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俺のうしろにいるの?

後編……ではなく中編です。

書いてるうちに伸びてしまった……

「わ、私メリーさん。今ね……けほっ! えっと、えっと」

「どどどうした!? 大丈夫か?」


先程までの楽しげな様子から打って変わって息を上げて困惑しているメリーさん。

うっかりロスだの北京だのに行きついた時とは比べ物にならない程の焦り様だ。


明らかに何か非常事態が起こっているのが手に取るように分かった。

今までも散々やらかしてきたが……それとは比にならない状況だと?


一体どんな……




「302号室のインターホンを押しても誰も出ないの。もしかして春日さんの方からは聞こえてない?」




ああ……うん。そういう事ね。


「俺の部屋503号室な」


「え?そうだったの?」

「そうだよ。じゃあ階段なりエレベータなりで上がったら連絡頼む」


「うん。ありがとうね、すぐ行くから」


電話は切れるが数十秒後にはまたかかってくるだろう。

だって三階から五回に上がるだけなんだからな。


知ってたことだがポンコツ具合を寸前の所で再確認させられる。

マシになりこそしたが根本の性格が変わる訳では無いので当然と言えば当然なのだが。

もし俺が真実を教えていなかったら彼女は一生302号室の前で立ち往生していたのだろう


こんなアホな子相手に最初の方で死ぬほどビビッていたのかと考えると若干複雑な気分になる。




呆れ交じりの失笑を浮かべていると一分もしないうちに再びメリーさんから電話がかかって来た。

同時に連打されるピンポン。


向こうの興奮具合が伝わってきて微笑ましい気分になる。



いや普通にうるさいがな。


気持ちは分からなくも無いが周りの事も考えてメリーさんをたしなめておく。

「わわわ私メリーさん!今貴方の部屋の前に居るの!!」

「みたいだな……近所迷惑だから連打は止めとけ」


彼女の声は普段と比べてかなり大きい。

恐らく直前まで来たことを理解して得意げにどや顔の一つや二つ浮かべてるんじゃないだろうか。

テンションが上がり切っているのが手に取るように分かった。



とは言え胸を高鳴らせているのは俺も同じ。

大きく呼吸をした後に廊下を通って玄関へと向かう。



サンダルを履いて家と外を繋ぐ扉の表面にそっと触れる。

この扉の向こうにはあのメリーさんが居るのだ。


これまでの思い出を脳裏に浮かべて達成感を胸に抱える。




……そう言えば彼女は一応人形……なのか?

直前にもなってふとそんな疑問が頭をよぎる。

いやそもそも人形が喋れたり移動できたりする筈は無いんだが。


でもメリーさんの電話って人形を題材にした怪談だよな?

彼女がそれに該当する存在ならやっぱり……



「……いや、どうでもいいか」

考えても分からない。


何にせよ俺のちっぽけな価値感じゃ理解しきれない状況なのは明白だ。

なら余計な部分に思考能力を割くのは止めよう。



それに……今更メリーさんがどんな存在かなんて重要な問題でもないだろう。

最初の頃の様に呪い殺されるなんて懸念すら、微塵も持っちゃいない。



「は、は、は、早く開けて!」

「ははは。何でそんな焦ってるんだよ……」

言われるがままゆっくりと鍵を開ける。



そして、扉から離れた後で一つ彼女に忠告をしておく。


「俺はお前が次に喋るまで目を閉じてるから……その間は好きにしな」


「……分かった。ありがとうね」



メリーさんの返答に満足して大きく頷く。

若干伝わるかどうか心配だったが向こうも意図を察してくれたようだ。




本来メリーさんの電話はこちらの鍵などの都合を無視して後ろに立たれると言うものだが

そんな便利なワープ能力を使えないことは二か月の間の苦悩で重々理解している。



このまま素直に扉を開けたら俺とメリーさんの初の対面は互いに正面から向き合う形で行われてしまう。

悪くは無いが……長い期間を経た上でそれは少し味気無いんじゃないか?



メリーさんの最終目的地、それは【俺の後ろ】。

流れから見るに次に現在地を知らされるならそこしか無いだろう。


今更形式に拘っていても仕方ないが……結末ぐらいは様式美で飾りたい。

だからこそ俺はあえて見ぬふりをして彼女が背後に立つのを待つのだ。


スマホを棚の上に置く。

もう近くまで来たのだから電話なんて必要ない。

そのままゆっくりと視界を閉じる。


……後のタイミングは、メリーさんに任せよう。




しばしの間を置いた後にぎぃ……と扉を開く音が聞こえた。


刹那、溢れんばかりの感情が胸の中でぱちぱちと弾けていく様な錯覚を受ける。

本当に……ここまで来たんだ。



暗闇の中でも尚目の前に居るのが気配によってはっきり分かった。

今まで会話のみでしか意思の疎通を図れなかった彼女が、正に目と鼻の先に居るのだ。


しかし決して視認をしようとは思わない。

そんな無粋な真似をしてこれまでのお膳立てを台無しにしてたまるものか。



ほのかに床を軋ませる足音が無言の玄関に響き渡る。

気配が俺の前から横へとゆっくり移動していく。



来てる。来てる。来てる。来てる。


感動の瞬間だと言うのに顔のにやけが止まらない。

くそ……今いい状況なんだから抑えろ俺。




そして、遂にその一言が放たれた。


「わたし」

さながら早押しクイズの様に、音が耳に入った瞬間にばっと背後を振り返る。



しかしそこには誰も居ない。

ただリビングへと続く廊下が広がっていた。


当然俺は困惑する。



「……何でだ?」






今にして思えばメリーさんの異常なまでの焦り様はそういうことだったのだ。

俺は会えることを心待ちにしているが故の振る舞いと思っていた……だが実際はそうじゃない。


正確に言うと楽しみに思う面も当然あっただろうが、それ以上に優先すべきことが彼女にはあった。



異常なまでの息の切らし具合、ピンポン連打、開錠の催促。


散りばめられていた情報が繋がり合って線を結んでいく。





やがて導き出された結論を証明をするかのように彼女の声が


玄関を抜けた直ぐ横に備え付けられている一室から聞こえてくる。





「私メリーさん。今貴方の家のトイレを借りてるの」



「……そういうことかよ」





ごめんなさいまとめきれなかったのでもう一話続きます……

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