第4話 感情のままに
オビロン王国にあるヌプカという街にてシエラは怒りを募らせていた。村を滅ぼしたゴブリンの軍勢を感情の赴くままに祖父との思い出のある魔法具や調合してあったポーションの類を惜しみなく使い帰るべき場所であった村から、そして近隣に位置するヌプカの街から敵軍を追い払ったのだ。
しかし王都では未だに謎の敵軍が城を攻めているという話を耳にし身体を震わせた。平穏な日常が何時までも続くと信じていた無垢なる心を踏み躙られたのだ。
街の復興もそのままに王都へ進むべく勇士を募りつつ、村に一度戻り我が家に有用そうな物を補充していた。
「集まったのはこれで全員ですか?」
周囲に集まった人々を見渡してから、シエラは問う。
それに答えたのは領兵を纏めていたステファンと名乗る堅物そうな中年男性だった。
「そうなるな。王都が襲撃を受けているという報せが届いてから…ここまで僅かな日数で押し寄せてくるとは…街の者や領兵の被害も大きく、今動かせるのは兵士は120名がやっとだ。市民の中からも腕に覚えのある者が53名…これで全てとなる」
ステファンはやや申し訳なさげな表情で告げた。王都からヌプカの街の途中にある村などの安否は絶望的であろう。そして王都の危機であるというのに出せる領兵は僅かであった。
「そうですか…それでも集まって下さった人達に感謝です。では今すぐに準備して王都へ急ぎましょう」
ステファンは170名程度だけで謎の敵軍が押し寄せている王都へ向かうのは…愛国心溢れる勇気ある行動なのか蛮勇なのかは判断できなかった。だがヌプカを襲撃した敵兵に一歩も引くことなく撃退せしめたその小さな姿を目にしていたのだ。それは一縷に縋る希望にさえ思えたのも確かである。
乗馬している兵は30名ほど残りは皆徒歩で王都へと向かう。シエラは乗馬経験がなく徒歩だ。大人の兵に混ざって歩を進めるその姿はあまりにも若く小さかった。
それから3日後、王都が見えてきていた。
シエラが見た王都の光景は一言で言うと異様だった。市街から争う激しい音は聞こえるのだが王都を覆う街壁には一切の破損がある様子もない。それに周囲に斥候を出したステファンが言うには街外に敵軍が陣地を構築もされている様子もないと言う。
そこからヌプカ方面へ出たのであろう門だけが無傷で開いていた。どう見ても内側から開けられている。
内通者でもいたのかと思案を巡らすが答えは出ない。
その光景に引き連れてきた兵達にも動揺が見られた。(敵がすぐ傍にいるのに!)シエラは考えるのをやめ感情のままに、怒りを思い出したかのように叫ぶ。
「皆さん聞いてください!これより王都に集る敵兵を追い出しますっ!!」
腰から下げていた手のひらに収まる程度の大きさな棒状の物を手にし短く言葉を呟く。それは起動詠唱だった。途端に棒状の物体から放電するかのように光輝きながら程よい長さへと収束する。それを軽く振ってみてから満足気にし告げる。
「突貫!」
右手に明滅し輝く剣を高く掲げ王都の門を潜った。中に入るとひりつく空気と熱気に緊張が高まる。視線を自ら率いる兵士達に向けるも、その中に自分より先に進もうする者は誰もいない。
その様子にため息一つつくと歩みを早める。
轟音響く区画にて交戦する者達が見えた。敵は明らかだ。人間ではなく身の丈2Mはあろうかという豚顔の魔物達だった。(本で読んだことある…たしかオークという種族!)すぐに判明した種族に斬りかかるシエラ。
オーク達もシエラ達の登場を直様敵と判断し、手にした武器で殴りかかってくる。
シエラはその攻撃を気にした様子はなく輝く剣を横薙ぎに払う。閃光がオークに触れ、その手に持つ武器がシエラに当たる前にビクリと体を震わせ倒れ痙攣する。
それを待ってましたとばかりに連れてきた兵たちが各々の武器を倒れたオークに突き刺す。
巨体を誇るオークがこんな子供の一太刀に倒れるのかと周囲の敵兵と王都の兵士がシエラを見つめやる。
そんな視線に躊躇する様子もなく、さながら作業のように敵兵共を切り伏せる。オークが手にする武器がシエラに当たりそうになる事が何度もあったが、触れる直前に見えない壁に阻まれるかの如く止まってしまっていた。
息が切れると左手で腰のポーチからポーションを取り出して飲み、また右手の輝く剣で敵を蹂躙していくのだった。