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思いの外上手くいかない理想の異世界生活!  作者: ミカル快斗
第一章 各々の思惑が始まる一日目
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第二話 真っ暗な天界 〜五十嵐隼人編〜

書き溜めしていた二話目です…!

六話まで書き溜めしているので六話まで一気に更新します…!

〜五十嵐隼人の視点〜


――――謎の空間――――【現在時刻、不明】



 ………起きなさい。

 早く……起きなさい。

 ”導かれし者たち”よ……。


 〈俺の脳内に安らかな女性の声が聞こえて来る……〉


 〈その声は、まるで神話に出てくるような所謂(イワユル)”女神様”のように……優しく、時に厳しく、温かみのある声……〉


 〈俺はその声を聞くだけで正に”夢見心地”な気分になっていた……〉


 「あぁ……女神……様……?」


 〈俺は思わず、そんな言葉がポロッと出てしまった。 ははっ女神様なんて、この世に居るはずが無いのに……〉


 「おや? ウフフ……お忘れですか? 私は貴方の願いを聞き入れて、この場所に連れてきたのですよ?」


 「えっ、俺の……願い……?」


 その瞬間、隼人の脳内に先程迄の屋上での出来事が一瞬でフラッシュバックした。


 「あっ、思い……出した……」


 〈と言う事は、さっきから聴こえているこの優しい声は、幻聴でも妄想でも無く、正真正銘現実で聴こえている声だと言う事だ……っ!〉


 そう確信した隼人は、自分自身に語り掛けている女神のその美貌を今すぐにでも拝む為にも一目散に飛び起きた。


 ……然し、其処に居たのは。


 「お! や〜っと目を覚ましたね! ヘヘ、どう? 私の見事な迄の”お姉さん声”はぁ〜?」


 其処に居たのは、年端もいかない様な”幼い姿をした少女”だった。


 「君は、一体……?」


 「えへへ〜。 それよりも、隣を見てごら〜んっ!」


 呆気に取られていた隼人だったが、少女のその一言に従って隣を見てみると、其処には仁科先輩と”謎の見知らぬ男”がうつ伏せに倒れていた。


 〈んん? 仁科先輩はともかく、この眼鏡を掛けた謎の”侍服姿”の男は一体何者なんだ……?〉


 〈こんな時代錯誤な格好をしていると言う事は、かなりの”変わり者”なのかも知れないな……〉


 と、隼人が考えていると、隣で倒れていた仁科先輩がモゾモゾっと動き出した。


 モゾモゾ……。


 「………うぅ〜」


 「あ、どうやら、やっと起き出したみたいだねぇ〜! ほらっ、早く起きて起きて〜っ!」


 「んん〜〜……。 ふわぁぁ〜……。 うっせぇな〜……。 ん、んがッ!? だっ、誰だッ!? オメェッ!!」


 少女がヒョコっと、仁科先輩の顔を覗き込みながら話し掛けると、その急に目の前に現れた謎の少女の顔を見た仁科先輩は思わず驚きの声を上げた。


 「なんだオメェッ! ま、まさかオメェが俺達を此処に連れて来た張本人って奴かッ!? な、何が目的だッ!? 俺達を一体全体どうするつもり何だよッ!?」


 「お、落ち着いて下さい仁科先輩! こ、この娘は多分俺達の味方ですよ!」


 「んぁ……? み、味方だとぉ〜? どっからどう見たって、コイツが俺達を誘拐した犯人じゃ……?」


 ジロッ……。


 仁科先輩は、訝しげに少女の顔を見回す。

 すると、ジロジロと顔を見られている謎の少女は、ポッと顔を赤らめながら顔を伏せ始めた。


 「もっ、もう〜っ! そっ、そんなに見詰められたら恥ずかしくなっちゃうよ〜っ! もう、私の顔を見るの禁止〜っ!」


 謎の少女からの思わぬ反応を貰った仁科先輩は、呆気に取られた顔を浮かべながら頭を抱え始めた……。


 「なっ、何なんだよコイツァ……!? ほっ、本当にこんなガキが俺達を攫ったっつーのかよぉ……!?」


 「いや、だから誘拐とかそう言う話じゃなくてですね……。 えっと、一応仁科先輩にも状況を理解出来る様に俺から説明させて頂きますね? えっとですね―――」


 と、隼人が意気揚々と状況説明をしようとした瞬間だった……。


 突如として、仁科先輩が大きな足音を響かせながら隼人の方にへと詰め寄って来た。


 ドスドスッ!


