第十話 天からの別れ 〜竜胆園拓哉編〜
〜竜胆園拓哉の視点〜
――――九華町、ゲームセンター前――――【現在時刻、15時46分】
「あれっ……。 ”セウン”の奴、急に何処に行っちまったんだぁ……? んん〜、何だか心配だぜぇ〜……」
『竜胆園拓哉』は、学校の帰りのついでに恋人の『橋本セウン』と一緒に楽しく”デート”をしていた所、ほんの少しだけセウンから目を離した途端に忽然と行方を晦ましてしまったのだ。
そして拓哉は慌てて彼女の捜索を開始していた。
「あっれぇ〜? おっかしいな……。 もしかして、俺とのデートが詰まんなくて、先に帰っちまったんかぁ〜?」
〈はぁ〜……。 だとしたら、すげぇショックだぜ……〉
〈た、確かに俺の雑談は詰まんねぇとこも有るかも知れねぇけどよ、だからと言って、無言で帰るこたぁねぇだろうがよぉ……〉
「………………」
〈セウン……。 確か、彼女は何処かしらの国の”ハーフ”だとか言っていたな……〉
〈その何処かしらの国だったら、デートの途中で何も言わずに帰るのは”常識”だったりすんのかなぁ……?〉
〈はぁ〜……。 んだけどこれが、ハーフの可愛い彼女が出来た事で浮かれていた俺に対する仕打ちかよぉ、”神様”よぉ〜……?〉
拓哉は溜息混じりに、思わず天を仰ぐ……。
〈……それにしても、彼女とはもう長い事付き合っているが、今日の様に突然居なくなっちまうってのは、”初めての出来事”だぜ……〉
「クソッ! セウンの奴……。 本当に何処に行っちまったんだよ……ッ」
苛立った様子で、拓哉はキョロキョロと周りを見渡す……。
すると、不意に拓哉の脳裏に様々な”思惑”が過る……。
〈なにか、”身内の不幸”の知らせを受けて慌てて帰った……とか? それともそもそも、俺と居るのがもう、嫌とか? ハッ! まさか、”誘拐”されちまった……とかかっ!?〉
すると、拓哉はそんな訳が無いと自身の頭を軽く叩きながら必死に思考を研ぎ澄ませる……。
「あぁくそっ……! 全て”ネガティブ”な方に考えちまう……! 落ち着け俺……! そもそも彼女は、ついさっきまで、俺と楽しそうに笑ってたじゃねぇか……」
〈そうだよ……! 彼女に限って俺を裏切る筈が無い……! 俺を嫌いになる筈が無いんだッ!〉
拓哉は必死に自分の脳裏に渦巻く”黒い感情”を追い払おうとした。
彼女、橋本セウンは絶対に自分の所に戻ってくると拓哉は必死に信じ込んだ。
「そうかッ! も、もしかしたら、セウンはただ急いで”トイレ”に駆け込みに行っただけかも知れねぇな……!」
拓哉は苦笑しながら、思考を巡らせる。
〈もしかしたら、”大の方”とか、”女の子の日”だとか、彼氏の俺にバレたらちょっと恥ずかしい様な事を隠す為に急いでトイレに行ってるだけかもな……!〉
そんな考えに至った拓哉は、笑みを浮かべながら腕を組む。
〈よしっ! そうと決まったら、彼女が戻って来た時に”紳士らしく”優しく迎え入れてあげようじゃねぇか……!〉
と、拓哉がそんな事を考えている時だった……。
「タ、タクヤ……ッ! ま、待たせて……ゴメンね……?」
姿を晦ましていた『橋本セウン』が息を切らした様子で拓哉の所に戻ってきた。
拓哉はそんな彼女の姿を見るや否や、慌ててセウンの下に駆け寄ると、そのまま優しい声色で彼女に向かって話し掛けた。
「ヘヘっ! いやいや、俺は全く待ってねぇぜ……? それより、”腹の具合”は、どうだったんだよっ!」
拓哉は、場を和ませる為にジョークを織り交ぜてみたものの、その言葉を聞いたセウンはポカーンと口を開ける……。
「えっ……? お腹の具合って……?」
「へへへ、別に俺に隠さなくっても良いぜ! だって、この世界に生きる奴は皆、生きる為に食べては排泄し、食べては排泄しを、幾度も繰り返して来たんだぜぇ?」
「……は? 急に何の話をしてるの……?」
「だから、隠さなくても良いって! 要するに、トイレに行く事は決して恥ずかしい事では無いんだって事! ヘヘッ、だから安心しろって! なぁ〜?」
