第五話 何者かに追われる女子高生 〜佐藤琴子編〜
ここでも、視点が変わります…!
〜佐藤琴子の視点〜
――――謎の密林――――【現在時刻、不明】
謎の植物が無造作に生い茂る密林地帯にて、一人の少女が目を覚ました……。
〈う、う〜ん……。 うっ……〉
ズキッ……!
〈うぐぐっ、あったま痛〜い……!〉
少女は、余りの頭痛に思わず飛び起きると、頭を抑えながらキョロキョロと辺りを見回す。
「……って、あれっ? 一体、此処は何処なの……? ”ジャングル”……?」
少女は、自身の近くに落ちている”黄色い果物”と”自分の眼鏡”を手に取ると、途端に不安な気持ちに苛まれていく……。
「えっ? な、何この世界……? 日本……じゃないよね!? だって、”バナナ”みたいな物がいっぱい生えてるしっ!」
少女の周りには”熱帯植物”が生い茂っていた為、この辺りが密林地帯だと言う事を少女は瞬時に悟った。
〈え、ちょっと!? なになになにっ!? 急に、どんな展開……?〉
〈私、さっき迄、”晋也”と一緒に下校中だった筈よねっ!? それが、一体何でこんな”密林地帯”で寝っ転がる事態になるのよっ!?〉
少女は、混乱した脳内を落ち着かせる為にも、ゆっくりと深呼吸を行った。
「スゥー、ハァー、スゥー、ハァー……」
〈お、落ち着きなさい……っ! 冷静になって考えるのよ私ッ!〉
〈此処に来る以前の記憶は、もう綺麗サッパリ無くなってるから思い出せない……。 だから先ずは、これから”先の事”を考えなきゃ!〉
すると、少女は先程まで隣に居た筈の”彼氏”の存在を思い返す。
〈そ、そうよ! 晋也も近くに居るかも知れないわ! 兎にも角にも、先ずは頼りになる人を見付けて”協力関係”を築かなくちゃね!〉
そう思い立った少女は、決意に満ちた表情を浮かべながら意気揚々と立ち上がったものの、どうやら数人の”部族の男達”が自分の周りを取り囲んでいたと言う事に少女は気が付いた……。
〈あ、あれっ……? 気が付いたら何か……私、囲まれてるっ!?〉
すると、動揺している少女とは対照的に、部族の”リーダー”らしき男が少女に向かって優しい口調で話し掛けて来た。
「あっ! どうやら目が覚めた様ですね! ほらっ、お前達も挨拶してやりなさい!」
リーダーらしき男がそう言うと、すかさず他の部族の男達も一斉に声を上げる。
「ウガウガ!! メガサメター!! メガサメター!!」
「フガフガ!! ヨカッタ!! ヨカッタ!! ボルダホ!!」
「アッパレー!! アッパレー!! セニョリーター!!」
〈えっ!? やばっ! もしかしたら、この密林地帯の部族の方達かしら……? そ、それに良く見たらリーダーっぽい人の輪廓が何やら”無駄に縦に長い”様な……?〉
すると、少女が不思議そうに部族のリーダーらしき男の顔面をジーッと見詰めている様子に気が付いた一人の部族の男が、すかさずリーダーらしき男に向かって声を出した。
「ムムッ! ナニヤラ、”バルルーナ”サマ、ノカオヲ、フシギソウニ、ミテイルゾ! ウガウガ!」
部族の男からの知らせを聞いたリーダーらしき男は、不気味な笑みを浮かべながら少女に向かって問い掛けた。
「おや? ハハッ! どうやら、僕の顔を見て驚いている様子ですね! 安心して下さい! 僕達のこの顔は”生まれ付き”ですから!」
「う、生まれ付き……? あ、もしかして貴方達は”人間じゃない”とか……?」
と、少女が恐る恐る聞いて見ると、問われた部族の男達はにこやかに微笑みながら答えた。
「人間じゃない? あははっ! そりゃあ勿論ですともっ! だって僕達には、”バルルーナ族”と言った、立派な種族名が有りますからっ! ハハハッ!」
バルルーナ族と名乗った男の返答を聞いた少女は、戦慄した表情を浮かべながら思わず後退る……。
〈ヒッ!? に、人間じゃないですって……!?〉
〈それに、バルルーナ族って何なの? そんな、種族なんて日本どころか海外でも聞いた事が無いわよッ!〉
〈しかも、それに何で流暢に”日本語”を話しているのよ……っ! 本当に此処は日本なのッ!?〉
〈あ〜、もうっ! 頭こんがらがって来ちゃった〜ッ!〉
少女は、苛ついた様子で自身の頭を掻き毟る……。
「もうっ! あ、ありとあらゆる物が滅茶苦茶よ……!! ……そっ、それに何なのよ!? 貴方達は……!? ヒッ!? 嫌ーッ!! こっち来ないでよーッ!!!」
「あっ、待って下さい! 僕達は、単に貴女とお話をしたかっただけなんですよっ!」
〈嘘よっ! そんな都合の良い事言って、本当は私の事を殺して食うつもりなんでしょ! 私、騙されないんだからねっ!〉
少女は、自分を取り囲んでいる男達の中でも”一番背の低い男”を目掛けて思いっ切りタックルをすると、背の低い男は意図も簡単に吹っ飛ばされてしまった。
ドカッ!
