第1節 Ⅰ「日本初上陸!」
「ご到着しました。足元にお気をつけてお降りください」
船内アナウンスが聞こえたので降りる準備をする。よし、忘れ物は無い。準備万端だ!
小波に揺られた長い船旅を終え、よいしょ、と言って始めて日本の地面を踏んだ。うん。なんだか、地面が硬い。私の国は少し柔らかいような気がするけど……この国は反発がないのかな?
(ふぅ……長船はもう嫌だわ。船酔いする……)
軽くめまいを覚えながら、港で現地の警護人を探し始める。数時間前に知らされた事だが、現地で警護をしてくれる人が待機していると聞いた。理由としては外国人での警護は見立ち過ぎて市民との交流ができないのでは、と事らしい。一体誰だろう……警護をしてくれるのは……。
「ひぇ……、なんで馬に蹴り飛ばされるんだよ……。えぇと――あ、いたいた。貴方が、ジャンヌ……さんですか?」
写真を持って探し回る黒髪ポニーテールの女性がやってきた。なぜか磯臭く、体中びしょ濡れで海藻が張り付いているではないか。まさか……この人がさっき海に吹き飛ばされて落とされた人物なのか……?
「あぁ、すいませんね。ちょっと港でに滑って海に落ちてしまいまして……着替える暇もなく、こんな状態でお迎えになってすいません」
……正直、私はドン引きだ。こんな清潔感のかけらのない女性が私の警護になるとは……今すぐでも私のボディーガードと交代したい。
「いやぁ……大変でしたでしょう……そのボディーガードさん……その磯臭いですよ……」
「えぇ、まあ。でも大丈夫ですよ、海藻さえとれば綺麗ですから」
「そういう問題じゃないわよ! 早く水洗いしてきてください!」
出会っていきなり、怒鳴ってしまった。
(はっ……私……初対面の人に怒鳴って……)
そう言われたボディーガードは、「すいません、すぐに終わらせてきます」と言い残して、まだ船から降りる外国人観光客の中に消えてしまった――
数分後――ボディーガードは、海藻は全部無くなって綺麗になり見た目も凛々しくなって戻ってきた。
まだ、服自体がずぶ濡れなのは健在だったが。
「すいません、遅くなりました」
磯臭さは無くなって綺麗になったボディーガードは、改めて私に向かって訪ねた。
「あなたが、ジャンヌさんですか?」
さて、改めてボディーガードである彼女を姿を眺める。日本では男の方が強く剣士に出向いているが、女は弱く家にいる事が多いと書物で書かれていたが……以外にも女性が警護を頼むとは意外だった。
ピンク色の着物に青い袴……これは見る限りサムライの人だった。書物とはイメージがかけ離れているけど、凛々しさと強いまなざしが間違いないと語っている。
私は信頼できる人だと確認して、女性の質問にはいと答えた。
「私がジャンヌ・ダルクです」
「長旅ご苦労様です。私貴女の警護を任されました、赤碕姫香と申します」
「あの、敬語でやりとりは苦手なのでタメ口でいいですよ」
「そうですか……では、わかった」
日本らしい会釈をするお侍さん。やっぱり生で見るサムライはかっこいい!
まあ、女性なのがちょっと……残念だけどね。
「あ、あの! 姫香さん……でしたよね! こんな事聞いてなんですけど、お、お侍さんですよね!」
突然の質問に、姫香は戸惑った様子で答えた。
「……え、え……ま、まあ、そんなもん……かな?」
「やっぱり! あぁ……うれしぃ! お侍さんかっこいい!」
きゃーと言わんばかりに、私はハイテンションで声を高く上げる。
その姿を見た姫香さんは、このテンションにあぁうんと言って呆けて私を見つめていた。
(……あれ、なんでリアクションが低いの? 外国のお嬢様はお淑やかなイメージを持たれていたから、ハイテンションのお嬢様に少し驚ているのかしら?)
姫香さんが悩ましい表情をしていた。こんな堅苦しい空気が苦手な私は、姫香さんに視線を送りウインクした。それに気づいた姫香さんは顔を真っ赤に染めて、視線を逸らした。
「まあ――侍の話は後回しにして。早く、西園寺様にお会いしたほうがいいと思いますよ……」
姫香は、私の荷物を持つ。私が持っても重いと感じるカバンを片手であっさりと持ち上げた。やはり力持ちなんだ……と少し感心してしまった。
「あ、そうだね……えっと、馬車はどこに?」
馬車――普通ならこの近くに止まっているはずなのだが……と私は思った。父から聞いた話だと、私みたいな来賓客は必ず馬車が来て出迎えてくれると聞いていたが、あたりを見回してみると馬車どころか、馬すらいなかった。
「馬車……そんなのないから、西園寺邸まで歩いていくよ」
「え……? 歩いて……いく?」
「そんなに遠くないから、歩いてもそんなに時間は掛からない」
そういうと、姫香さんは先導を切って西園寺の屋敷に向かった。
(やはり……お侍さんはすごいなぁ……、馬車はあってもいつも歩いていくなんて……私だとたとえ近場でも歩くなんて考えられない)
日本の文化は、とても不思議だなぁ……と感心しながら、私は函館の街を四方八方くまなく眺める。
(やはり……日本は不思議な国だ。母も、こんな感じで暮らしていたのかな……?)
「どうしました? おいていきますよぉ!」
いつの間にか、遠くで呼びかける姫香さんが見えた。あれ……そんなに遠くまで向かってたの?
「今行きます!」
たたた、と函館の街を私は走りぬく。そして姫香さんに追いついて、一緒に西園寺の屋敷へ向かった。