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赤碕姫香とジャンヌ・ダルク  作者: 本渡りま
EPISODE Ⅰ 出会い編 前編
2/22

第0節 Ⅰ「10年後――函館」

 ――約十年の月日が流れ――舞台は北海道・函館。




 かつて蝦夷共和国と支配された場所は北海道となり、同時に北海道開拓史が始まり拠点の一つとして栄え始めていた。

 そして今ではがらりと洋風の建物が多くなっていた。何故なら海外の貿易港の一つとして、亜米利加、英国、仏蘭西などの外国人が移住し始めている。それらの環境に合わせるようにという国の方針だとか。巷では日本初の気象観測所も設置され、今まで無かったものに興味を惹かせる建物が建造されていった。

 港の近い街に行けば、開拓史の拠点や大富豪の豪邸がある建物が連なり、商店街が栄えている。商店街を通り抜けて少し歩いたところに行くと、一般市民が住む住宅街がある。

 その函館の最大の港である函館港にある一軒茶屋に一人、可憐な女性が座っている。絹糸を黒く染めたような長い髪を後ろに束ね、桜の花を連想させるような桃色の着物と青い袴が特徴の麗人。その麗人こそ……この私――赤碕姫香あかさきひよかである。

 だが、他の麗人とは似合わない、鋭い黒瞳。まるでそれは信念に貫く真っ直ぐな瞳……だけど、鋭い目つきになった理由は私自身よく知らない。


「しっかし、変わったよな~。日本も今じゃ、西洋化になっているし」


 私は団子の串で歯茎を掃除しながら、黒船を入港する場面を眺めていた。


「けどさ。西洋が入っていても、いずれは浸食されて伝統も消えちまうかもな……」


「なに意味深になって、謳っているんだ?」


 背後から、お盆を持った青年が私に馬鹿だなと言わんばかりな口調で言ってきた。


「別に……なんだろうね」


「まあ、そうだな。お前のような侍が今も残っているのが不思議だよな」


「うるさい! いいだろ別に侍でも! だいたい廃刀令ってなんだ! おかげで、上品な刀から安っぽい木刀に切り替える羽目になったんだぞ!」


「そう言うな。『人喰い姫』と呼ばれた赤碕姫香が、こんなところで愚痴こぼすようになったんだ?」


 そう、私はかつて『人喰い姫』と呼ばれた剣豪だ。箱館戦争の時、砲弾の着弾で吹き飛ばされたが奇跡的に生還したのだ。今でも生きているのが不思議に思う。

 私の正体を知っているのは今の所、こいつと知り合いのクソ変態探偵の二人だけ。知られると、函館戦争の残党がどんな反応するのか……それが怖くて黙っている。

 そして今も現役で刀を振るっている。でも、今の時代は剣豪と言うモノは既に時代遅れだ。時代の流れとともに剣豪の名を捨て普通に暮らしたり、警察になったり、野武士になったり……まあ、とりあえず剣豪はもう殆どいないというわけだ。

 その話からしたら、私は何をしている人かって? まあ……うん、今は無職デス。


「……いい加減、その名を呼ぶなよ。出会った頃みたいに変な奴らに絡まれたらどうする」


「大丈夫だよ。今時喧嘩ふっかけていくやつなんて――」


 いない――と言った矢先、向こうでか弱い少女がチンピラに絡まれている姿が見えた。

 どうやら、少女がぶつかってワシの体に痣が出来たんやろうがぁ……と脅し文句をしているのだろう。

 説明し忘れたが、この街は旧蝦夷共和国の残党が数多く存在している。その為、新政府はこの街に警察を多く動員して対処して、毎日警察と残党やチンピラ等の暴力沙汰が絶えることはない。住んでいる人からしたら、日常すぎて現場を通り過ぎていく光景がよく見かける。逆に日常過ぎて怖いと思うけど……。


「いたね」


「……いるな」


 青年の先ほどのイキイキした発言はどこへやら、と内心で呟いた。


「……まあ、いい。ちょっと肩慣らしに行ってくる」


 コキコキと肩を鳴らして、席を立つ。

「おいやめろ」と言う青年の言葉を無視して、厳ついチンピラに近寄る。


「おい、困っているんだからやめろ」


 チンピラの肩を掴んで、止めるように促した。


「あぁ、なんだテメェ!」


 チンピラは、暴言とともに右一発のストレートパンチを放つ!


 男の拳は私の手のひらを二つ分ぐらいの大きさだ。私は平手で受け止める事にした。勿論、普通なら骨折して吹き飛ばされるのがオチだが、細い手にがっしりと止められる。


 嘘だろと動揺している隙に、上手投げでチンピラをなぎ倒す。


「どわぁっ!?」


「女の子を脅すのはどうかと思うがな……」


 脅し文句よりも鋭い言葉でチンピラを脅した。そしてあまりにの強さに驚き、厳ついチンピラは失禁してしまった。


「畜生! 覚えとけぇ!」


 チンピラは、下半身を痙攣させ腿からこぼれ出る液体をまき散らしながら逃げ去って行った。本当に暴力沙汰が懲りない阿呆のチンピラだな、と()きれて逃げる姿を眺めていた。


「おーおー、あっけねーな。腕のあるやつはよ」


「そりゃどうも――そうだ。すばる、今何刻だ?」


「ちょいと待って、……今午後の一時だな」


「そろそろ時間か、そんじゃ、団子ごちそうさん」


 そう言って、私はこれから停泊する船の乗り降り場に向かった。


「おい、今度はどこに行くんだ?」


 彼――すばるはこう思ったのだろう。いつもそうだと、姫香はこの近辺で流浪の旅を続ける事が多い。だから、今度はどこに行くつもりだろうと訪ねてみた……って。


「ただの仕事だよ」


 私はいつも通り、振り向かないで大声で答えた。


 そしてすばるは、珍しい……いつも、流浪の旅費を集って全く働かないくせに仕事を始めるなんて、いつもの姫香じゃないと感じてしまったと、思っているのだろう。

 長年の付き合いなのか、段々とすばるの心の中がわかってきたような気がする。


「変な仕事に首突っ込むんじゃねーぞ!」


「わーってるよ!」


 しつこい、って感じてしまったんだろうか。……いや、しつこい方がいい。いつも危ない目に遭って、介抱するのは俺ぐらいしかいないんだ、と長年の感がそう言っているような気がした。

 すばるは母親のような気分で私を見守って、手を振っていた。


(さて、今回の仕事は……今日、仏蘭西から来国する大金持ちお嬢様の護衛……か。まあ、うまくいけば大金が手に入るんだ。これで妹たちに会える……きひひっ)


 求人票と今日護衛する人物の写真をを片手に持って、にやけていた。この日をどんだけ待ち望んでいた事か……ようやく、実家に帰れる手段の第一歩に入れたんだ!

  私は、妹想いのお姉ちゃんだ(自分で言うのも難だが)。一刻も早く実家に帰って妹に会いたい。再開してまず最初に抱きしめたい。そのためなら、何でもしよう! と思った矢先にこの求人票が目に入り、応募したら即決だった。天に上るくらい嬉しかった。

 そして今も、その時の嬉しさが蘇ってほのぼのとした表情で歩いています。


「早く帰りたいなぁ……」


 その時、隣から船場へ向かっていた馬が突如暴れ始めた。


「馬が暴れ出したぞ!」


「あ、危ない! そこの人、避けろッ!」


「――ふぇ……? よけ――るゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!?」


 そして私は暴れ馬の存在にに気づかず、派手に蹴り飛ばされて海に落ちていった。


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