 「おっ!? おい隼人ッ! そういえば、おいオメェ! えっと怪我は無いか……? さっき、このガキの事を味方だとか何とか言ってたが、まさか既に”洗脳されてる”ってオチじゃあ無いよなぁ……!?」


 仁科先輩が隼人に向かって心配そうに顔を近付けて来る。


 〈かっ、顔が近い……っ! 鼻息も荒いし……っ! 俺の事を心配してくれるのは有り難いが、この状況は何も嬉しくないッッッ!!〉


 苦笑いを浮かべながら隼人は仁科先輩の顔を押し戻すと、ゆっくりと状況説明を行った。


 「えっと俺は、大丈夫ですよ。 そ、それでですね! 良いですか仁科先輩! 今から俺が言う事をゆっくりと聞いて下さいね!」


 「おっ! どうやら元気そうだなっ! ふぃ〜、安心したぜぇ〜! んで、俺は一体何を聞けば良いんだ?」


 「だから、俺が今から現状の説明をするので黙って聞いて下さいって言ってるでしょうがッ!」


 「ほぇ〜! 何だよ、隼人オメェ最初から何か知ってたんかぁ? だったら最初から言ってくれりゃあ良かったのによぉ〜! がはははは!」


 〈んぐっ……。 落ち着け俺……! に、仁科先輩のペースに呑まれるなよ〜……〉


 隼人は、コホンっと咳払いをすると、ゆっくりと息をスゥーっと吸い込みながら気持ちを整える。


 〈よしっ、大丈夫だ……!〉


 「えっと、先ず初めに其処に居る女の子の事ですが、多分あの娘は”女神様”だと思います」


 「はぁ〜? んな訳ねぇだろ隼人! こんなガキが女神様な訳がねぇだろうがよっ!」


 「いや、黙って俺の話を聞いて下さいって言ったでしょうがッッ!!」


 「いや、だってよぉ……? 女神様って言うのはもっと綺麗な人だとばかり……」


 「うわぁぁん! 私、女神様なのにーーッ! 信じてくれない上に綺麗じゃないって言われたぁぁーー!! ちょーショックなんですけどーー!!」


 〈駄目だ……! 何なんだ、この状況は! 女神も泣き出す始末だし!〉


 〈クソッ! い、一旦話題を変えるしか無いのか……っ!? な、なにか良い話題は……?〉


 隼人は慌てた様子で周囲をキョロキョロと見回してみると、ふと地面に突っ伏している眼鏡の男の姿が目に映った。


 〈あ、そうだ! そう言えば、この倒れている眼鏡の男の事を忘れてたな……!〉


 〈よしっ! 早速この倒れている男の話を仁科先輩に振ってみるか……!〉

 

 「あっ! そ、そう言えば! こ、この隣で眼鏡を掛けて倒れているこの怪しげな風貌の男は、一体何者なんでしょうかね〜?」


 「……お、おう!? た、確かに、この眼鏡の怪しい男の正体は気になるなぁ……! オイッ! め、女神様……だっけか!? この倒れている男は一体誰なんだよ!」


 「ん〜? でも、君ぃ〜? 私の事を女神様だと認めてないんでしょ〜?」


 「さ、さっきは無礼な事を言って悪かったな! 分かった! 認めるよ! だから、この男の詳細な情報を俺達に教えてくれねぇか! なっ、頼むよぉ〜!」


 仁科先輩は、頭を下げながらパンっと手を叩くと、そのまま女神様に向かって必死に懇願する……。


 すると、そんな仁科先輩の態度が気に入ったのか、何やら機嫌を取り戻した様子の女神様が笑みを浮かべ始める。


 「むふふ……っ! うん、分かった! それじゃあ、教えてあげるねっ!」


 ニカッ!


