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「本当にあった怖い話」シリーズ

壁の文字

作者: 詩月 七夜

 友人から聞いた話である。


 とある地方に、一つの古い病院があった。

 その病院は、既に廃墟になっており、窓は割れて、壁も塗装が剥げてボロボロ。

 今にも崩れ落ちそうな外観だった。

 「精神を病んだ人達が入院していた」「伝染病患者の収容施設だった」という噂があり、現に病院自体も山の中の辺鄙な場所にあった(真偽の程は定かではない)。


 ある時、この廃病院に数人の若者達が夜遅くにやって来た。

 こうした「怖い話」では、よくあるシチュエーションであるが、廃病院には数々のいわくつきのエピソードがついていた。


 曰く「精神を病んだ患者の一人が凶器を手に暴れまわり、職員や他の患者を皆殺しにした」

 曰く「伝染病が職員にも蔓延し、それを知った当時の政府が罹患者ごと病院を封鎖した」


 若者達はインターネットでこの廃病院のそうした噂を知り、肝試しにやって来たのだった。

 一応、注意しておくが、廃墟になった建物やその敷地にも所有者はいる。

 だから、無許可で入るのは、法に触れる行為だ。

 だが、その若者達は酒も入っていたせいか、車で廃病院までやって来ると、悪ノリで閉ざされた門をよじ登り、探検を始めた。

 しかし、敷地の中は草ぼうぼうで荒れ放題。

 とてもじゃないが、周囲を歩き回れる状況ではない。

 だが、ひび割れてはいるものの、玄関まではコンクリートで舗装された通路があり、何とか辿り着くことが出来た。

 玄関も施錠されていたが、若者達は無謀にもガラスを割って侵入。

 建物の中に入ることに成功した。


 そこで、肝試しを始めようということになり、ルールを定めた。

 

 1.一人ずつ行動する

 2.最上階の四階まで行って、ゴールに決まった部屋のどこかに各自名前を書き残す

 3.最後に全員でその部屋に行き、名前の有る無しを確認する


 名前が残って身バレするのを恐れ、若者達は最後に名前を消すためのラッカーまで持参していたそうだ(そんな配慮が出来るなら、そもそも、こんな愚行など犯さないはずなのだが…)。

 ともあれ、幸か不幸か、建物には見取り図が残っており、話し合いの結果、最上階にある「○○病室」が名前を残す場所に決まった。


【※作者注】

 万が一、同じ名前の病室に入院中の方がいると気分を害される恐れがあるので、病室名は伏字にさせていただきます。


 そして、肝試しが始まった。


 若者達は全員で六人。

 持参していた油性のマジックペンを持ち、一人が階段を昇っていく。

 そうして、帰って来たら、次の若者が同じように「○○病室」へ行き、名前を書く。


 そうして、全員の番が一巡した。

 怪異が起きたり、脱落者が出たりすることを望んでいた彼らだったが、結局何も起こらなかった。

 拍子抜けしつつ、最後に全員で「○○病室」へ向かい、全員の名前があるかを確認することになった若者達。

 その道すがら、最後の順番になった若者が話し始めた。

 それによると、最初の若者が病室の壁面にデカデカと名前を書いたのに始まり、以降、全員がそこに名前を書いたり、卑猥なマークやイラストが描いてあるのを見たという。

 なので、その若者も同じように壁面に名前を書き、いたずら書きをしたらしい。

 そうして、ワイワイ騒ぎながら「○○病室」にやって来た彼らは、その壁面をライトで照らし、絶句した。


 壁面には、確かに名前が書かれていた。

 しかし、その大部分が削られたり、赤いペンキで塗られたように損なわれていて、六人分の名前のそれぞれ一文字のみが読める程度まで消されていたのだ。

 唖然となる若者達。

 そして、一体誰の仕業なのか、話し始める。

 廃病院には、人の気配はない。

 なので、最後の順番になった若者が、当然の如く犯人扱いされた。

 「他の五人を怖がらせるため、細工をしたのだろう」と、疑われたのである。

 が、最後の順番になった六人目の若者は、それを真っ向から否定し「確かに全員の名前がちゃんと書かれていた」と主張。

 自分は何も細工をしていないと、身の潔白を訴えた。

 しかし、どうしても聞き入れない五人に、六人目の若者は思い出したように言った。


「他の知人に見せるために、ここに来たという証拠として、スマホで壁面の写真も撮った」と。


 早速、全員でその若者のスマホで確認すると…

 確かに、壁面には六人分の名前やいたずら書きが写り込んでいる。

 消された跡は全くない。

 「撮った後に消したのではないか」とも疑われたが、そもそも六人目の若者が戻ってくる時間を考えると、道具もなしに短時間で細工をすることも不可能だった。


 その時。

 スマホの写真と、目の前の壁面に残った文字を見比べていた別の若者が、突然悲鳴を上げた。

 全員が注目する中、その若者が脱兎の如く逃げ始める。

 もともとの薄気味悪さも手伝い、残りの若者達も我先に後に続いた。

 そうして、全員が敷地外に出ると、最初に逃げ出した若者が、恐怖にかられた表情で「早く車を出せ!」と催促する。

 五人は、その様子に促されるままに車に飛び乗ると、廃病院を後にした。


 そうして、町中にあったコンビニまで来ると、安堵したのか、逃げ出した若者がようやく落ち着いた様子を見せた。

 車中で滑稽なほど怯えていた若者だったが、あまりの怖がりぶりに誰もからかうことなく車を走らせていたのだ。

 そうして、人心地ついた若者に、残りの五人が、尋ねた。


「何がそんなに怖かったのだ?」と。


 すると、若者は、震える声で話し始めた。

 あの時。

 廃病院の壁面に書かれた六人の名前は、一文字を残して、消されていた。

 その文字は、


 「小」「前」「立」「茂」「古」「井」


 という風に、六人の名字や名前の一文字だった。

 それは、他の五人も見ていたので、全員が記憶していた。

 だが、それだけだ。

 確かに血のような赤ペンキでも塗られていたが、そこまで怖いものではない。

 そう言う五人に、逃げた若者は静かに告げた。


「残った文字を、つなげて読んでみろ」


 しばし、考えた後、五人全員が真っ青になった。


 消されずに残った文字。

 それを六人の名前読みのまま読むと…



「お」「まえ」「たち」「も」「こ」「い」























 この話をしてくれたその友人は、沈痛な顔で最後にこう言った。


「今まで、俺以外の五人、全員が事故とか病気で死んでるんだよな…やっぱ、ヤバいよな、これ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] なまじっか出るより怖いですね [気になる点] 残った彼 読めた彼は証言者として残されるのかな? [一言] 朝読んだから大丈夫だも〜ん!(((((´°ω°`*))))))
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