第三話 謎の男、大宮座衛門 〜五十嵐隼人編〜
第三話です…!
〜五十嵐隼人の視点〜
――――天界――――【現在時刻、不明】
「……お、御主らは、一体……何者ぞッ!?」
突如として飛び起きた侍服姿の眼鏡の男が、困惑した様な表情で隼人達の事を眺めている。
〈あっ、どうやら倒れてた眼鏡の人が目を覚ましたみたいだな……。 一応、今がどう言った状況なのかを知らせておくかな……〉
隼人は、興奮している様子の眼鏡の男を落ち着かせる為にも、さっさと今の状況を説明する事にした。
「えっと、あのー……。 急に言われても信じられないかも知れないですけど、実は此処は”天界”でしてね……?」
「なぬぅッ!? て、天界となッ!?」
「えぇ、そうみたいなんですよ……。 それでまぁ、要するに現世で死んでしまった人が運ばれて来る場所が此処って訳ですね……。 まぁ、俺と仁科先輩は”事情”が違いますけど……」
〈まぁ取り敢えず、これだけ説明しとけば後は勝手に納得してくれるかな……?〉
すると、その隼人の話を聞いた途端に侍服姿の男は、かなりのショックを受けたのか、力無くガクリと項垂れてしまった。
「な……なんと言う事だ……。 某は死んで仕舞ったのか……?」
〈まぁ、他人から自分が死んだって知らされるのは辛いだろうからなぁ……。 一応、フォローの言葉を掛けてやるか……〉
「残念ながら、そう……みたいですね……。 心中お察しします……。 まぁ、後の詳しい話は、其処に居る”可愛らしい女神様”から聞いてみた方が早いかと思いますよ……はい」
隼人はそう言いながら、女神様の方へと目線を向ける。
すると、眼鏡の男が横目でチラッと小さな女神の方を見やると、途端に驚きの声を上げた。
「なぬぅッ!? め、女神様だとぉ……!? も、もしや、あの小さな子供が……?」
すると、そんな驚きの声を上げた眼鏡の男に対して、小さな女神が意気揚々と語り出す。
「えっへん! そうだよ〜っ! そもそも、この場所で女神様っぽいのは私だけでしょー? ほらっ、権兵衛君も黙ってなんかいないで説得してあげてっ!」
女神様から話を振られた仁科先輩はコクリと頷くと、直ぐに眼鏡の男に向かって話し掛け始める。
「おう、そうだな。 んっと……。 おい、おっさん! にわかに信じられねぇかも知れねぇけどよ? コイツ等の言ってる事は全部本当だぜぇ〜?」
「…………………」
「あ? 急に黙ってどうしたんだ、おっさん? おい、さっさと返事しろやッ!」
「ふむふむ……? なるほど、なるほど……」
「おいおい、なんか空返事じゃねぇかよ? ったく、俺の話には耳を傾けねぇってか!?」
〈うへぇ〜。 仁科先輩、眼鏡の男からガン無視されてて可哀想だなぁ〜……。 にしても、この眼鏡の男は一体いつまで女神様の姿を眺めてるつもりなんだ……?〉
何やら眼鏡の男は、仁科先輩の言葉には一切聞き耳を持たずに、イヤらしい目付きで小さな女神様の顔と身体をジローッと注視している様子だ……。
「ほうほう……。 これまた可愛らしい女神様な事で……? ジュルリ……」
眼鏡の男は、薄気味悪い笑みを浮かべながら舌なめずりをしていた……。
〈うーわッ! こ、コイツ……!? もしや……せ、”性犯罪者予備軍”か……!?〉
〈確かに見た目からして不審者感が満載だったけどもだ……! こんなドストレートに不審者感を醸し出されても対応に困るんだが……っ!?〉
と、そんな隼人の不安な気持ちとは裏腹に、小さな女神様は相変わらず陽気な口調で眼鏡の男と会話をし始める。
「えへへ〜、可愛らしいって言ってくれてありがとねぇ〜! お世辞でも嬉しいよっ!」
「ほっほっほ。 いやはや、お世辞とはとんでもない! 某は”本心”を言ったまでですぞぉ〜!」
〈まぁ、特に女神様は嫌がってないっぽいし、割とこのままでも大丈夫かな……?〉
「うふふっ。 あ、そうだ! 一応、希望が有れば貴方の現世での”死因”を教えてあげる事が出来るけど……聞く?」
「ほぉ~? 某の死因ですと? ……ふむ? 心当たりは有るものの、一応聞いておくとするかな……」
