第7話 戦場の悪鬼
一時撤退を余儀なくされたアムスであったが、救護班のいる場所まで後送された。あの不思議な剣でやられたであろう痺れは時間経過と共に収まってきている。
そんな自身のことよりも収容されている兵が少ないことが気にかかる。少し聞き込みをしてみると、あの小僧はこちらの兵たちの間では悪鬼であると噂されていた。戦場で出会った際、死傷率が跳ね上がるという。
王都制圧の難点であるあの子供。あの不思議な力を解明しないと数で押しつぶすには被害が計り知れない。振るわれただけで衝撃と謎の麻痺効果のある剣とジャベリンをも弾く見えない障壁。
どう攻めたものか…やはり正面から相手にせず周りの雑魚を切り崩していくしか道が見えないでいる。回復薬を処方され一応安静にとのことで、今日の戦いの結果を見守ることしかできず歯がゆい思いであった。
愛馬のジョセフィーヌの安否も気になるところではあるが。
日が西に傾きかけたくらいの時間。意気消沈した兵達が戻ってきた。(駄目だったか…)やはりと言うかなんとも、あれだけの兵差がありながら勝敗を分かつのが一人の子供の存在だという事が末恐ろしく感じる。
ゴルムドの元へと馳せ参じる。苦虫を噛み潰したような険しい表情に今回の件の厄介さを痛感しつつ、
「団長!早々に後送され申し訳ありませんでした!」深く頭を下げる。
「それは気にせずとも良い…お前はアレをどう見た?」
「はっ!不思議な力の使い手…正面から当たるのは得策ではないかと…」
「槍騎士隊500、重装騎士300…それだけの戦力が今日の戦いだけで2割近い死者を出した…負傷者は正確な数すらまだ確認が取れておらん!謎の剣士?アレはいったいなんなのだ!?」
「先遣部隊の兵たちの間では悪鬼、又は死神と呼ばれているようです…」
「ふぅむ、それは恐ろしいな…だが相手にせんとなると…彼奴めに好き勝手に突撃されては堪ったものではないな!」
「これからどう動くべきか先遣部隊と再び軍議を行いましょう…解決策が模索できない場合は更なる援軍の要請もやむなくかと…」気不味い思いをするのだった。
団長は現場指揮官を呼び出し休息ももどかしいと、足早に会議室に使っている貴族の屋敷であろう豪華な館に向かう。アムスは鎧を脱いだままの格好で共をする。
やがて会議室には指揮官等とその副長を連れて現れた。戦闘前にも軍議に及んだ面子である。
前もって正確に伝えられていなかった被害状況や悪鬼と揶揄される王国の勇者への対応と軍議は紛糾したのだった。