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転生聖女ですが怖い話をしたらごっついウケましたわ。でも婚約破棄されたんですが!~ねえ貴方、ターボ婆ってご存じ?~

作者: ふわふわ羊


 サスペクニュル建築の東屋で私はご友人のお嬢様たちとご歓談していました。

 木の幹を意識したデザインを、こちらの異世界ではサスペクニュルと呼ぶらしいですが、私はどうにもこのデザインが好きではありません。だって自然の力を強烈に――感じてしまいますもの。

「ねえアリス様。あの話をもう一度お聞かせ願えますか?」

 アリスとは私の名前です。本来の名前は中島彩ですが、もう気にならなくなりました。

 異世界に来て一年、早いものですわ。

 聖女として祝福する仕事の毎日。

 竜を討伐する勇者にも同行しました。

 ああ、なんて平和な日々。

 なので、つい。

 元の世界で聞いた話をしてしまいました。

「承知しました。それではお話しましょう」

 私はにっこり笑う。

「あるトンネルで、ターボ婆と呼ばれる存在が――」



「ええ!? 婚約破棄!?」

 私は驚愕する。来月には麗しいエルフォンバッハ殿と婚約するつもりだったのに!

「先方が言うには......その、最近アリス様が良からぬ話を吹聴しているとのことで――」

「あれは戯れで――」

「とにかくその、そういうことですので、失礼します!」侍女は去っていった。

 私は身動き出来なかった。

 ああ、私と結婚して下さる方はもういらっしゃらないでしょうね。

 涙が止まらない。この気持ち、どうしたら良いのでしょう。



「アリス様! 大変です!」

 一ヵ月経っても傷心の私に、侍女の一人が慌てて話しかける。

「どうなさいました?」

「アリス様に関係する話です! これはアリス様でしか解決出来ないと、宮中では評判になっています!」

「ええ!? そんな大変な話が何故、私に関係が――」

「実はその」

 侍女は区切った。

 そして、信じがたい言葉を発した。

「――ターボ婆が出現したようなのです」



 私は現場のニュースタントンネルを訪れた。

 一人の探偵が先んじて到着しており、調査をしていた。

「これは聖女様。よろしければ、判明したことをお話したいのですが、よろしいですか?」

 探偵の言葉に私は頷く。

「被害者は平民のトーワさん。娘と一緒に馬車でこのトンネルを通る途中、襲われたようです」

「ターボ婆に、ですか」

「ええ。何かが迫ってくる音がしたので馬車の幌を引きました所、後方から凄まじい速さで老婆が追って来たとのこと。そして老婆は馬車に体当たりをし、馬車は粉砕。トーワさんの娘さんはお亡くなりになってしまいました」

 私は歯ぎしりをする。

 探偵はさらに絶望の情報を伝えてきた。

「宮中ではこれに対処すべく、勇者軍第七歩兵大隊火力特化班を投入しました。しかし、ターボ婆の速さは尋常ではなく――五名の勇者が亡くなりました」

 ああ、なんということだ!

 しかし、勇者に対処が出来ないなら、私に何が出来よう!

「聖女様はターボ婆のことをご存じでした。皆さんは聖女様ならターボ婆の弱点をご存じと考えております」

「しかし、ターボ婆に弱点は――」

「無いというのですか。ああ、なんてことだ。どうしたら」

 しかしその時。

 私の頭に天啓が走る。

「ターボ婆は本来、私の居た元の世界の存在。私が想像すれば、怪異が現れる!? なら――」

「何か思いつきましたか」

「ええ。馬車をお貸しください。トンネルに入り、ターボ婆を出現させます」



 馬車はアメリカ開拓者の使うような幌馬車だった。

 従者に私は合図する。馬が走る。馬車が揺れる。私は覚悟をする。

 探偵が叫ぶ!

「聖女様! 後方から追ってくる者が!」

 私は視線を走らせた。

 あのスピード。あの風体。

 確かにターボ婆!

「どうするのですか! 聖女様!」

「このまま走らせて!」

 馬車はスピードを上げた。風を切る音がする。

 いよいよターボ婆が迫りつつある。

 もう少しで馬車に辿り着く!

「聖女様!」

「――今です! 馬車を横に寄せなさい」

 従者が馬を誘導する。馬車が大きく揺れる。

 そして、ターボ婆が平行して走ってきた!

 にやりと笑うターボ婆に、私は啖呵を切った。

「これで貴方は終わりです。ターボ婆!」

 私は祈り、想像した。

 その瞬間!

 ターボ婆は弾け飛んだ!

 そう!

 弾けたのだ!

 何によって?

「聖女様、あれは!?」

 馬車の遥か後方を過ぎる存在を探偵が見る。

「あれは......首無しライダー。怪異の一つです。私は今、あの怪異を思い出すことによって召喚し、ターボ婆に正面衝突させたのです」

「なんて......素晴らしい知恵だ!」

 探偵は拍手をし、私の手を取ってぶんぶんと握手した。



「ええ!? 婚約破棄を無かったことにしたい!?」

 一か月後、私の元にエルフォンバッハ殿の使者が訪れた。

 しかし私は、こう答えた。

「もう私には、相手がいますから」

 そう――宮中で私の英知が広がり、全国から婚約の申し出が殺到したのだ。

「残念ですが、お断りします」

「そ、そんな。エルフォンバッハ殿にはなんと言ったら」

「こう伝えて下さい。――聖女をなめたらアカンで」


 そうして月日が流れ。

 サスペクニュル建築の東屋で私はご友人のお嬢様たちとご歓談していました。

「ねえアリス様。何か怖くて面白い話をご存じですか?」

 私は微笑み、答えた。


「存じておりますわ。――ねえ貴方、お手洗いの花子さんをご存じ?」


読了ありがとうございます。


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