〈お、この”変態眼鏡野郎”の直接の死因か……! 確かに、それは俺も知りたい情報だな……〉
〈恐らく、これから暫くの間、この人とも一緒に行動する事になるかも知れないからな……。 どうか、”同情”出来る死因であってくれよ〜……!〉
と、隼人は天に祈りながら女神様の発言を待っていると、女神様はゆっくりと口を開きながら静かに男の死因を語った。
「えっとね? 君は現世で”悪〜い運転手”さんが乗ったトラックに思いっ切り”轢き逃げ”されちゃったんだよねぇ〜? はっきり言うと、それが君の死因なんだけどね?」
「むぅ……。 や、矢張り、その轢き逃げが某の死因かッ! くそぉ〜ッ! ま、まさか某が轢き逃げに遭うとは何たる不覚ッッッ……!!!」
〈おっ、なるほど……。 どうやら、この謎の眼鏡男は、現世で轢き逃げに遭っていたのか……〉
〈ふぅ……。 それなら、まだどうにか同情出来る死因だから良かった……〉
女神様から眼鏡の男に関する報告を聞いた隼人は、胸に手を当てながらホッと一息つく。
「えっとそれで、一応聞いておくけど、君は現世に未練は有る〜?」
「そんなの当たり前で御座いまするよ女神様ッ! まだ”恋人”すら出来ていなかったと言うのにぃ……ッ! キィ〜ッ! 未練がありまくりで御座いまするぅ〜ッ!」
すると、そう言い放った途端に眼鏡の男が床に突っ伏したかと思うと、そのまま惨めにも手足をバタバタさせながら、ひたすらに駄々を捏ね始めた……。
〈何だ、このおっさん……。 駄々っ子かな?〉
すると、仁科先輩も隼人と同じ感情を抱いたのか、その眼鏡の男の情けない姿を見た途端に仁科先輩が、深く溜息を吐きながら頭を抱え始めた……。
「オイ、隼人ぉ〜……! い、一体何なんだよ! このオッサンはよぉ〜ッ……!?」
「いや、俺に聞かれても……。 知らんとしか言い様が……」
「お、俺等は、こんなオッサンを引き連れて異世界に行くっつーのかよぉ……? はぁ〜、勘弁してくれよぉ〜……」
〈ははっ、流石の仁科先輩でも、こんな我儘な見知らぬオッサンの世話をするのは嫌みたいだな……〉
〈勿論、俺も嫌だけど〉
〈いやぁ〜、出来る事ならもっと”可愛らしい女の子”にしてくれ。 何も、こんな変態眼鏡じゃなくても良いだろ……〉
と、隼人達が呆れていると、不意に女神様の声が辺りに響き出す。
「もう〜っ。 な〜にやってんのよ〜っ!」
女神様はそう言いながら、床に突っ伏している眼鏡の男に向かって優しく手を差し伸べると、パッと笑顔に切り替わりそのまま眼鏡の男に向かって話し掛けた。
「ふふっ。 そんなに気にしなくても大丈夫だよっ♪ だって、この私が君に、”もう一度新たな人生を歩める事が出来るお手伝い”をしてあげるからねっ! だから元気出してっ! ねっ♪」
〈うわぁ~、流石は”女神”だなぁ〜。 なんて、純真無垢な笑顔なんだ……! これには、眼鏡の男も流石に元気を取り戻した事だろうっ!〉
すると、その女神様の優しい笑顔と何やら満足げな隼人の顔を交互に見やった眼鏡の男が、申し訳無さそうな表情を浮かべながら、女神様から差し伸べられている手を取って、ゆっくりと立ち上がると、そのまま静かにボソッと言葉を漏らした。
「お、お手伝い……ですか……。 ははっ、死してなお……某は、誰かしらに迷惑を掛けて仕舞うようですなぁ……。 いやはや、誠にかたじけない……」
すると、涙ぐんでいる様子の眼鏡の男の瞳を見た隼人は、不意に胸が締め付けられる様な気分になっていた……。
〈この人……。 俺と同じ”目”をしている……?〉
〈この人も、どうやら現世で俺とは違う理由で何かしら苦労してたんだろうなぁ……〉
少なくとも、隼人の目には眼鏡の男がその様に映っていた。
すると、そんな眼鏡の男のナヨナヨとした態度が気に入らない様子の女神様が、可愛らしくプクゥ〜っと頬を膨らませたかと思うと、そのまま眼鏡の男の肩をバンバンと叩き出した。
「むぅ〜、そこまで気にしないでよぉ〜っ! 私が勝手にやってる事なんだからさぁーー! 私は皆に喜んで欲しいだけなんだよぉーーっ! 申し訳無さそうな顔しないで笑ってよーー! もう〜っ!」
バンバンバンッ!