 小さな女神様は、隼人達に向かって無邪気な笑顔を贈る。


 そんな女神様の渾身の笑みを見た隼人は、思わずニヤニヤしてしまう……。


 〈うーむ……。 流石は女神様と名乗るだけの事は有るな……。 身体は小さいものの、顔面偏差値はクラスメイトの女子達を軽く超えているな……〉


 〈そ、それに……。 何故だか分からないが……め、女神様の可愛らしい顔を見ていると、思わず顔がニンマリしそうになって来るぞ……っ!?〉


 すると、何やら隼人の様子が可笑しい事に気が付いた仁科先輩が心配した様子で隼人に話し掛ける。


 「ん? どした〜隼人? 急にニヤついてよぉ? 今の話に何処か笑う要素が有ったかぁ〜?」


 「えっ!? いやっ、べっ……別に……!」


 〈焦ったぁ〜……! ど、どうやら顔に出ていたらしい……。 次からは、気持ちが顔に出ない様に気を付けないとな……〉


 「おっと、わりぃ。 今は隼人に構ってる場合じゃ無かったな。 んで、この男は一体何者なんだよぉ〜?」


 仁科先輩から話を振られた女神様は、顎に人差し指を当てながら返答した。


 「んーと、実はね? その眼鏡の人もこれから異世界に行く人なんだよ〜? 君達と同じようにね〜っ!」


 「なにィッ!?」


 〈おっ、なるほどね。 と言う事は、この眼鏡の男も俺達の”味方”って事で良いんだよな? それなら、この謎の男を特別警戒する必要も無くなったな〉


 「そっか。 俺達と一緒の境遇の人か……」


 「はぁぁーーッッ!? い、異世界だとぉ……ッ!?」


 辺りに仁科先輩の怒号が響き渡る……。


 すると、女神様はキョトンとした顔を浮かべながら声を漏らす……。


 「え? 急に大声を出したりなんかして……ど、どうしたの〜?」


 すると、その気の抜けた返答を聞いた途端に仁科先輩が目を血走らせながら女神様に詰め寄っていく。


 ドタドタッ!


 「わっ! な、なに……?」


 「おっ、おい! ちょっと待てよッ! 俺は普通に屋上で寝てただけだぜッ!? な、何で俺が異世界なんて大層なもんに……!?」


 「え、えっとね? 実はね、其処の隼人って子が異世界に行きたいって私に呼び掛けて来たから……」


 怯えた様子の女神様が、咄嗟に隼人の方に指を差しながら仁科先輩の質問に答えると、仁科先輩はバッと隼人の方に向き直った……。


 「おっ!? オイッ隼人! オメェ本気なのかッ!? い、異世界に行きたいってよぉッ!」


 「ヒッ!? え、えっとですね〜……」


 と、仁科先輩が隼人にも詰め寄ろうした時だった。


 「えへへへへ〜〜! ちょっと良いかなぁ〜?」


 何やら先程迄の雰囲気とは打って変わり、女神様が不気味な笑みを浮かべながら、仁科先輩に問い掛け始めた。


 「うふふ。 駄目だよ〜、”現世に絶望してる人”に対してそんな乱暴な問い詰め方をしちゃ〜! それに、もしかしたら権兵衛君も、本心じゃ異世界に憧れてるとかじゃないのぉ〜?」


 「んあ? 何でオメェ、俺の名を知って……?」


 「忘れたの? 私は女神様だよ? 君達の名前ぐらい知ってても、なんら可笑しくないでしょー? それで、どうなの? 権兵衛君も異世界に行きたいの?」


 「お、俺は……」


 〈に、仁科先輩……? 何だか身体が僅かに震えている様な……?〉


 暫しの沈黙の後に、仁科先輩は重たい口を開いた……。


 「まぁ確かに、ガキの頃はファンタジー世界に憧れた事も有ったけどよぉ? それは飽く迄、ガキの頃の話だぜ!? そ、それに……。 お、俺は”父ちゃんの肉屋”を継がなきゃいけねーし……!」


 〈仁科先輩……。 そう言えば、仁科先輩の実家は肉屋だったな……〉


 〈確か、仁科先輩は学校が終わると、毎日寄り道もせずに真っ先に家に帰って親の仕事を手伝ってたみたいだしな……〉


 「ん〜。 その実家の肉屋ってそんなに大事なのぉ〜?」


 「あぁ。 勿論大事だぜ!」


 すると、その仁科先輩の自信に満ちた言葉を聞いた女神様は、不思議そうな顔を浮かべながら再び仁科先輩に問い掛けた。


 「ふーん、どうやら君は本当に異世界に行きたく無いみたいだねぇ〜?」


 「あぁ、勿論行きたくねぇよッ! 俺が居なくなったら、ダチと母ちゃんと父ちゃんが悲しむしな……。 それに、つい最近になって、可愛い妹も無事に産まれたばっかだしな……!」


