第3話 小さな綻び
帝国軍の同時攻略作戦によって大陸は震撼していた。各国家の中枢である都市で首脳陣の住まう貴族住宅地区にある公園や広場等へ潜伏した帝国軍調略部隊が転移の魔法具を密かに設置し、然る後そこへと帝国兵が出現して一気呵成に攻めいったのだ。
都を覆うよう囲まれた高い街壁などその意味を失い碌な対応も出来ず、最後の砦である城での篭城戦を余儀なくされた。
大陸の内陸にあり多くの国に多大な影響力を持つサーポロス連邦国の首都も例外ではなかった。帝国兵に攻め入られ街は制圧され僅かな兵と首脳議員達が城に立て篭るのみの状態へ陥り国内の他の貴族領だけに留まらず同盟国への援軍要請を送りそれに一縷の望みを託していた。
そんな中、大陸の東南に位置するオビロン王国で小さな抵抗の兆しが見えていた。雷の剣と目に見えない障壁の盾という強力な魔法具を持つ剣士が烏合の市民達を率いて、街へと攻め寄せていた帝国軍の戦魔兵団に反撃し王国の1つの都市から帝国軍を追い払ったのだ。
オビロン王都内に残る人々や城で篭る兵士達、王侯貴族達はその報せに王国に現れた『勇者』として心の拠り所になっていた。そしてそれは攻城戦を残すのみとなっていた帝国軍第5騎士団にも緊張と危機感を募らせたのだった。
夏の訪れを感じ始めた頃、この事は王国の東に位置するクシロエ公国での速やかなる制圧の後、公国内の徹底抗戦派の鎮圧や兵備補給に当たっていた第3騎士団に所属するアムスのもとにも届いていた。
団長の居る執務室へノックしてから声をかける。
「アムス・ベルフィオルド参上致しました。団長、お呼びでしょうか」
公国の倉庫区画にて兵站に必要な物資を帝国へと転移運搬作業の仕分けや在庫数確認のための資料を作っていたアムスが呼び出されたのは昼を少し過ぎた頃の事だった。
「うむ。来たか、オビロン王国攻略での報せは聞いているか?」
団長であるゴルムドは顎に手を伸ばし、その伸ばしている髭を撫で渋面を作って問うてくる。アムスはその様子から最近耳にしていて思い当たる事を声にする。
「オビロン王国攻略ですか…攻城戦を残すのみと見て第5騎士団がその功を手中にしようとし参戦していた戦魔兵団に領内の都市を攻めさせたあげく、未だ王都制圧も出来ないばかりか戦魔兵団にも多大なる被害を被った件…ですかね」
それに一つ頷くと、ゴルムドは告げる。
「それらの件でのせいで帝国の押し進めていた同時攻略作戦で、連邦国が落ちる前に王国で苦戦するのは想定外であるとの事だ。上層部もこの件で長期戦などに持ち込まれたら作戦が破綻を帰する可能性を示唆している。よってクシロエ公国の平定は後続に任せ補給が済み次第まだ転移魔法具が設置されている王都へと我が団が増援に向かう事となった」
どうやら第5騎士団が遅々として進まぬ攻略に本国から梃入れされ、第3騎士団に白羽の矢が立ったようだ。
「はっ、補給を急がせます」
アムスは敬礼し執務室を後にする。
それから二日後、第3騎士団は王国へと続く魔法具によって展開された転移ゲートを潜るのだった。