……と、拓哉は彼女に対して、少しからかうように茶々を入れ始めた。
すると、そんな拓哉から発せられた思いもよらない言葉に対して、セウンは少しばかり困惑の表情を浮かべた。
「……えぇ? 私は別にお通じはしていないけど……。 って、そんな”下らない話”よりも先に私の話を聞いて! えっと実は、私は――」
すると、そのセウンの話を遮るかの様に、拓哉がハッとした顔を浮かべながら慌てふためく……。
「……あぁ? じゃあ、”あの日”だったってかぁ……ッ!? ……す、すまねぇっ! 俺って、デリカシー無くてよ……ッ!」
すると、セウンは声を荒げながら拓哉の事を制止する……。
「いや、だから! そう言う話じゃなくて! 良いから黙って私の話しを聞いてってばッ! とても、”大切な話”なの……」
「んん? 大事な話しぃ〜? ハッ!? ま、まさか……”妊娠”ッ!?」
「五月蝿い。 いちいち茶化さないで?」
「え……っ」
すると、その彼女の口から発せられた氷の様に酷く冷たい声色を聞いた拓哉は、思わずブルル……っと身震いをする……。
〈な、なんだ……? セウンのこの得体の知れねぇ”気迫”は……? こんなセウンの姿は俺達が付き合ってから初めて見るぞ……?〉
拓哉は余りもの恐怖心に、そのままその場に凍りついて動けなくなって仕舞った……。
そして、セウンは口を開く……。
「良く聞いて? 拓哉は突然の事で信じられないかも知れないけど、実は私は”天界の女神”の一人なの」
「は? 女神って? それってどう言う……?」
「口を挟まないで。 そして今まさに、天界が”大変な事”になっているの。 だから私は天界に居続けなくちゃいけない事になって仕舞ったの……。 突然の事でゴメンなさい……。 貴方とはもう……出逢えないかも……。 さようなら……タクヤ」
「は……?」
突如として、彼女から聞かされた別れ話を拓哉は良く理解出来なかった。
〈て、天界……? 女神……? 貴方とはもう出逢えない……? え、ふざけてんのか……?〉
すると、ふと拓哉は”一つの結論”に辿り着く。
〈あ、もしかして、これって俺と別れたいばかりに必死に考えた”作り話”か……!?〉
〈と言うことは、セ、セウンの奴……。 俺の事を馬鹿にしてんのかぁ……? 虚仮にしてんのかぁ……ッ!〉
拓哉の脳内は、段々とセウンに対する怒りに染まっていく。
「……あはは。 そんなに俺の事が嫌いならそんな馬鹿みたいな作り話じゃなくてさ? 素直に別れましょう……って、言ってくれれば良いのにさ? あはっ、あはははは! ふざけてんのか!? お前はぁぁああ!?」
すると、そんな拓哉の発狂に対して、僅かながらセウンが狼狽え始めた。
「ふ、ふざけてなんか無い……ッ! 信じられないかも知れないけど、全部”本当の事”なの……ッ! タクヤ……お願い! 私を信じて……ッ!」
「……はぁあ!? 信じられるかよ! そもそも、お前は一体何処の国のハーフなんだよ!? そもそも、ハーフだとか言うのも”嘘”だったんだろぉッ!?」
すると、図星を突かれたセウンは、バツの悪そうな顔を浮かべながら必死に弁明した。
「うっ……。 そ、それは……本当にゴメンね……。 ハーフだなんて嘘を吐いて……。 その事については、きちんと謝るから! だからお願い! 信じて……? タクヤァ……!」
セウンが涙目で必死に拓哉に向かって訴え掛ける……。
これには流石の拓哉も頭を冷やしたのか一旦冷静になる……。
「ぐ……っ!? セ、セウン……。 急に怒鳴っちまって、す、すまねぇ……っ!」
〈お、俺とした事が……。 彼女に振られそうになったからって彼女に逆ギレかよ……。 ははっ……。 こりゃ格好悪いや……。 そりゃこんな俺なんかには愛想尽かすわなぁ……〉
〈今までも、俺は楽しいと思ってた事は、セウンからしたら……楽しく無かったのかもな……。 全部が全部……”愛想笑い”だったりするんかな……?〉
拓哉は、自分の心が悲しい気持ちで溢れ返っている事に気付いた……。