「ンガ〜!! イタイ〜!! タスケテ〜!! バルルーナサマ〜!!」
「あっ!? だ、大丈夫ですか”バーバル”!? い、今手当てをしますからね!」
どうやら、吹っ飛ばされた男の名は、『バーバル』と言う様だ……。
〈ふっ、馬鹿ね! 今の内に逃げるわよッ!〉
バルルーナ様と慕われているリーダーらしき男が、吹っ飛ばされた背の低い男ことバーバルの事を介抱している隙に、少女は彼等の包囲網から逃げ出す事に成功した。
「アッ!! バルルーナサマー!! オンナガニゲタゾー!! ツカマエナキャ!!」
「あっ! 本当ですね! ま、待って下さーい! 逃げないで下さーいっ!」
すると、リーダーらしき男は、猛スピードで少女の後を追う。
その後ろに、先程少女が吹っ飛ばした背の低い男も付いて来る。
「マテーー!! ソコノオンナーー!! ユルサンゾーー!! ウガウガ!!」
「ふんっ! 遂に本性を現したわね”バナナの化物”ッ! 最初から私を騙して殺すつもりだったのねっ! だけど、生憎だけどね! 私はアンタ等に捕まるつもりなんて毛頭無いからねーーっだ!!」
と、少女が追いかけて来る男達に向かってべーっと舌を出しながら威圧をするものの、男達は怯む事も無く、ただひたすらに少女の後を追い掛け続けて来る……。
「もうッ! しつこいわねアンタ達ッ! 良い加減諦めたらどうなのっ!」
すると、痺れを切らした様子のバルルーナ族の男達が少女に向かって、大声を発した。
「ウンガスボルホン!! ウンガスボルホン!! アヌヤマダー!!」
「ホンジャ!! ウガウガ!!」
すると、謎の言語を発しているバルルーナ族に対して、少女は思わずたじろいだ……。
〈えっ、怖いッ!? なになになに!? なんかの呪文!? え、呪文とかそんな概念が有る世界なの此処っ!?〉
「逃げ足の早いお嬢さんですねぇ……全く」
すると、バルルーナ族のリーダーらしき男の顔面が、まるでバナナの様に”黄色く変色”している事に少女は気が付いた。
いや、確かに元々彼の顔は少しだけ黄色かったが、流石に此処まで真っ黄色では無かったのだ。
〈こ、これってアレ? 人間で言う所の、”怒ったら顔が赤くなる”みたいな奴……?〉
〈って、事は……? もしかして、今まさに滅茶苦茶怒ってるって言う事なの……?〉
少女は、段々と”未知なる恐怖心”に駆られ始めた。
その上、ギロリ……と、何やらバルルーナの眼が鋭くなっている事にも気が付いた少女は、思わず逃げるスピードを徐々に速めていった……。
〈ヒッ! に、逃げなきゃ……っ!? もっと速く……そして、更に遠くに逃げなきゃ……っ!?〉
焦りを覚えた少女は、彼等に追い付かれない為にも必死に足を速めた。
〈も、もっと速く逃げないと……ッ! あんな、見た目からして普通じゃない人達に捕まっちゃったら、何をされるか分かったもんじゃないしっ!〉
すると、逃げるスピードを速めている少女に対して、もう一度バルルーナ族の男達が声を荒げた。
「ガルバルジャー!! ボルナカジャー!!」
〈また呪文!? 嫌ーーーッッッ!! 晋也助けて〜っ!〉
〈と言うか、もうこの際、別に晋也じゃなくても良いからっ! だっ、誰でも良いから早く助けてよぉ……っ!〉
「ゴンゴンガルモ!! アッポリケーー!!」
「嫌ーーッッ!! もうずっと何言ってるか分かんな〜いッ! その上、リーダーっぽい男だけ”顔が無駄に縦に長い”しッッ!! もうヤダーッ! キモいよーッ!!」
少女は、せめてもの抵抗のつもりで自身が思っていた事を彼等に聴こえる様に思いっ切り叫ぶと、その言葉を聞いたバルルーナは、何処か複雑そうな顔を浮かべながら動揺する……。
「ちょっ……!? え、えっと……。 そ、そんなに僕の顔は変ですかねぇ……?」