 「へぇ〜! 妹ねぇ〜?」


 「あぁ、そうだ! 俺の大事な妹だッ! 俺はこれから産まれたての妹の面倒も……忙しい父ちゃん母ちゃんの変わりに見なきゃいけねーし……! ッだから、俺はまだ……皆が居る世界を離れる訳には行かねぇんだよぉッッッ!!」


 「ほぉ〜。 大した心意気だねぇ〜?」


 「仁科……先輩……」


 〈……そもそも、仁科先輩は俺の勝手な行動に巻き込まれただけだ。 言ってしまえば、”たまたま俺と屋上に居合わせた”ってだけ……〉


 〈たったそれだけなのに、訳も分からず真っ暗な天界に連れて来られたと思ったら、その上異世界に無理矢理連れ出されそうになっているのは余りにも仁科先輩が可哀想過ぎる……〉


 〈そうだ……。 仁科先輩は、俺なんかとは違って現実が充実してるし、何より居なくなって悲しむ人が沢山居る……〉


 〈それなら、仁科先輩の事を想って今すぐにでも、現世に帰すべきだろう〉


 そう思い立った隼人は、女神様に向かって意見を言う事にした。


 「め、女神様っ! えっと、仁科先輩の事を元の世界に戻して―――」


 「まぁ、待て隼人。 それよりも、俺からお前に対して話したい事が有る」


 「え……?」


 隼人が仁科先輩を元の世界に戻すように、女神の少女に話し掛けようとした時だった。


 仁科先輩が隼人に向かって神妙な面持ちで語り掛けて来た……。


 「俺の事は後で良い。 それよりもだ。 ……オメェはどうするんだよ? お前は本当に異世界とやらに行くのかよ?」


 「えっ……?」


 「どうなんだよ?」


 〈……仁科先輩。 俺は貴方とは違うんだ……〉


 〈貴方と違って俺には友達どころか、そもそも”家族”なんて呼べる人すら……ッ!〉


 段々と苛つき始めた隼人は、仁科先輩に自分の思っている事をサラけ出す事にした。


 「仁科先輩。 俺は貴方とは違って、もうこの世の中に対して未練なんてもんは無いんですよ。 どうか、この俺の気持ちだけは”理解”して欲しいです。 仁科先輩……」


 「ほぉ〜? そうか。 どうしても行くっつーんだな?」


 「はい。 俺は本気ですよ」


 …………………。


 ……………………………………。


 ………………………………………………………。


 〈き、気まずいな……。 な、何でも良いから早く答えてくれよ仁科先輩〜……〉


 と、隼人が仁科先輩の返答を待っていると、腕を組んでいる状態の仁科先輩がコクリと頷いた……。


 「ふむふむ、お前のその目。 どうやら”本気の目”だな」


 「えっ?」


 「ふぃ〜……! 降参降参っ! だったら俺なんかが止めたって無駄だな。 んで、ところでよ。 おい、そこの女神。 その隼人が行くっつー異世界ってのは、一体どのくらい危険な所なんだぁ?」


 「ん〜? 危険〜?」


 〈んん? 仁科先輩が真剣な面持ちで女神様に問い掛けている……? どうやら、俺の本気の眼差しを見て、俺に対する説得を止めてくれたらしいが……〉


 〈その上、俺の為に女神様から情報を引き出そうとしている……? まぁ確かに、異世界に行くのであれば、その世界の危険性もしっかりと知っておくべきだよなぁ……〉


 隼人は、真剣な眼差しで女神様の言葉に耳を傾けた。


 「ん〜、そうだねぇ……? まぁ、”生身の人間だとすぐ死ぬような世界”だけどねぇ〜?」


 〈……なるほど。 どうやら、俺が思っているよりもずっと危険な世界観の異世界らしいな……〉


 すると、女神様からその様な事を聞いた仁科先輩が、ギョッとした顔を浮かべたかと思うと直ぐ様、怒鳴り散らしながら声を荒げ始めた。


 「はぁ!? ッお、おい待てよッ! それじゃあ、もしコイツが異世界に行ったとしても、直ぐに死んじゃわねえかッ!? そ、そんな危険な世界に隼人を、おちおち行かせる訳にはいかねぇんだがッッッ!!??」


