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花に願いを

作者: 赤亀たと

 暗く暗く暗い場所。暗闇なんて足元にも及ばない無の世界。恐ろしいほど上も下もない空間で、彼らは佇んでおります。何千年、何億年も前から自ら光り、あるいは光を受け止めながら。


 私達が住むこの地球という星の周りにも、数多くの星が今日も瞬いております。地上の誰かが夜空を横切る光の尾を指さして言いました。

「あ!流れ星!」

 隣にいた別の誰かも言います。

「願い事!願い事しなきゃ!」

 小さな女の子の声が聞こえます。

「晴れ!明日の遠足、晴れますように!」


 刹那の光に願いを託した彼らは、しばらく星々の住処を見上げておりました。


 そんな彼らを見下ろしながら、実は星たちも、いくつか言葉を交わしているのです。


 青白く光る星が隣の黄色い星に言いました。

「俺、八億年離れた、あの赤星のことが好きなんだ」

 黄色い星が目の前を通り過ぎていく隕石を眺めながら、ぼんやりと返事をしました。

「ああ。九十億年前から知っているさ、そんなこと」

 青白い星はため息交じりに言います。

「ほうき星に伝言を頼んだんだ。彼女に俺の思いを伝えてくれって。三十億年待ってるのに、まだ返事が来ない」


 しばらく二つの星は黙り込みました。それから黄色い星が言いました。ちょうど地球に流れ星が落ちた時でした。

「なあ、地球に住んでいる人間という生き物は、どうやら星に願いを言うらしい」

 青白い星がもしやほうき星がやってこないかと、ダメもとで後ろを振り返りながら聞き返しました。その視線の遥か彼方で、確かに赤い星が今日も輝いておりました。

「星に願いを?」

 黄色い星が頷きます。

「ああ。流れ星が通り過ぎるのは一瞬だ。その一瞬に願いを込めるらしい」

 青白い星はふん、と笑いました。

「一瞬?人間の一生の方が一瞬だろうに」


 黄色い星が一つあくびをしました。それから再び青白い星に言ったのです。

「お前も一瞬の光に願いを込めたらどうだ?」

 青白い星は、そんなの意味もない、というようにうなだれました。

「一瞬の光に?」

 黄色い星は地球の方を向いて言いました。

「ああ、あの星には一瞬だけ咲く花がある。とても美しいんだ。私もよく見ているよ」

「一瞬だけ咲く花?」


 黄色い星の言葉に興味を持った青白い星は、聞き返しました。

「ああ。一瞬だけ咲く花だ。空に咲く、美しい光の花だ」

 青白い星はようやく合点がいきました。

「ああ、人間が作ったあの花火とやらいうやつか。でもそんなのに願いを込めたって・・・」

 黄色い星がすかさず言います。

「星が人間の願いを叶えるというのなら、人間も星の願いを叶えてくれたっていいだろう」


 その時、ちょうど地球に小さな小さな光の花が咲きました。まるで綿毛のようでありましたが、目を凝らせばそれはしっかりと見えます。煌めく光が誇り高く昇り、威厳を持って咲き誇るのです。そして、なすすべもなく夜空に溶けていきます。それを含めて初めて、美しいと黄色い星は呟きました。


 そのあまりに一瞬の出来事を数回、青白い星はただ見つめていました。そして、最後に真っ赤な花が咲いた時、意を決したかのように青白い星は自らの願いを叫んだのです。


「俺の思いが、赤星に届きますように!」


 叫んだ後には、いつも通りの嫌というほどの沈黙が、光以外をのみ込みました。青白い星は一つため息をつくと、自らを嘲るように言いました。


「俺がわかるのは、とりあえずあの子の願いは叶うってことだけだよ。ほら、あそこの周りに雲が無いからな」


 黄色い星も優しく微笑むと、またあくびをしながら言いました。

「それじゃあ人間にも、私達の明日を知っている者がいるかもしれないね」

 青白い星は、ふん、と笑いました。


 それから二つの星は、今日も輝くのでした。


読んで下さり、ありがとうございました。

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