まるでバナナの様に顔が無駄に縦に長い男ことバルルーナは、隣で並走している3人の部下らしき男に向かって問い掛けてみた。
すると、直ぐ様その3人の部下から、それぞれの答えが返ってきた。
「ウン! メッチャ!! フガフガ!! ナガスギ!! ボルダホ!!」
「トイウカ、バルルーナサマダケガ、ムダニ、カオガナガインダゾ!! ウガウガ!!」
「ウンバホルホル!! ガモスティー!! ロングネス!!」
〈え……? 何か思ってたよりも滅茶苦茶、仲間内から酷い事言われてない……あの人?〉
少女は、僅かながらリーダーらしき男に対して同情した。
すると、部下からの返答を聞いたリーダーらしき男は、目に涙を浮かべながら走るスピードを上げた。
「くっ……! なにも、そこまで言わなくても……ッ! ぐすんっ……」
すると、泣いている様子のバルルーナの事を慰める為に、バーバルが優しくフォローの言葉を入れ始める。
「マァ、カオノナガサハ、ツヨサノアカシダ! ウガウガ!」
「慰めてくれて有り難うバーバル……! まっ、まぁいいでしょう……! あっ、あの、そこのお嬢さんッ! 良い加減ちゃんと僕達の言葉に耳を傾けてください……ッ! 僕達は、別に貴女に危害を加えようとしている訳では無いのですよッ!!」
「ソウダゾ!! フガフガ!! アンゼン!! ボルダホ!!」
すると、少女はその追い掛けて来る男達に向かって睨みを利かせながら振り返ると、そのまま彼等に向かって大声を上げた。
「……ッあ、あんた達の何処が信じられるのよ……ッ!! 見るからに”犯罪者集団”じゃないのよッ!!! か弱き乙女を騙そうとするなんて、ほんッとにサイテーよッッッ!!!」
すると、その少女の心からの叫びを聞いた部下らしき男の内の一人が、頭の中にハテナマークを浮かべた状態で、バナナの様に顔が長い男ことバルルーナに向かって問い掛けた。
「ハンザイシャ〜?? フガフガ!! ナニソレ?? ボルダホ!!」
すると、その質問に対し、バルルーナは俯きながら答えていた。
「えっと、……犯罪者とは、弱者に対し、騙したり乱暴な事をする残虐非道な行為をする人達の事ですよ……」
「マジカ?? フガフガ!! ソリャア、ヒドイヤツモイタモンダナ!! ボルダホ!!」
「……僕達は、彼女からそんな事をする外道だと勘違いされている様ですね……。 悲しい事ですがね……。 うぅ……っ」
すると、その男達の話し声を背中越しに聞いていた少女の脳裏に、とある”迷い”が生じ始めた……。
〈……あれっ? も、もしかして、今まさに私を追い掛けて来ている人達って普通に”良い人達”だったのでは……? で、でも……これも私を油断させる為の罠かも知れないし……?〉
と、少女が冷や汗を掻きながらチラッと後ろを振り返った時だった。
暗い顔を浮かべているバルルーナが不意にポロッと、一筋の涙を流した瞬間を偶然にも少女は目撃した……。
「うぅ……っ。 ぐすんっ……」
〈えぇっ!? な、泣いてるの……? 泣きマネ!? それとも、本心なのっ!? あ〜もうっ! どっちなのよ〜っ!!〉
すると、悩んでいる少女の脳裏に、とある”大切な人物”との思い出がまるで”走馬灯”の様に思い浮かんで来た……。
〈えっ!? こ、この記憶って……!? ま、まさか……!〉
『……ちゃん! ……お婆ちゃん! 死んじゃイヤだよ……っ! お婆ちゃん……っ! うぅ……ッ! ぐすッ……』
『”琴子”やぁ……。 悔しかったり、悲しかったりして涙を流せる人は、優しい”人間の心”を持ってるんだよぉ。 暖かい血が通ってるんだよぉ……。 だから、琴子ぉ……。 アンタは良い子だぁ……。 本っ当に良い子だぁ……………………』
『……! お婆ちゃん! 目を開けてよ……お願いだから……っ! お婆ちゃーーーんッッッ!!! うわぁぁああんッ!』