 〈に、仁科先輩……? そんなに、俺に対して気を遣わなくても良いのに……〉


 と、隼人が仁科先輩の行動に対して疑問に思っていると、女神様が慌てふためいている仁科先輩を落ち着かせる為に、異世界に対しての補足を入れてくれた。


 「まーまー、落ち着いて! いい? 異世界に行くって言っても流石に生身で行かせる訳無いでしょ〜?」


 「そ、そうなのかっ!?」


 「うんうんっ! そんな事したらすーぐ死んじゃうし! だから、なるべく死に難い様に、”ある程度強化”してから隼人君の事を異世界に送ってあげるから安心してね?」


 〈お、なるほど! どうやら、この手の異世界転移、若しくは異世界転生物にありがちな異世界に行く前に”能力強化”と言う工程を踏むらしいな……!〉


 「ほぉ〜? んで因みによぉ? その異世界とやらに行ったら現世に帰る事は出来るんだろうなぁ? 後、異世界とやらと、現世との時間の流れの違いも詳しく教えてくれや」


 〈あれ? 普段は、お調子者の仁科先輩ですら、この状況で今必要な情報を得ようとしている……?〉


 〈……だけど、それに比べて俺は一体何なんだ……? 危険な世界に行くと言う自覚が足りなかったんじゃないか?〉


 〈刺激を求め過ぎて、自分の命を軽く見てたんじゃないのか? そもそも、本当に俺が求めている物が異世界には有るのか?〉


 〈……だんだんと俺の心の中で未知の世界に対する恐怖心が芽生え始めている事に気が付いた〉


 〈然し、それでも俺の心の中では、まだ僅かに好奇心が勝っていた〉


 〈そう、異世界には生身で行く訳ではなく、ある程度強化してから行くと言う、あの女神様の”魔法の様な言葉”によって……〉


 「ん〜? ……まぁ、異世界で”魔王”みたいな奴を倒せば、何でも願いが1つだけ叶うから、その時に元の世界に戻して下さいって言えば戻れるんじゃないかなぁ〜?」


 「ほ、本当だろうなぁ?」


 「ホントホント。 私が嘘を吐く訳が無いでしょ〜?」


 「おう、分かったぜ。 一応、信頼してやんよ……。 ”一応”……な」


 「えっと、後は異世界と現実世界との時間の流れの違いだっけか? ふふっ、それなら安心して♪ 異世界に行ってる間は現世の時間は”ほぼほぼ停止してる”って解釈してくれても問題無いからねぇ〜っ!」


 〈なるほど。 某戦闘漫画で言う所の精神と時の部屋と似た様な理屈なのか……〉


 「へぇ〜? なるほどなぁ〜。 少なくともやっとの思いで魔王を倒して、現世に戻ったら何年後の世界でした〜っていうオチにはならない訳なんだよな?」


 「勿論、勿論♪」


 「……それで、今俺達が居るこの空間は一体何処なんだ? それも説明してくれねぇか……?」


 「ん〜とね? この空間は”天界”って言うんだよ〜? ほら、私って女神だし!」


 「ほぇ〜! 此処が天界って奴なんか〜! 何か変な感じだぜぇ〜!」


 「えっと、もうちょっと天界について詳しく説明するとね? 所謂、現世で不幸な死に方とか、不満とか勘違いとか、様々な理由で神様達に無理矢理連れて来られた人がいっぺんに集まる場所がこの天界って訳! まっ、今は私達しかいないけどね〜?」


