第6話 王都にて
交戦していた敵兵を撃退したのだが追撃をかけようとしていたところを生き残っていた王国兵に呼び止められ、自分が如何に疲労困憊していたかと思い出したかの様に身体が悲鳴をあげるのだった。
話を聞くに彼らは正規の王国兵では無く『荒野の風』と名乗る傭兵団だった。生存者は負傷者を合わせ60名程。オークの攻撃を防いだ為か装備も著しく損傷していた。
逆に何者かと聞かれ『クマネシリ村のシエラ』と名乗るも皆に首を傾げられたが、ヌプカから一緒に来た兵達が街から敵兵を追い出した武勇を伝えると希望の『勇者』殿か!といたく歓迎された。
王都での戦況を聞くと芳しくなく突如現れた軍勢に都は瞬く間に飲み込まれたのだと言う。敵兵が掲げていた旗印や多くの亜人と妖魔を含む軍勢から遥か東の島国にあるロシクアナ帝国の兵なのではないかとの推測されている事を教えられた。
とりあえず情報交換と休息のためその場を退避する事とした。
着いた先は裏路地に入ったところに構える食事処や安宿などがある貧民が住む場所であった。そこに避難している市民たちの姿も見かけられた。
「まぁこんなところだが寛いでくれ」
ガンツと名乗る巨躯で無精髭を生やした傭兵団の隊長が告げる。そんな傭兵達の負傷者には回復効果のある薬品を分けてあげた。
正規の王国兵と合流したいところだが王都には北側の門から入ってきて戦闘となった。帝国兵は城を囲い、どうやら西側の上流階級の貴族街を根城としているらしい。
傭兵団は偶々王都外に出没した魔獣の討伐のため貴族と契約していた最中の出来事であったらしい。
「運が悪かったようだ」とガンツは苦笑いしていた。
それにしても皆傷だらけなのに対しシエラは足が震えるほど疲労しただけで外傷は一つもなかった。
傭兵団の者達はシエラがオークの軍勢を撤退に追い込むほどの想定外な戦力であるため、城を包囲する敵兵に風穴を開ける事が出来るかも知れないと期待も膨らませているようだ。
こんな状況でも契約のために働くのかとシエラは感心し、自分より前にでなかったヌプカからの兵達を胡乱げに見つめたのだった。
明朝、早い時間に起き装備の再点検をしていた。滋養薬を飲んで寝たため疲れは抜けている。昨夜ガンツ達と話し合った結果、王都南側から城への包囲網に奇襲をかける計画を練っていたのだ。
まずは数名でチームを組み朝靄のかかる市街の状況の視察を行う。シエラは切り札なので作戦決行まで待機と言い渡されていた。(状況がわかり次第暴れてやる!)早る気持ちを抑え適材適所と自分に言い聞かせる。
やがて視察部隊は無事状況の報告を伝えに戻ってくる。その結果は凄惨なものだった。噎せ返る程の夥しい血だまりの後があり死体は残っていなかったが明らかに兵士だけを狙った物ではなかったと言う。
その報せを受けシエラだけではなく傭兵団やヌプカからの兵達も険しい顔をする。
「そこまでするか…」
シエラが呟くが、ガンツが言う。
「欲しいのは民ではなく…土地そのものってか!クソッタレめ…!!」
「まずは城を守っている王国兵に合流しましょう!」
怒りの感情に更なる薪をくべシエラは押し殺した声で言う。
視察であった報告通りに帝国兵と思しき人影が朝霧に霞む、市街区に簡易な柵を作りバリケードとし2体が佇んでいる。だが大きさが明らかにおかしい昨日のオークよりも更に巨躯で3Mはあろうかと思われた。
怯む仲間に「どうせやることは変わらない!」とシエラは駆け出す。雷の剣は遠目にも気付かれてしまうため接敵ギリギリまで詠唱は控える。ハッキリと見えた姿に昔読んだ本の知識からオーガであろうと判断する。
オーガとの身長差では下腹くらいにしか剣が届かないが問題なく効果はあるようだ。呆気にとられた表情のまま2体は倒れ伏す。
躊躇いがちにオーガに止めを刺していく仲間達をよそにバリケードを越え奇襲を静かに敢行する。
建物の二階部分から物見をしていた兵に見つかったようだが、ここまで入り込めればもはや関係ない。
「おい、アレなんだ?」「ん?どこだ?」帝国兵の反応は鈍い。
やがてカンカンカンと鐘の鳴る音が敵襲を伝えるも朝霧の中マントに身を包み、休息していた兵士達は反応が遅れる。そこに200名近いシエラ率いる傭兵や兵士達も襲いかかった。
半時ほどで反撃も侭ならなく「撤退!撤退ーーーっ!!」カーンカーンと鳴る鐘に敵は追い立てられるように散っていった。