〈い、今の言葉は……。 数年前に病室で亡くなったお婆ちゃんの”遺言”……〉
〈寿命で亡くなりそうだったお婆ちゃんの手を、私が必死に握り締めながら、まるで子供みたいに泣きじゃくってた時に、お婆ちゃんが私に向けて放ってくれた”最期の言葉”……〉
〈私ったら、なんでこんなにも大事な言葉を、今迄ずっと忘れてたんだろう……〉
〈……そっか、涙を流せる人は人間の心を持っている……か。 それじゃあ、このバルルーナ族の人達も……?〉
琴子は、少しずつ走るペースを緩めていく……。
「うっ……。 ぐぅッ……! うぅ……」
「バルルーナサマ……。 ソンナニ、ナカナイデクダサイヨ……。 ウガウガ……」
〈この人、本心で泣いてるのかな……? いや、もう疑う必要なんてないよっ! 有り難う、お婆ちゃん! お婆ちゃんの御蔭で、私は大事な事に気が付いたよっ!〉
バルルーナが本心で泣いている事を肌で感じとった琴子は、追い掛けて来る彼等の下から逃げる事を止めて足を停める……。
そして、その琴子の行動に対して、部下らしき男達が動揺を見せ始めている……。
「ワワー!! チョット、キュウニ!! トマルト、アブナイヨ!! ウガウガ!!」
「ナンデ?? フガフガ!! キュウニ、トマッタ?? ボルダホ!!」
「アルナンデ!! ボージャ!! グリフ!! アモーレ!!」
更に、部下らしき男達に続いて、バルルーナも琴子の突飛な行動に対してビックリした様な表情を見せている。
「……あれれっ!? どっ、どうしたのですかッ!? 急に立ち止まって!? はっ! もしや、何処か怪我でもしたのですか!? ……はっ、早く応急手当てをしないと……!!」
すると、そのバルルーナの他人を咄嗟に気遣う姿勢を間近で目撃した琴子は、彼等がお婆ちゃんの言う通りの優しい人物だと言う事を改めて確信したと同時に、心の底からホッと安堵した。
〈はぁ〜、良かった……! この様子だと、本当に良い人達みたいねっ! ふぅ〜、たっ、助かった〜!〉
そして、ゆっくりと胸を撫で下ろした琴子は、彼等に対して優しい口調で微笑み掛けた。
「……いや、別に怪我とかじゃ無くてね?」
「……えぇっ!? じゃ、じゃあ一体何故……!?」
「ナンデ?? フガフガ!! ナンデ?? ボルダホ!!」
「えっと〜……だってね?」
すると琴子は、バルルーナの目の前に近寄ると、琴子は人差し指で彼の涙の跡をそっと拭った……。
「ゴメンね。 ハンカチを持ってたら良かったんだけど……。 生憎、持ち合わせていなくてね……? ふふっ」
琴子は苦笑いを浮かべると、そのまま照れ臭そうに微笑んだ。
そんな彼女の突然の行動に、バルルーナは一瞬だけビクッと体を震わせた。
「いっ、一体何を……!?」
「……ふふっ、だって貴方達は別に悪い人達じゃないんでしょ? だって貴方は、こんな風に”綺麗な涙”を流せるじゃない?」
「綺麗な涙……ですか?」
「うん、そう……」
〈ふふっ。 お婆ちゃんは、最期に私に対して言ってたなぁ……。 悲しかったり、悔しかったりして涙を流せる人は、人間の心を持っている……。 血が通っているって……〉
〈だからきっと、このバナナ男の人達の中にも、しっかりとした”綺麗な血”が通っている筈……!〉
自分の事を追い掛け続けていた男達が、実は敵じゃなかったと言う事実に気が付いた琴子は、ホッと笑みを溢しながら話を続けた。
「そして、こんな心優しい人の近くにいる貴方達もきっと、心優しい人達なのよね……?」
その琴子の問い掛けに対して、元気な口調で部下らしき男達も一斉に答える。
「ソウダゾ!! フガフガ!! オレタチハ、ヤサシイゾ!! ボルダホ!!」
「ヨカッタ!! ヨウヤク、ワカッテクレテ!! ウガウガ!!」
「ボルフンガー!! アモーレ!! アモーレ!!」