「はっ! すまないッ! 女神様の折角の御厚意を無下にする訳には行けませぬな……! ふむぅ、しかし……? それにしても、”もう一度新たな人生”とは一体どのような……?」
〈あっ、そう言えばそっか。 まだこの眼鏡の男は、これから俺達が異世界に行くって事を知らなかったんだっけか〉
「ん〜っと、コホン!」
と、女神様が小さく咳払いをすると、眼鏡の男に向かって異世界についての説明を始めた。
「えっとね? もうとっくに其処の二人には話したんだけど〜。 実は、私は皆を異世界に連れて行ってあげる事が出来るタイプの女神様なんだよねぇ〜っ!」
「い、異世界……ですと?」
「うんっ! そうだよ異世界だよ〜っ! 詰まりねっ? 君を異世界に送ってあげるから其処で、君は新たな人生をスタートさせてねって話なんだよねぇ〜っ!」
すると、そんなまるで夢みたいな話を聞かされた眼鏡の男は、驚いた様に眉をピクッと上げると、そのまま顎に手を当てながら何やら考え込み始めた……。
「ふむ、なる程!? 異世界転生……? ま、まさか、二次元でしか起こり得ないと思っていた事柄が現実に起こるとは……! しかも、それが自分自身に降りかかるとは一体どんな因果か……っ!?」
〈お、どうやら、俺が思っていたよりも異世界に対する理解が早いみたいだな〉
〈割りとすんなりと異世界の事を受け入れている。 まぁ、見た目からして、日頃から異世界アニメとか見てそうだしな……!〉
と、隼人が偏見に塗れた事を思っていた時だった。
不意に、眼鏡の男が思い出したかの様に大声を上げた。
「ハッ!? も、もしや! 死ぬ間際に某が好きな作品、”美乳剣舞”のグッズを複数所持していた事から、この様な奇跡が……ッ!? いやはや、美乳剣舞万歳ッッッ!!! で御座いますなぁッ!」
すると、思わぬ所で聞き馴染みのある単語を聞いた隼人は、思わずビクッと身体を震わせた……。
〈何ッ、美乳剣舞……だとぉ!? まさか、この場所でその名を聞く事になるとはッ!〉
然し、隼人にとっては聞き馴染みのある言葉だったものの、仁科先輩は美乳剣舞と言う単語に対して、何処か意味が理解出来なかったらしく怪訝そうな顔を浮かべていた。
そして、そんな聞き慣れない単語について、仁科先輩が眼鏡の男に向かって思わず聞き返していた。
「……んんっ!? なっ、なんだぁ? その、ビニューケンブっつー奴はよぉ……!?」
すると、その仁科先輩の言葉を聞いた途端に眼鏡の男が、一瞬にして血相を変えた。
そして、仁科先輩に向かって睨みを利かせながら問い質し始めていた……。
「なぬぅッ!? お、お主は……あの名作”美乳剣舞”を知らぬ存ぜぬと申すのか……ッ!?」
「んん? ……あぁ、普通に知らねーが、どうだ? 隼人、オメェは何か知ってるか?」
と、仁科先輩が隼人に向かって話を振ってきた。
〈美乳剣舞か……。 勿論、俺はその美乳剣舞と言う名前の作品の事は詳しく知っている〉
〈やれやれ……。 まさか、この場でその名前を聞く事になるとはな……。 この俺が唯一逆張り出来なかった”伝説のゲーム”……〉
〈あ、因みに、俺は美乳剣舞のキャラクターでは貧乳の”紅頼子”ちゃんが1番好きだ〉
〈うぅ、紅頼子ちゃん……。 これから会えなくなると思うと、少しだけ寂しいなぁ……〉
異世界に行くとなると、もう二度と彼女の姿が見れなくなる為、何処か隼人の心の中で哀しい気持ちが膨れ上がって来ていた。
〈まぁ、そんな俺の今の気持ちはどうでも良くて、取り敢えず仁科先輩に俺が知っている美乳剣舞の事を伝えてみる事にするか……〉
「……えっとほら、仁科先輩、あの小学生達に人気な作品ですよ……? あれ? 知りません?」
「んー、知らねぇなぁー? そもそも、ガキ共の間で何が流行っているのかも全然知らねーしなぁー。 ん〜、でも、どうやらオメェは詳しく知ってるみたいだなぁ?」
すると、その仁科先輩の言葉を聞いた途端に眼鏡の男が、キラキラと嬉しそうな顔を浮かべながら隼人に向かって話し掛けて来た。
「なぬっ! ほ、本当かッ!? 御主は美乳剣舞の素晴らしさを分かってくれるのかッ!?」
〈うっ確かに、俺は美乳剣舞の事について詳しく知っているが、この眼鏡男と”同類”だとは思われたく無い……〉
〈仕方無い、此処は一旦”ニワカ”を装っておくか……〉
