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赤碕姫香とジャンヌ・ダルク  作者: 本渡りま
EPISODE Ⅰ 出会い編 前編
1/22

序節「箱館戦争」

初投稿です! 気楽に読んでいただければありがたいです。

 

 ――今から約百五十年前、明治の始まり。


 新政府が樹立し、西洋化が進み始める明治維新の始まりが起こっていた。

 そんな中、戊辰戦争の末期である箱館戦争に「人喰い姫」と恐れられる戦士がいた。銃槍刀……幾多の武器を簡単に使いこなし、飢餓状態の獣のように獲物に襲い食らいつく姿から、新政府軍も旧幕府軍にも恐れられていた。


 時は、明治二年・五月――五稜郭。明治政府軍は箱館総攻撃を開始した数日後のこと。

 爆音と雄叫びが怒涛に響く混沌した戦場。死屍累々の空気に包まれた、この場所に一人の男が無残に倒された木を眺めていた。

 一年前までは綺麗だった桜の木が無残になぎ倒され、かつて鏡の池と美しい池は屍の血によって濁っていた。


(桜が……散ってしまったか。名残惜しい……が、終われば桜もきれいに咲戻る)


「死ねぇ! 土方ァ!」 


 一人の武士がこちらへやってくる。だがこんなの勢い任せの戦闘だ。勢いで勝とうなんて一生でも勝てない。


「遅い!」


 ドバッ――とした重い斬撃を武士の体に切り刻む!


「グハッ!」


 名残惜しい表情しながら、愛刀の和泉守兼定とマスケット銃で鬼の如くその武士を蹴散らした。



 男の名は、土方歳三。元・新選組の鬼の副長とも呼ばれた人物だ。

 現在は榎本武揚に付き添い、蝦夷共和国の閣僚として携わっている。


「――他愛ない」


(新政府軍は臆病ばかりだ。私に挑もうとするが怯みながら勢い任せの。これが新政府軍の戦力かと呆れて腹が痛い。戦場なら、もっと勇ましく戦え。池田屋事件のように、必死に俺に挑め足掻け……)


 死屍累々の無名墓標の山を歩いていると、静まり返った戦場が再び断末魔の怒号が響き渡った。


「死ねぇ! 人喰い姫ぇぇぇ!」


 人喰い姫と呼ばれたその人物は斬撃の間隙を縫って、袖に忍ばしたマスケット銃で脳天を打ち抜く。怒号を発しながらの一斉攻撃を仕掛けた共和国軍に対して、人食い姫は瞬速の剣さばきで一瞬にして屍を作り上げた。


「―――――ァ!」


 突然の咆哮。思わず土方は耳をふさいだ。キィィンと鼓膜を通り越し、脳天を突き抜ける強烈な響き声。まるで、周波数の高い犬笛を聞かされているような咆哮だ。

 土方は、その人喰い姫をよく見る。撫子人形のような櫛った黒い髪に橙色に染まった鋭利に似た双眸が特徴の人物だった。



「……鬼か? ほう……まさか、この戦場に食人鬼に浸食された人間がいるとは……。新政府軍はよくも手懐けたもんだな」


 土方の視線と人喰い姫の視線が合う。それを見た瞬間、ゾクリと恐怖を感じた。例えるなら、鬼の副長と呼ばれて恐れられると評価する周りの人々の感情に似ている。


「人喰い姫……か。お前は、食人鬼に噛まれて理性が吹っ飛んでいるのか?」


 土方が挑発気味に言うと、人喰い姫は食らいつく蛇のように睨んだ。


「……違うなら言え。お前は人間の皮をかぶった鬼か? ……それとも、鬼の皮をかぶった人間か?」


 その言葉を放った時、にたりと人喰い姫は微笑んだ。ぞくりとした。人間の理性を捨てた快楽殺人鬼に犯されるような、そんな感じがした。

 もしかしたら、そのバケモノは俺を見かけたら食らうかもしれない……と、土方はそう思っていた。


「上等だ。人喰い鬼のまがい物が……!」


 鬼の副長が、人喰い姫に向かって猛進に突撃する。――その時。


 ――突然の砲弾着弾。周囲は土煙を巻き上げ、二人まるごと爆風に飲まれた……。


「やった、土方を討ったぞぉ!」


 新政府軍の勝機の声が高鳴る。もちろん、そこにいた人喰い姫が居ることも知らずに。


「土方……悪く思うなよ」


 叫ぶ武士の後ろから、ニタニタと微笑む中年の男性がいた。そいつは土方の死を嘲笑っていた。

 ―――そして新政府軍が錦の御旗を掲げ、五稜郭の戦いは幕を下ろした。





 ………………………。










 ――この数日後、榎本武揚が降伏し、長くに渡る戊辰戦争は完全に終結を迎えた。

 それからまた新たな文化が流れ込み、日本は大規模な文明開化を遂げることとなった。しかし、新しいものが入れば古いものは闇に葬られてしまう。人喰い姫もそうだ。戊辰戦争終結後に人食い姫は五稜郭での目撃を最後に、行方をくらました。生きているのか、戦死したのか、誰ひとり知る由もなく、やがては英雄や汚名としての歴史に名を残す事はなかった。

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