しく、なかなか手を焼いているそうだ。

島の中心街は港周辺なので、ほぼ反対側に位置する山の裏側は住む人も少なく、このあたりはタオとメドウの家しかない。

隣と言ってもスープを差し入れたら冷める程度はかかるのだが、それ以外の人家は一番近くて往復で半日の距離なので、まぁ互いに唯一のご近所さんだ。


キーラは推定、生後約半年。幸いというのか夜泣きも人見知りも無く、子育て経験者は口を揃えるくらい優秀な、非常に育てやすい初心者オヤジ向けの赤子だった。

それでも育児は、生易しいものでは無い。日々の洗濯物は増えるし、ミルクや大人とは違う食事も必要になってくる。風呂にいれる、寝かしつける、食事を与えてオムツを替え、爪切りや歯磨き、耳掃除などの細かなケアも欠かせない。

その一つ一つに準備と片付けが漏れなくついていて、やることは目に見えて増えるのに赤子の機嫌やアクシデントで思うようにタスクをこなせないのは想像以上のストレスだ。

これまで比較的要領よく暮らしてきたタオにとって思いもよらなかった躓きの連続、正直なところ魂が抜けかけたのも一度や二度では無かった。

家事と仕事がジワジワ溜まって、もうオマエの笑顔にも泣き声にも騙されねえからな!ってなる前にメドウが畑を手伝ってくれたり、ライラがキーラを預かってくれたり、カズーが食事の差し入れをくれたりするのは本当に、神と崇めたくなってくる。

感涙をこらえてメドウの肩を抱けば、

「ははは、チビにゃ振り回されてナンボだぜ」

笑い飛ばす笑顔は引きつり、かなりの寝不足なのか、目の下のクマが目立つ。

「先週からカイナの寝かしつけ交代してんだがよ、すんげー手強いんでやんの」

ライラが二人目を妊娠していると判明、今後のためにも育児分担を見直しにかかっているらしい。

引きつったまま張り付いた笑顔が色を変え、がくりと項垂れる。

タオは無言でバンバン肩を叩くと、ガシっと力を籠める。美しき、同士愛。


おっぱい飲んで寝んねして、とか呑気なわらべ歌に抗議したくなる日々だったが、隣同士で協力できるのは心強かった。

タオは今日、キーラをライラに預けて、収穫した野菜や果物を買い取ってもらいに、港の近くの店を訪ねるのだ。

港は島唯一の大陸との玄関口、山を迂回してほぼ島を半周することになるが、買い取り額は近場の店より良い。

先月、メドウの家では飼っていた馬が死んでしまって以来、タオが2軒分の出荷をかって出ている。

島では家畜も貴重で高価でもあるし、簡単には手に入らないからだ。

それに第二進化「水棲」は足を魚の尾に変えて水中を自由に動けるが、タオの第一進化「陸棲」は足に獣の能力をのせて走ることが出来るのだ。

同じ第一進化でもメドウは猿のような身軽さを持ち、タオは四足獣のように力強く早く走る能力に長けていた。

ちなみに第三、最終進化は「空棲」で、背に翼を現して空を飛べるようになる。が、この進化が出来るのは人間の十パーセントにも満たず、この島には現在、ひとりもいない。

それでも進化して変身可能な人間は、レボリアンと呼ばれる尊敬対象でもあった。

そんな訳でタオは、野菜や果物を山積みにした荷車を軽々と引いて走る。その脚力のおかげで、朝採れのものを当日の開店前に届けられ、市場と港の商店を覗いて必要な買い物を済ませ、昼には帰宅することが出来るのだ。

その力を発揮するにあたり、キーラを預かって貰うことが必須条件なのは言うまでもない。

子連れというだけで、持つ能力をくまなく発揮するのは至難の業になるからだ。


一仕事終えた後の昼食は、また格別だ。

ライラに抱かれたキーラの頭を、愛おしそうにカイナが撫でる。カズーが用意してくれた温かなスープ、メドウが身軽さを活かして採ってきてくれたメロの実、タオが港で人気の店で買ったパン。

そこには目まぐるしい日々の中に、小さくてもたくさんの幸せがあるのだと皆が思える時間があった。

読んで下さって、ありがとうございます。

初めての長編チャレンジです。

毎日更新したいところですが、遅筆ですのである程度キリの良いところまでを書き溜めた分だけ連続更新、しばらくお休みしてまた溜めてから続きを更新の予定です。

いいねやブクマで応援いただき、のんびりお付き合い下さると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