「いや、俺は未成年なので、全年齢対象版しかやったことは無いんですよ……」
「ほぉ、それは誠に残念では御座いまするが、一応”感想”の程を御聞かせ頂けないですかな?」
「え、感想ですか? まぁ、確かに攻撃を受けると服が破けたりする際どいシーンも有るには有るんですが、まぁそれでも、ストーリーと設定とか音楽も良かったので個人的には好きなゲームに入りますかね……はい」
〈取り敢えず、この辺が美乳剣舞を語る上でマストになって来る話だろうな……〉
〈ニワカも大体この程度の話しかしないから、俺がヘビーユーザーだと言う事も恐らくバレていないだろう。 実際、ストーリーにキャラデザと音楽は本当に良かったし〉
すると、眼鏡の男はその隼人の回答を聞いて、コクコクと頷いて嬉しそうにしながら質問を続ける。
「うむうむっ! そうであろうな! ……そ、それで! お、御主は、一体どの子が”一番の好み”なのですかな〜っ!?」
〈まだ、質問するのか……。 まぁ、此処は普通に俺が一番好きなキャラを答えておくとするか……〉
「え!? ……そ、そうですね。 個人的には、貧乳の紅頼子ちゃんですかね……」
すると、その隼人の回答を聞いた途端に、眼鏡の男が何やら興奮した様子で鼻息混じりに隼人に詰め寄ったかと思うと、そのまま畳み掛けるかの様に話を続ける。
「ほほぉー! 流石ッ! 御主は中々に御目が高いですなぁっ! いやはや、確かに頼子殿のあの愛らしい仕草と小さき胸は、いささか某の股間が熱い物を覚える程に萌えと言う名の素晴らしさを改めて全国に知らしめて下さりましたからなぁ〜っ! その上、紅頼子殿は本当に秀逸なキャラデザ、表情、声色をしておられます故にッ! ホッホッホ! 御主は、なかなかに”手練”ですなぁ!」
〈うっわ、めっちゃ早口ッ! それに言ってる事がシンプルにキショいッ!〉
〈畜生っ! お、俺の頼子に色目を使うなケダモノがッッッ!!!〉
〈っと、危ない危ない……。 思わずガチ切れする所だったな……。 はぁ〜、落ち着け〜俺……〉
〈よしっ、それじゃあそろそろこの辺で話を切り上げて、さっさとこの眼鏡男の”本名”を聞く事にするかな……!〉
「あ、はい、そうですか……。 あっ! 所で、貴方のお名前は……? えっと、因みに俺の名前は『五十嵐隼人』と申します……!」
「むむっ! 某とした事が、自己紹介をうっかり忘れるとは、何たる不覚ッ! んん〜、コホンッ! 某の名は、『大宮座衛門』と申す! 今後とも宜しく頼みまする……ッ!」
〈へぇ〜っ……! どうやら、この眼鏡の男の名前は、大宮座衛門と言うのかぁ……。 なんか、見た目通りの古風な名前だなぁ……〉
と、隼人が思っていた時だった。
隼人の隣で眼鏡の男の名前を聞いていた仁科先輩が何やら嬉しそうな様子で眼鏡の男に話し掛け始めていた。
「おおっ! なんだよ、俺が思ってたよりも良い名前じゃねぇか! ヘヘッ俺の名前は『仁科権兵衛』っつーんだ! これからよろしくな! 座衛門ッ!」
「うむ! 御主も中々にご立派な御名前だ。 それに、御主の様な大きな身体はとても心強く頼もしいぞ……!」
ついさっき迄、思いっ切り頭を抱えながら蹲っていた仁科先輩だったが、眼鏡の男の本名を聞いた途端に元気を取り戻した様だ。
〈どうやら、格好良い名前が好きみたいだな。 そう言う所も、如何にも仁科先輩らしいけど……〉
「まぁ、取り敢えずこれから宜しくお願いしますね。 座衛門さん」
「ハッハッハ! 御主とは中々に実りのある会話が出来そうで御座いますなぁ! 此方こそ、宜しく頼みまするぞぉ!」
互いの自己紹介を終えて、すっかり意気投合した隼人達は、どんどんと会話を弾ませていった。
すると、すっかり蚊帳の外になってしまった女神様が、頬をプクーっと膨らませながら隼人達に向かって話し掛けて来た。
「もうーー! 皆ばっかり盛り上がってずるいよぉーー! 私も混ぜてよねーー! あ、私の名前は『娯楽の女神ソアボ』だよーーっ! これから私を呼ぶ時には”ソアボ”って呼んでねーー!」
〈おっ、ここに来て初めて女神様の名前が知れたぞ。 女神様の名前は、ソアボと言うらしい〉
〈それに、二つ名も有るみたいだ……。 ”娯楽の女神”か……〉
〈ふぅ〜、それにしても呼び易い名前で、心底ホッとしたぁ〜……。 長い名前とか発音が難しかったりすると、もう本当にいちいち名前呼ぶだけでも、億劫になってしまうからな……〉