 「……そうか! それじゃあ俺は、その中だと”勘違い”って奴で此処に連れて来られたって訳だな! ははっ、女神様って言うのも案外うっかり者なんだなぁ〜!」


 「ピンポーン、ピンポーン! 当ったりー! ごめんね〜! 間違えて隼人君と一緒に連れて来ちゃってさぁ……。 迷惑だった……でしょ?」


 「いや、でぇじょうぶだ! 俺も突然の事で、ちっとパニックになってたみてぇだ! こっちこそ威圧するような事しちまってゴメンなぁ?」


 「いーの、いーの! 私のミスなんだから! よしっ、それじゃあ君の事は今直ぐにでも現世に帰してあげるからねぇ〜! えっと、ちょっと待っててね〜」


 「お、良かったじゃないですか仁科先輩! 女神様が現世に戻してくれるって!」


 すると、仁科先輩はニィっと口角を上げたかと思うと、そのまま声を弾ませながら呟いた。


 「……いや待て隼人。 俺も、お前と一緒に異世界とやらに行く事に決めたぜ……!」


 「……えっ?」


 思い掛けない仁科先輩の一言を聞いた隼人は、思わず困惑する。


 「あれ〜? どうしたの? 急に心変わりしたみたいだけどぉ〜?」


 〈に、仁科先輩……? 急に一体、どうしたんだよ……?〉


 〈仁科先輩も俺と一緒に異世界行く事にするって、一体どういう風の吹き回しなんだ?〉


 〈いや、仁科先輩も来てくれるのは、俺にとっては、とても頼りになるし戦力も大幅アップするし、良い事づくめなのだが……。 本当に一体どういう心境の変化なんだよ……?〉


 と、隼人が仁科先輩に対して疑問に思っていると……。


 仁科先輩は隼人に向かって語り出した……。


 「だってよ隼人? 俺は、お前に現世で何もしてやれなかっただろ? ……毎日挨拶してやるとか、毎日遊んでやったりとかさ? そういう俺に出来る些細な事を何か1つでもしてやれてたら、お前は現世に絶望する事なく、楽しく毎日を生きる事が出来た筈だよな?」


 「え……?」


 「……おい、念の為もう一度聞くが、お前は異世界に行きたいという気持ちは、まだあるのか?」


 「え、は……はいッ!」


 「ほぉ? ……うっし! なら決まりだ。 俺はお前に現世で出来なかった事を異世界でしてやって、そして危険な時は守ってやって、それから魔王を倒して俺は現世に帰って妹の面倒を見て実家の肉屋を継ぐっ。 ヘヘッ……どうだッ!? 最っ高なプランじゃあねぇか!? なっ! なっ!」


 「お~! 良いじゃん、良いじゃ〜んっ!」


 はしゃぐ仁科先輩と女神様とは対照的に、隼人は表情を曇らせる……。


 〈……やっぱり仁科先輩は根っからのお人好しだ。 俺の事なんか放って置いてくれたって別に良いのにな……〉


 〈大事な家族との時間と、他人の俺との時間を天秤に掛けたとしても、”どっちも選ぶ”と言う破天荒な決断に至るのは、如何にも仁科先輩らしいが……〉


 〈何だかそんな仁科先輩の優しさが俺には荷が重過ぎるなぁ……〉


 〈だけど、異世界に行くと決めた以上は、そんな仁科先輩の厚意もしっかりと俺が受け止めなきゃ駄目だよな……?〉


 「お〜! なっるほどね〜! 君のその心構え! いやはや、とても素晴らしいね〜! うんっ! それじゃ、お望み通りに君も異世界に連れて行ってあげるからねぇ〜! ……あ、後そこで倒れている人も起こさないとねー!」


 女神様は、そそくさと倒れている眼鏡の男の下に駆け寄ると、ふと仁科先輩が思い出したかの様に女神様に向かって質問をした。


 「おっと、そうだ! そう言えば、其処の倒れている眼鏡の奴には異世界に行くかどうかってのは聞かねぇのかよ……? そいつが行きたくねぇって場合はどうすんだよ?」


 「ん? 眼鏡の男の人の事?」


 「あぁ、そうだ。 きちんと俺達にも教えてくれや」


 仁科先輩の質問を聞いた女神様は、うーんと考えると、隼人達にも分かり易い様に丁寧に説明してくれた。


 「いや〜、君達とは違って現世で死んじゃった人はもう”戻る肉体が無い”からねぇ〜……。 それに、君達は異世界”転移”だけど、この人は異世界”転生”だからちょっと君達とは事情が違うかなぁ?」