「ふふっ……。 何だか可愛い♪」
琴子は、彼等のあどけない姿を見ると、彼等が本当に自分に対して悪意を抱いていない事を理解した。
そして、今まで彼等から必死に逃げ続けていた事によって聞けていなかった話を、改めてこの場で詳しく聞いてみる事にした。
「……えっと、所で〜? 聞きたいんだけど何で私の周りを取り囲んでいたの? 例え悪意が無かったとしても、こんな見知らぬ場所で急に詰め寄られて来られたら、幾ら私じゃなくても逃げると思うんだけどねぇ〜……?」
琴子は嫌味ったらしく、そう彼等に告げると、その言葉を聞いたバルルーナが反省した様子で口を開いた。
「うぅ……。 たっ、確かに……僕達のやり方は間違っていた様だ……。 周りさえ取り囲めば簡単に僕らの話しを聞いて貰えると高を括っていたのですが……。 この度は、怖い思いをさせてしまい本当にすみませんでした……!」
バルルーナが精一杯の気持ちを込めて謝罪の言葉を琴子に贈ると、その謝罪の言葉を聞いた琴子は慌ててバルルーナに対してフォローを入れた。
「いやいや別に謝らなくて良いんですよっ! そっ、それで! えっと、私に対して悪意が無い事は分かったんですが、一体私に対して何の話しをしたかったんですか……?」
琴子は、今のこの暗い空気を変えるためにも一目散に話の矛先を転じた。
「はっ、はい……! えっと、貴女は恐らく此処とは違う”別の世界”から来られた方だと存じ上げます」
すると、バルルーナの口から別の世界と言った台詞を聞いた琴子は、思わず目を丸くしながら慌てて聞き返した。
「えっ!? そ、そうだよねっ!? やっぱり此処は日本じゃないよねっ!? と言うか、そもそも何で私が別の世界から来たと分かったの!?」
「えっと……実は貴女のその服……。 えっと、所謂……”セーラー服”と言う物は、この世界には存在しない物なのですよ。 おまけに、今迄その制服を着ていた人達は皆、口を揃えてこう言うのですよ。 自分は此処とは違う別の世界からやって来たと……!」
「……へぇ〜! なっるほどねぇ〜」
〈まさか制服と言う、古典的な答えが出るとは微塵も思っていなかったけど……。 まぁ、でも。 一先ず此処が日本どころか、地球でも無い別の世界だと言う有益な情報を知れたのはデカイわね……!〉
此処が異世界だと言う事を知った琴子は、続け様にバルルーナに向かって質問をする。
「あ、えっと、因みにもう一つ聞きたい事があるんだけど……。 私が目を覚ました時に、何故かいきなり貴方達が周りに居た訳なんだけど……。 あれは一体どう言う事なの……?」
「あっ、はい! その事についてもお話し致しましょう! 実はですね……? 貴女は突然、僕達の目の前に現れたのですよ……。 何も無い空間から突如として”倒れた状態”でね……」
〈倒れた状態か……。 あ、少しだけ思い出したかも……! そう言えば、私……。 確か、下校中の時に”テロ”に巻き込まれてたっけ……? でも、其処からの記憶が無いから……〉
〈はっ! もしかしたら、そのテロが原因で、私がこの訳の分からない世界に来ちゃったって事なのかなぁ……!? トラックに轢かれて異世界に転生する的なっ!〉
そんな妙に納得した様子の琴子に向かって、バルルーナが再び話を続けて喋り出す。
「えっと、それでですね? 見た所、怪我は無さそうでしたが……。 何か、うなされている様子でしたので、何か力になれないかと僕達が模索して離れている最中に、貴女が目を覚ましたのです……」
「なるほどね……。 詰まり、貴方達は私の事をずっと気に掛けていてくれてたのね……。 でも、私ってば、目を覚ました瞬間に、直ぐに貴方達の下から逃げ出しちゃった……」