「うむうむっ! 隼人殿に、権兵衛殿に、ソアボ殿かッ! ホッホッホ! 某の新しい異世界人生も意外と悪くないのかも知れぬなぁ! ハッハッハ!」
そんな高笑いを上げている座衛門を横目に、ソアボが改めて隼人に対して話し掛けて来た。
「……で、所で隼人君? 何のスキルが欲しいか決まったのぉー?」
「……あっ!」
〈うわぁ……ソアボ様に言われる迄、スキルの事をすっかり忘れてしまっていたぁ……〉
〈どうしよう……? 全然決まってないな……。 うぅ、何にしよう……〉
と、悩んでいる隼人に対して、見兼ねたソアボ様がとある提案をしてくれた。
「うーん? まだ決まってない様なら、私が良いスキルを紹介してあげるけど……? どうかなぁ?」
「え? 本当ですか!? それは助かります! それで、一体どんなスキルでしょうか……?」
「んーっとね? 弓のスキルだけど、【刹那の狙い撃ち】と言うのがあるんだけどねー? どう?」
〈弓か……? まぁ俺的には、弓使いも渋くて悪くない様に思えるな。 剣士とか騎士とかは、ありきたりだしな……〉
「それでね? 一応スキルの説明をしておくけど、このスキルは異世界に居るモンスターや対人戦でも”重宝”するとても優れたスキルだから良く聞いててね?」
〈えぇ、何だって!? このスキルは異世界に居るモンスターや対人戦でも重宝するだって……!?〉
〈そ、そんな事を聞いてしまったら、もう俺の心の中では弓使い一択になってしまうじゃないか……ッ!〉
「えっと、詳しくスキルの説明を行うけど、準備は良い?」
「は、はいっ! も、勿論!」
「分かった! それじゃあ、一度しか言わないから良く聞いててねぇ〜っ! このスキルを使えば、狩りの時に相手に気付かれる事なく楽に相手の急所を上手く狙い撃って簡単に狩る事が出来るんだよぉ〜! ねっ、良いでしょ〜っ♪」
「は、はいっ! そうですね!」
「更に更にぃ〜? 前線で戦っている人を後方からバックアップする事も出来るしぃ〜? その上、色んな種類の”矢”を使う事で様々な状態異常を相手に付与する事も出来るんだよぉ〜? まっ、要するに【縁の下の力持ちタイプ】のスキルって事だけを覚えとけば良いかなぁ〜?」
「ふむふむ、なるほど……」
〈聞く感じ、なんか滅茶苦茶良い感じのスキルだな……。 もう、このスキルで決めちゃっても良いんじゃないか?〉
〈いや、寧ろこのスキルだけで”無双”出来るのではないか……? まぁ、異世界は、そんな簡単に行く程甘い世界では無いのかも知れないけども……〉
〈いや、そうだとしても、こんな便利な弓スキルが使えるだけでも、少なくとも現実世界よりは楽しい世界の筈だッ!〉
隼人は頭を左右にブンブンと振り回しながら、徐々に自身の決意を固めていく。
すると、ソアボは続け様に隼人に向かってスキルの話をし始める。
「んーっと、それにねぇ? 自分が目立ちたい人はこのスキルは敬遠しがちだけど、君みたいに落ち着いてる雰囲気の人は寧ろ率先して取りたいと思える様なスキルだと思うよぉ〜! どう? 悪く無いでしょー?」
「うん……! 良いかも知れないですね……!」
〈ソアボ様から聞かれるまでも無く、とっくに俺はこのスキルが滅茶苦茶欲しいと思っている〉
〈ソアボ様から今の説明を聞いて、個人的に【刹那の狙い撃ち】と言うスキルが滅茶苦茶魅力的に感じてしまった……〉
〈それは俺が、単に前線に出たくないと思っているのか、はたまたソアボ様のプレゼンがとんでもなく上手かったからなのかは解らないが……〉
〈まぁ、兎にも角にも、俺はソアボ様から提案されたその【刹那の狙い撃ち】と言うスキルを授けて貰う事に決めた〉
「はい、そうですね……! じゃあ俺は、その刹那の狙い撃ちと言うスキルで宜しくお願いします……!」
「ふっふっふ! よーし! 決っまりー! えっと、それじゃあ後は……。 んと、座衛門君は何にする〜?」
ソアボから話を振られた座衛門は、意気揚々と返答する。
「ややっ!? そ、某もスキルが貰えるのですか……!? まぁ、確かに異世界転生にはスキルは必需品ですからなぁ! よ〜し、決めましたぞぉ〜ッ!」
「お! 早いねー! それで何にするのー?」
