第8話 雷の剣
時間はまだ昼前、南に配置されていた帝国兵は奇襲により追い払った。これで王城への道は切り開かれた事だろう。
城にある兵力と合流すれば出来る行動の幅が広がると期待し、シエラは皆に「一緒に城へ向かおう」と提案した。それにガンツも「俺たちの雇い主からここまでの働き分報酬も分捕らなきゃだしな!どうせ城に閉じこもってるはずだ」と賛同を得た。
途中出会う帝国の巡回兵を蹴散らしつつ城へ向かう。撤退した南側に帝国兵がやって来るにしても編成などでまだ時間はかかるはず。
城壁では王国兵が何事かと集まりこちらを凝視していた。
「私達はヌプカからの領兵と王国の勇士達です!南に陣取っていた敵兵を蹴散らして来ました。城内へ入れて欲しい!」と大声で言うと、帝国兵の慌ただしい動きや先の騒動での音も聞こえていたようで「少し待ってくれ!上の者に伝えてくる!」と返事を返してきた。
そこでここまでの経緯を話し、ステファンがヌプカ領主の代理なのだと証を見せ信じてもらえたようだ。
間も無くして城へと入れてもらいシエラ、ステファン、ガンツ等は代表として謁見の間へと通された。そこでオビロン王国国王フレデリックⅥ世と宰相や大臣達、貴族等も居合わせていた。
「しかしそなたのような子供が敵兵を蹴散らすとは…俄には信じがたいのぅ…多くの敵兵や魔物の類を屠ったという、その雷の剣とやら見せては貰えぬか?」と国王が言って来た。
シエラはそれに応える。「刀身無き剣…まことに不思議よのぅ。それは魔法具なのかな?そなたにしか使えぬのか?」等など質問責めにあった。大臣等や貴族の中には「それを献上するべきだ」等と言い出す者までいた。
これは祖父が苦心の末に完成させた付与魔法の会心の出来の品。二度と手に入ることはないだろう素材も使われている。そして祖父ももういない…譲るわけにはいかない。ので、「献上する訳にはいきません!」
と強く断ると憤る者も多く「市井の身の分際で!」など言われ苦い顔をするシエラだったが、国王が「止めよ!それで存分に奮ってくれ」と言うことでなんとか収まった。
それから今後王国兵との連携やどういった行動を起こすべきかが話し合われた。ガンツは無事雇い主と出会え今後も契約をする事に決まったようだ。
王都での戦いは押してはいるものの、やや膠着状態となった。本陣があると思われる西地区は防衛網が厚くシエラの頑張りを持っても一気に突破はままならず、他の地区は開放するもこちらの兵員が少なく維持出来ずにいる。王都の兵士に比べると帝国軍の兵士には魔物の類も多くいて個人での戦闘力が根本から違うのだ。
しかしシエラの活躍を見た味方の兵士達は尊敬に近い憧れを持ったのか『希望の勇者』と持て囃さし、帝国兵からは『悪鬼』だの『死神』等と囁かれ、戦場で見たものを震え上がらせていた。
だが確実に敵兵のほうが多く被害を出している。地域を開放した時に生き残っていた民を避難誘導し、城での防衛に必要そうな物資も入手する事が出来た。
その日は朝から天候がよくなく曇天だった。今日こそはと西区画方面へと攻勢をかけていた。昼に差し掛かろうかというとき、敵後方からドドドドドッっと大量に何かが駆けてくる音が戦の喧騒の中からでも聞き取れた。
「新手か!?」近くで戦っていたガンツが怪訝そうな顔で言う。
「馬の駆ける音?」
「ああ、間違いない。しかも相当な数だ…厄介な…」
「道幅を考えれば数の利はあまりない。落ち着いて対応しましょ!」
敵は自分へとの距離を取っている。手早くスタミナポーションを飲み戦場を見回してから近づく蹄の音の方を睨みつける。
そして見えたのは黒い金属鎧で統一された部隊。騎士団なのだろう。だが怯まず先頭にいる周りの馬よりやや大きい真っ黒い馬に跨る男を見据える。フルフェイスヘルムではなく実直で堅物そうな印象を受ける顔立ちを確認できた。恐らく指揮官なのだと判断する。一瞬戦場が静まり返ったかのように感じた。
雷の剣を構え直す、それを合図の様に突撃してきた。
(馬で跳ね飛ばす気か…)相手の様子を見、軌道から半身だけずらし剣を横薙ぎに払う。剣は相手に触れてはいない、だがこれで良い。案の定、馬は剣からほど走るに電流に感電し驚いたように嘶き、乗り手である騎士達を振り落とし倒れ込んだ。
振り落とされた騎士達も一緒に感電したようで蹲りながらも剣を掴もうとしているが、しっかり握る事ができず焦っている様だ。
馬はあまり傷付けたくないと思いながらも、向かってくる騎士達に幾度も雷の剣を振るう。帝国の騎士達にトドメを刺すべく近づこうとすると、その時指揮官と思しき男が「…やってくれたな!小僧!」と口にしシエラへと向かって来た。
雷の剣の力は絶大だ。直接切りつければ膨大な熱量で焼け付け尚且つ身体を硬直させられる。稲妻が近くを振るうだけで感電なども狙えるのである。
男のつまらない呟きに沸点が一気に高まる。今までの怒りの矛先を全て男にぶつけるように剣を振るうも、人望は厚いようで他の騎士達が邪魔で届かない。
飛んでくる投げ槍等は避けるまでもなく障壁の盾に任せ騎士達を次々と落馬させる。騎乗していては危険だと悟ったのだろう、騎士達がシエラから距離を取り牽制してくる。それを相手取っている間に指揮官の男の姿は見えなくなっていた。
「逃げられたか…」そう呟きまた目の前に迫る重そうな金属鎧を更に補強したような重騎士達をなぎ払うのだった。