 「ほぉ? なる程な……。 この眼鏡の男は、もう現世では死人扱いなのか……」


 「あっ、そうだ! ついでに、この眼鏡の人とも一緒に行動してみればいいんじゃない? 人数は多い方が良いと思うし♪」


 「……あれ、そう言えば……。 能力強化の話しは一体何処に……?」


 すると、その隼人の言葉を聞いた女神様は、ハッとした様な表情を浮かべた。


 「あっ! いっけなーいっ! 私ってば、能力授けるのすっかり忘れてたー! もう君達が私を急かすからだよー!」


 「いや、別に急かしていないんですけど……」


 ムッとした表情の隼人の事を宥めながら、仁科先輩は陽気に女神様に話し掛ける。


 「まーまー、いいじゃねぇか、思い出してくれたみてぇだしよ! ……それで、一体どんな能力が貰えるんだぁ!? 何だかワクワクして来たぜぇ〜っ!」


 「仁科先輩……。 浮かれ過ぎですよ……」


 「良いじゃねぇか隼人〜! で、どう言う能力を授けてくれるんだよぉ〜!?」


 「んーっとね? 基本なんでもあるけどぉ〜。 んと、どんなのが欲しいとか何か希望あるー?」


 「うおっ、希望かぁ〜? まっ、俺はやっぱり皆を守れるようなパワーと防御力だなッ!」


 「なるほどねぇー、要するに”パラディンタイプ”を求めてるのねぇ〜。 じゃあ、シンプルに本人の守りたいという気持ちが強ければ強いほど身体能力が強化される【最強の意志】という、スキルはどう〜?」


 「おぉ〜! 何か名前がカッケェな〜ッ! ヘヘッ気に入ったぜッ!」


 「ただし、誰かを守りたいという意志がない時は、効果を一切発揮しないからそこの所は気を付けておいてね〜?」


 「ほほぉ? なるほどなぁ、肝に命じておくぜっ!」


 「んっと、それじゃあ、隼人君は〜?」


 「あっ、俺ですね! えっと〜……」


 ガバッ……!


 「………んがっ!? んむむむっ!?」


 と、隼人がどんな能力を貰おうか悩んでいる時だった。

 突然、隣で倒れていた男が意識を取り戻し、隼人達に話し掛けて来たのだ……。


 「ややっ!? お、御主らは、一体何者ぞ……っ!?」



【現在位置】

【天界】


【現在の日時】

【日時不明】



【五十嵐隼人】

【状態】:異世界に対する期待感、突然の声に若干の驚き

【装備】:学校の制服

【道具】:無し

【スキル】:無し

【思考】

1:自分にはどんなスキルが良いのかなぁ……?

2:あっ、あの眼鏡の侍姿の男の人起きたのか。

3:はぁ……。 何だか仁科先輩に申し訳ない気持ちで一杯だな……。

【基本方針】:異世界で非日常な出来事を体験したい。

※隼人は、女神ソアボとの会話で異世界が危険な場所だと言う事を認識しました。



【仁科権兵衛】

【状態】:覚悟、冷静

【装備】:学校の制服

【道具】:無し

【スキル】:最強の意志【効果】:他人を守る気持ちが強ければ強いほど自分の身体能力が跳ね上がる。

【思考】

1:隼人は俺が守らねぇとだな……!

2:うしっ……! そしたら、隼人と沢山話しをしてみっか……!

3:それと、待っててな……! 父ちゃん、母ちゃん、カオル……。

【基本方針】:五十嵐隼人に現世でしてやれなかった事をしてから魔王を倒して現世に帰る。

※権兵衛は、女神ソアボとの会話で異世界が危険な場所だと言う事を認識しました。



【娯楽の女神ソアボ】

【状態】:ウキウキ

【装備】:金色の女神の羽衣ハゴロモ) 金色の指輪と腕輪 なんでも入れる事が出来る女神専用の袋

【道具】:女神専用の袋に色んな物が沢山入ってます。

【スキル】:能力授与【効果】:まだ何もスキルを持っていない人間に対して、1つだけスキルを授与する事が出来る。 ただし、既にスキルを持っている人間に対してはスキルを授与する事が出来無い。

【思考】

1:なんか、面白い事が起こりそうだねぇ〜!

2:私もこの人達と一緒に冒険したいな〜!

3:あ〜っ! あの眼鏡の人やっと起きたんだ〜!

【基本方針】:楽しそうな人達の近くに居たい。



【眼鏡の男】

【状態】:混乱

【装備】:眼鏡 侍のコスプレ服 剣のレプリカ

【道具】:剣を持っているアニメキャラの姿が描かれたシール100枚

【スキル】:無し

【思考】

1:いっ、一体何処なのだ!? 此処は!?

2:なっ、何なのだ!? この大男は!?

3:むっ、でもあの幼女は可愛いぞ……?

【基本方針】:自分を轢き逃げしたトラックの運転手を成敗したい。

ご感想お待ちしております…!

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