〈おっ、座衛門さんが欲しがるスキルかぁ〜……! まぁどうせ、座衛門さんは”異性関係”のスキルを求めるんだろうけどな……〉
「某は、異世界で女の子を意のままに操る事の出来る能力を―――」
〈と言う俺の予想は、どうやら普通に当たったらしい……。 大宮座衛門……。 どうやら、見た目通りに安直な男らしい……〉
だが然し、座衛門がその答えを言い終える前に、ソアボが一瞬で遮ってしまった。
「ブブーッ! はい、却下!」
〈いや、普通にソアボ様に却下されとるがな……〉
〈ん〜……? と言う事は異性の好感度を稼ぐには自力で頑張れと言う事なのだろうか?〉
すると、そのソアボの却下と言う言葉を聞いた途端に座衛門は、何やら焦った様子でソアボに向かって詰め寄った……。
「なぬぅっ!? ……そっ、それでは某の”ハーレム”が創れぬではないかッッッ!!」
〈いや、異世界でハーレムを創ろうとしてたんかい……。 まぁ、気持ちは分かるけどさ……〉
すると、そんな座衛門から、その様な話を聞いたソアボは、呆れた様な表情で座衛門に向かって詳しい説明を行った……。
「はぁ〜……いい? 異世界では自力で女の子の心を掴んでくださーい! それに女の子は”物”じゃないんだよー!? 催眠とか洗脳とか倫理的にNGだからねっ!?」
「ハッ! た、確かに……ッ!?」
「それに、現世に良くある異世界物は、確かに有り得ない程に女の子がチョロいけど、あれは飽く迄も”フィクション”だから成り立っている訳であって、あんな事を実際にやるのは極悪非道の犯罪者予備軍だけだからねー!?」
「あぁーーーッッッ!!! たっ、確かにぃぃいいッッッ!!??」
座衛門は思わず驚愕の声を上げた。
〈どうやら、座衛門さんは現実とフィクションの区別が余りつかない人らしい。 だから、あの様な侍のコスプレ服を着ていたのかと、不思議と腑に落ちたな……〉
「それに異世界とは言えども、現実であんなにチョロいのは”ビッチ”しかいないからねー!?」
「えぇーーーッッッ!!?? そんなッ! ビッチだけなのぉぉおおッッッ!!??」
「うん。 なので、ハーレム系のスキルは全面的に天界から禁止されてまーす! まぁ、私が禁止にしたんだけどねっ! と言う訳で、ハーレムが創りたいんだったら自力で創ってよねーーっ!」
と、シンプルに正論を言われてしまった座衛門は、酷く落ち込んでしまった。
そして、何故か彼は長々と語り出した……。
「むぐぐぅぅ……。 確かに、言われてみれば……! そ、某が知っている異世界物に出て来る女の子達は、まるで”ラブドール”の様に心が無い様な人物しか居なかった故に、某はとんでもない勘違いをして仕舞った様で御座いまするぅ……。 うぅ、すまないソアボ殿ぉ……」
すると、そんな座衛門の言葉を聞いたソアボは、顔を引き攣りながらも、健気に笑みを浮かべる。
「ちょ……。 女の子をラブドール扱いって……。 まっ、まぁ……反省しているみたいだし、この件に関しては不問にしておくねっ! じゃ、じゃあ改めて聞くけど、君は一体どんなスキルが欲しいのかな〜?」
ソアボから改めてスキルの事を問われた座衛門の目付きは、先程とは打って変わって、キリッと勇ましい物になっていた。
〈どうやら、本当に反省したらしいな……〉
「うむ、それならば、某はどんな強力な武器も容易く扱える様なそんなスキルが欲しいと思いまする……!」
「うん! いいね〜っ! 今度は健全だね〜っ! そういうのを求めてたんだよね〜っ!」
「ふっふっふ。 某は心を改めましたからなッ!」
「よしっ! だったら君には、【熟練の百戦錬磨】と言うスキルが適切かなー!」
「ほぉ? 熟練の百戦錬磨とな?」
座衛門からスキルの事を問われたソアボは、優しく微笑みながらスキルについての説明を始める。
「えっと、このスキルは呪われた武器とか、重くて持ち上がらない武器だとか、逆に弱くて実戦でまともに使えない様な武器でさえも、このスキルの効果によって大幅にパワーアップして強制的に使える様にするスキルだよっ!」
〈へぇ〜。 なんだか、思ってたよりも使えそうなスキルだなぁ。 割りと座衛門さんに合ってそうな気もするし〉
「まぁ、このスキルは自分自身を強化すると言うより、武器を強化させる事を目的としたスキルだね……! 詰まり、所謂……【武器特化タイプ】だねー! うんっ! いいんじゃない?」
