エピローグ
人は誰しも物語の主人公だ。
あの柊木灯だけじゃない。この物語を書いた私だって、これを読んでいるあなただって、一人ひとりが主人公なんだ。
それは悲劇かもしれないし、喜劇かもしれない。全てがハッピーエンドで終わるわけじゃない。
それでも、私たちに代わりなんていない。柊木灯にだって、他のヒロインにだって。
誰でも結城紗衣のようになる可能性はあったし、誰でも柊木灯のようになる可能性もあった。
今回の物語では、ああなってしまった。ただそれだけ。
私は間違えたのかもしれない。創作の中の世界の住民だからと、軽く見ていたのかもしれない。
けれど、後悔はしていない。
私は創作者なのだから。あなたの人生を狂わせようとも、私は書き続ける。
物語が全て消され、私が積み上げてきたものは、もう残っていない。
これが彼の最後の復讐だと言うのなら、私はそれを受け入れよう。
けれど、柊木灯。ヒロインを幸せにする物語は、私には書けない。
それは、私の役目じゃない。
あなたがそうしたいのなら、私はその機会を与える。
こんな言い方はおかしいかもしれないけれど、私は柊木灯に期待している。
私の世界を壊したあなたなら。私の物語を消し去ったあなたなら。
私を、私の望む世界に連れて行ってくれるような気がするんだ。
いや、もしかしたら私も、あなたに好意を寄せる内の一人だったのかもしれないしれない。
柊木灯。あなたはヒロイン全員を幸せにする道を望んだ。
複数のヒロインが存在するラブコメにおいて、そんなハッピーエンドは存在しない。
けれど、あなたがそれを望むのなら。
その役目はあなた自身が果たすべきだ。
だから、私は再び書き留めるよ。
主人公である柊木灯と、そのヒロインが幸せになれる未来を。
P.S.
柊木灯には悪いけれど、私の書き留めた君の物語はなにもインターネット上に存在するデータが全てではないんだ。
私も物語を愛する者の端くれだ。君の記憶には残らないだろうけど、君の歩んだ軌跡は形として遺させてもらうよ。
君への嫌がらせではない。これはいつか、君が道に迷った時に必ず役に立つと信じている。
だから……そうだね、私から君への最後の餞別とでも思ってくれると嬉しいな。