〈まずいまずい……。 このままだとまた、”闇モード”に入っちまうぜ……!〉
〈だ、だけどなぁ……。 もう、今までのセウンの自分に対する行動が全て”演技”にしか思えなくなって来ちまったよぉ……〉
と、拓哉がそんな悲しい気持ちに浸っていると、セウンが優しく語り掛けてきた……。
「タクヤ……。 本当は私もタクヤと離れたくないんだよ……? でも、私が天界を守らないと、困る人達が沢山でて仕舞うのよ……。 だからね……」
「いや、もういいよセウン……。 もう君から何を言われても”演技”にしか聞こえねぇんだよ……。 分かったからさ。 もう……いいよ」
すると、その拓哉から発せられた思い掛け無い言葉に対して、セウンが必死に訴え掛ける。
「……!? え、演技じゃない……! 本当に私は……タクヤの事が”大好き”で……! だ、だから……ッ!」
すると、そのセウンの返答を聞いた拓哉が、少し苛ついた様な口調で、セウンにとある提案を行った。
「ヘッ! だったら、俺もその天界とやらに”連れてって”くれよ……? もし連れてってくれるってんなら信じてやっても……いいけどよぉ?」
「……!?」
すると、その拓哉の一言でセウンはハッとした……!
そう、セウンは気付いたのだ!
今ならば、現世で生存している人間の事を勝手に天界に連れて行っても、別に”特に問題が無い”……と言う事実に!
本来ならば、死ぬ予定の人間でなければ、天界に連れて行く事は出来ないと言った”特殊なルール”が天界に存在するが、そもそも現在の天界は自分以外の神が既に居なくなっている為、そんな天界の無駄なルールは知ったこっちゃないと、やっとセウンは気付いたのだ……!
「タクヤ……! あ、あんた凄いよ……! そんな素敵な方法は、急な事でパニックになっていた私には全く思い付かなかったよ……! よしっ……! そうと決まれば、タクヤ! 私の身体に掴まって!」
「えっ……? 何で急にお前の身体を掴まなきゃいけねぇんだよ?」
拓哉は、首を傾げながら聞き返す……。
「だから、一緒に行くよっ! ”天界”に……ッ!」
「はっ、はぁ……!? な、何言ってんだ……? お前……さっきのは冗談で――」
「いいから早く、私に掴まって……!」
「わ、分かったよ……! こ、こうか……!?」
そう言って、拓哉はセウンの華奢な身体に掴まった……。
「よーし! それじゃ、旋風の如く速さで天界に向かうぞー!」
「天界……って、んなッ!?」
〈な、なんじゃこりゃあ!? ま、マジで天に昇ってってんぞぉ!? それも、も、”猛スピード”でぇ……!?〉
「セ、セウン……ッ!? お、お前、マジで女神様なのかよぉッ!?」
「そうよ! そして拓哉! この際だからついでに貴方にも”神様”になって貰うわよッ!」
「な、なんだとぉぉおおッッッ!!??」
かくして、旋風の女神セウンは恋人のタクヤと一緒に天界を守る事を決めたのだった……!
【現在位置】
【天界と現世の中間の位置】
【現在の日時】
【不明】
【旋風の女神セウン】
【状態】:大興奮
【装備】:学校の制服のコスプレ 翠の指輪と腕輪 女神の袋
【道具】:女神の袋に翠の羽衣を入れています。
【スキル】:旋風の危機察知
【思考】
1:よっしゃー! これでタクヤと一緒にいられるー!!
2:タクヤに天界の事を詳しく教えなくっちゃね……!
3:あわよくば……天界でタクヤを”男神”にして上げても……面白いんじゃないかな……?
【基本方針】:天界を守る。タクヤを男神にする。ソアボに謝る。
※拓哉と一緒に天界に永住する事に決めました。
【竜胆園拓哉】
【状態】:大混乱
【装備】:学校の制服 鞄
【道具】:財布 スマホ 教科書
【スキル】:無し
【思考】
1:な、なんじゃこりゃあ〜!!??
2:ぐぅ……意識が……ッ!
3:Z……Zz……Zzz………。
【基本方針】:取り敢えずセウンの言う事に従う。
※セウンが人間じゃない事を悟りました。
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