「うむ、武器特化タイプのスキルですか……。 中々に良い響きですなぁ……」
「うんっ! それじゃあ座衛門君も、これで決まりだねっ!」
こうして、改めて全員のスキルが決まった所で、仁科先輩が総括に入った。
「うっし! 一応、これで皆のスキルが無事に決まったな! えっと、俺のスキルが【最強の意志】で、隼人のスキルが【刹那の狙い撃ち】で、座衛門のスキルが【熟練の百戦錬磨】だっけか……? どうだ、特に間違ってねぇよな?」
「うんっ! 間違ってないよぉ〜!」
「おぉーーっ! 良いじゃねぇか! よく分かんねーけど、なんか滅茶苦茶かっけぇーーじゃねぇかよぉ〜っ!」
〈確かに、仁科先輩の言う通りだな……〉
【最強の意志】に……。
【刹那の狙い撃ち】と……。
【熟練の百戦錬磨】か……。
〈どれも、少年心を擽るような良い名前の響きをしているなぁ……〉
「いいね〜っ! 権兵衛君が”パラディンタイプ”で、隼人君が”縁の下の力持ちタイプ”で、座衛門君が”武器特化タイプ”で、それで私は”サポートタイプ”だから……。 うんっ! すっごくバランスが良いね〜っ! ”私達”ーー!」
すると、何やら”縁の下の力持ち”と言う単語が気掛かりな様子の隼人が、首を傾げながらソアボに向かって質問を投げ掛ける。
「……う〜ん、でもこうして声に出してみると、なんか縁の下の力持ちタイプって変じゃないですか? 例えば普通に”アーチャータイプ”とかでもいいんじゃ……?」
然し、その隼人の質問に対して、座衛門と仁科先輩が一斉に否定しだす。
「いやいや、隼人殿。 某はアーチャータイプと呼ぶよりも、縁の下の力持ちタイプと呼ぶ方が個人的に気に入ってますぞぉ!」
「えぇ? マジで?」
「俺も、縁の下の力持ちの方がなんかオメェが皆の事を支えてる感じがして、より一層オメェの事を守りたくなるから俺も縁の下の力持ち派だぜぇッ!」
「えぇ……?」
すると、最後にソアボがニヤけながら隼人の脇腹を肘でツンツンと突っついた状態で衝撃的な一言を発した……。
「そもそもぉ〜? 女神の私が考えた名称を訂正させる事は”一切出来ません”よ〜だっ! 残念でした〜隼人君ーーっ! キャハハ!」
〈うわぁ、マジかよ。 まぁ、それもそれで仕方無いか……〉
「わ、分かりましたよ……。 俺も、縁の下の力持ちタイプで異論は無いですよ……はい」
流石に、女神の権限を主張されるとなると、隼人はもう押し黙る事しか選ぶ道は無かった。
〈まぁ、縁の下の力持ちって、よくよく考えてみるとそこまで悪く無いのかな……?〉
「ふふっ、因みにぃ〜? このテンションだと皆も気付いてるかも知れないけど、私も君達と一緒に異世界で冒険するつもりだから、これからもよろしくねぇーー!」
〈あっ、やっぱり、ソアボ様も俺達に付いて来るつもりなのか……。 まぁ、でもソアボ様は可愛いから全然アリだな……!〉
すると、隼人は念の為に後の天界の事についての話をソアボに投げ掛けた。
「……あ、でも、この後の天界については大丈夫なんですか? ……今此処に居る神様はソアボ様しか居らっしゃらない様ですが……?」
すると、その隼人の質問に対して、ソアボはまるで”他人事”の様に返答した……。
「んん〜? まぁ、他の神様達は大体全員が勝手にサボってるだけだしぃー? それに私が居なくなったら、働き蟻の法則で今までサボってた神様達が私に変わって、働いてくれる筈だからきっと大丈夫だよーっ!」
〈えぇ? そんな考えで本当に大丈夫なのかよ天界は……?〉
「……そもそも、私は一人で幾数百年もの間、天界の面倒くさ〜い仕事をぜ〜んぶ押し付けられていたからねぇ……。 今じゃ私に文句を言える同僚や上司は居ないんじゃ無いかな〜?」
〈……何やら、一瞬だけソアボ様から”殺意”なる物が見えた気がしたな。 どうやら、相当他の神様達の事を恨んでいる様子だ……。 然し、”触らぬ神に祟り無し”と言う言葉がある。 と言う事で、俺も天界の事は今後一切気にしない事にしよう……ッ!〉
「ハイッ! ……と言う事で、君達も天界の事は、ま〜ったく気にしなくて良いから、早く異世界に転生転移させてあげるねー! そりゃあーーーッッッ!!!」
若干焦り気味のソアボ様がそう言うと、その瞬間に隼人達は半ば強制的に見知らぬ世界に飛ばされたのだった……!