「そうですね……。 最初こそ、僕達は貴女の警戒心を解こうと、陽気な口調で話し掛けましたが、それが返って不気味に映っていたみたいで逆効果でしたね……。 そして結果、現在に至る……。 と言う所ですかね……?」
「うーん、なるほどね……。 と言う事は、結果的に私の早とちりで何か面倒くさい事になったと……? はぁ〜、こりゃあ謝るのは私の方だね……。 迷惑を掛けて本当にゴメンね……?」
〈……次からは、人を外見で判断しない様にしよ〜っと……。 今回みたいな出来事が起きない為にもね……!〉
琴子は、気を引き締めながら顔を上げた。
「いえいえ、貴女が謝る事では御座いませんよ! そもそも僕の顔が”ヘンテコ”だから余計に怖がらせて仕舞ったんですよ……! ……ッ全く! ッこんな顔め! こんな顔めッ!!」
そう言い放つと、突如としてバルルーナが自分自身の顔をポコポコと殴り始めた。
これには流石に琴子も止めに入る。
「わーーッッ!? やっ、やめて下さいよ! じ、自分の顔を殴るのはやめてくださいーーーッッッ!!!」
やがて、そんな琴子による精一杯の制止が功を奏したのか、バルルーナは徐々に我を取り戻していくと、ゆっくりと振り上げた拳を下ろして自分自身の顔を殴るのを止めた。
「……はっ! ごっ、ごめん! 思わず我を失っていた……! と、止めてくれてありがとう……!」
「……もう〜! 急にびっくりしましたよ……。 もう突然自分の顔を殴るのはやめてくださいね……?」
こうして、反省したバルルーナは、未だにお互いの自己紹介が終わっていなかった事に気が付くと、直ぐに琴子に向かって自己紹介を行った。
「はい、分かりました……。 あっ、所で名前を聞いていませんでしたね。 じゃあ、先ずは僕達の方から改めて自己紹介を致しますねっ! 僕の名前は、『バルルーナ5世』と申し上げます!」
そして続け様に、部下らしき男達も次々と自己紹介を行った。
「オレノナハ!! フガフガ!! 『ナルル』!! ボルダホ!!」
「オイラハ!! 『バーバル』!! ヨロシク!! ウガウガ!!」
「『アドムンハ』!! 『アドムンハ』!! 『アドムンハ』!!」
〈えっと、バルルーナ5世さんと……。 ナルルさんと、バーバルさんと、アドムンハさんね……? しっかりと覚えておかなきゃ……!〉
彼等の名前を覚える為に、教えられた名前を頭の中で必死に繰り返している琴子は、そのまま彼等にも自身の名前を伝える事にした。
「え〜と、最後は私ですねっ! 私の名前は、『佐藤琴子』と申しますっ! 此方こそ宜しくお願いしますねっ!」
すると、琴子の名を聞いたバルルーナ達は、一斉に歓喜の声を上げた。
「コトコ!! フガフガ!! ヨロシク!! ボルダホ!!」
「コトコ!! イイナマエ!! ヨロシクネ!! ウガウガ!!」
「コトコ!! コトココトコ!! コトココトココトコ!!」
「うん! 良い名前だね。 此方こそ宜しくお願い致しますよ! 琴子さん!」
「はっ、はい! 頼りにしてますよ〜っ!!」
こうして、思い掛けずに琴子は見知らぬ世界にて、とても心強く賑やかで愉快な仲間達を見つける事が出来た。
……然し、そんな琴子にも1つだけ”気掛かり”があった。
それは、琴子が生まれて初めて出来た彼氏の事である……。
もしかしたら、自分と同じ様に、彼もこの世界の何処かに居るのかも知れないのだ。
「……でも彼、”もの凄く運が悪い”けど……大丈夫なのかなぁ……? 早く会いたいよぉ……。 晋也ぁ……」
と、琴子は不安げに、ボソッと言葉を漏らした。
【現在位置】
【楽園の密林】
【現在の日時】
【日時不明】
【佐藤琴子】
【状態】:若干元気を取り戻したけど、まだまだ悲しい。
【装備】:眼鏡 学校の制服
【道具】:無し
【スキル】:無し
【思考】
1:あれっ、そう言えば、私、爆死したんだっけ……?