〈おいおい、こんな唐突な異世界転生転移が他に有っただろうか……!? それに、何だか凄い風圧だ……ッ!〉
すると瞬時に、仁科先輩が感激の声を上げた。
「おおおーーっ!! すげぇーっ! もう新しい世界が見えるぞぉぉおおーーーッッッ!!」
「……むっ!? いっ、今……獣耳の人間が一瞬チラッと見えた気がしたが……ッ!? まっ、まさか獣人が居る世界なのか……ッ!? ッが……眼福なり……ッ!!!」
「えへへー! どうー!? 凄いでしょー! わくわくするよねーーー!!!」
「あぁ……! 凄く……ドキドキする……!」
〈遂に来たかと言う高揚感に幸福感と更に優越感……! 俺の中で、様々な感情が心の中で巡るめく程に、芽吹き始めていた……!〉
〈そして、遂に始まる……! 俺の……いや、俺達の……!〉
思いの外上手くいかない理想の異世界生活が……!!!
【現在位置】
【始まりの大地ストファー】
【現在の日時】
【4月7日 13時9分 春】
【五十嵐隼人】
【状態】:極度の興奮状態
【装備】:学校の制服
【道具】:無し
【スキル】刹那の狙い撃ち【効果】:どんな相手にもバレずに急所を狙い撃ち出来る。前衛向きでは無く後衛向きのスキル。
【思考】
1:ヤバい楽しみ楽しみ楽しみー!!!
2:うおっ! 景色やべー!!!
3:めっちゃ綺麗ーーー!!!
【基本方針】:異世界をめちゃくちゃ楽しむ。現世には帰らない。
※スキル刹那の狙い撃ちを取得しました。
【仁科権兵衛】
【状態】:若干興奮気味
【装備】:学校の制服
【道具】:無し
【スキル】最強の意志【効果】:誰かを守る意志が強ければ強いほど自身の身体能力がアップする。誰かを守る意志が無いと効果は発揮されない。
【思考】
1:おいおい、隼人? オメェ少しは落ち着いたらどうだ?
2:まぁ、確かに絶景な景色だよなぁ……。
3:この景色を家族にも見せてやりたかったぜ……。
【基本方針】:隼人達を守りつつ満足させてから魔王を倒して自分は家族達の為に現世に帰る。隼人とは出来る事なら現世に一緒に帰りたいが、本人が嫌がる様なら諦める。
※スキル最強の意志を取得しました。
【大宮座衛門】
【状態】:獣耳に大興奮
【装備】:眼鏡 美乳剣舞に出てくる侍姿の男キャラのコスプレ服 美乳剣舞の剣のレプリカ
【道具】:美乳剣舞のキャラ達が描かれたシール100枚
【スキル】熟練の百戦錬磨【効果】:どんな武器も最強クラスにして意のままに操る事が出来る。但し、自分自身の能力は一切向上しない。
【思考】
1:獣耳万歳ーーー!!!
2:獣人剣士万歳ーーーー!!!!
3:美乳剣舞万歳ーーーーー!!!!!
【基本方針】:美乳剣舞を異世界で流行らす。ハーレムを創る。自分を轢き逃げしたトラックの運転手がこの世界に転移転生をした場合は容赦無く無残に殺す。
※スキル熟練の百戦錬磨を取得しました。
【娯楽の女神ソアボ】
【状態】:たーのしいー!!
【装備】:金色の羽衣 金色の指輪と腕輪 女神専用の袋
【道具】:女神専用の袋に色んな物がめちゃくちゃ入っています。
【スキル】能力授与【効果】:まだスキルを取得していない人にスキルを授ける事が出来る。
【思考】
1:ねー!ドキドキするでしょー!
2:権兵衛君ももっと楽しんでー!
3:うん! ふわふわの獣耳って可愛いよねー!
【基本方針】:異世界に慣れていない皆を全力でサポートする。自分も皆と一緒に異世界ではしゃぐ。自分を天界に束縛して散々こき使った天界の神々に復讐したい。
※隼人達にスキルを授けました。
ご感想お待ちしております…!