2:うぅ、晋也ぁ……会いたいよぉ……。
3:……よしっ! この心優しい人達と一緒に協力して晋也を探そう!
【基本方針】:バルルーナ5世達と一緒に行動して晋也を探し出す。
※此処が異世界だと言う事を認識しました。
【バルルーナ5世】
【状態】:悲しみ
【装備】:英雄の王冠 英雄のマント 英雄の槍
【道具】:様々な回復アイテムと状態異常回復アイテム
【スキル】:バルルーナ王族の魂【効果】:仲間と敵にも分け隔てなく心体を癒やす事が出来る回復魔法。
【思考】
1:琴子さん……震えている……?
2:恐らく、大切な人の事を想っているのだろうか……?
3:……バルルーナ王国の皆も無事なのか……? ……僕達を逃がす為に……囮に……。
【基本方針】:争いの無い理想の世界を創る。
※琴子の警戒心を解く事に成功しました。
【ナルル】
【状態】:空元気
【装備】:騎士団長の服一式 断罪の槍
【道具】:一時的にステータスが上がるアイテム沢山
【スキル】:騎士団長の誇り【効果】:周囲にいる自分が仲間だと認識している人物の全ステータスを大幅に上げる。更に自分が死にそうな時には自身の全ステータスも大幅に上がる。
【思考】
1:ミンナ、フガフガ………ドウカブジデ………ボルダホ………。
2:コトコ、フガフガ………カナシソウ………ボルダホ………。
3:オレガ、フガフガ………ミンナマモル………ボルダホ………。
【基本方針】:死んでも仲間を守り抜く。
※琴子の警戒心を解く事に成功しました。
【バーバル】
【状態】:動揺
【装備】:応援団長のハチマキ 応援団長の服 白い軍手
【道具】:ホイッスル 敵を状態異常にする様々なアイテム
【スキル】:大応援【効果】:瀕死の人を応援で元気にして復活させる事が出来る蘇生スキル。
【思考】
1:ミンナゲンキナイ、オイラガ……ガンバラナイト……!!!
2:オウコクノミンナ……! ミンナノオモイハ……ゼッタイニワスレナイカラナ!!!
3:ウガウガ!!!
【基本方針】:自分はなるべく前線に出ない様にする。陰から皆を助ける。絶対に自分は死なない様に行動する。
※琴子の警戒心を解く事に成功しました。
【アドムンハ】
【状態】:冷静
【装備】:特殊機密暗殺部隊隊長の戦闘服 サイレンサー銃
【道具】:弾薬1000発分 細い針1000本 太い針500本
【スキル】:絶対冷静【効果】:どう言う状況下でも冷静であり続けられる。
【思考】
1:バルルーナ様達に、隠している自分の役職がバレる訳にはいかない。
2:バルルーナ様の脅威になり得る者は速やかに自らが排除しなくては……。
3:このコトコと言う女もまだ信用する訳にはいかないな……。
【基本方針】:バルルーナ様を命に変えてでも護り抜く。バルルーナ様の脅威になり得る者は全員速やかに排除する。馬鹿の振りをする。
※琴子の警戒心を解く事に成功しました。
ご感想お待ちしております…!