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きらびやかに輝くシャンデリアのした、ビシリと服装を決めた紳士や貴婦人がお酒や扇子を片手に持ちヒソヒソとチラチラ視線をある場所に送りながら話していた。

「御覧になりまして?あそこに幻のエアルドレッド伯爵家の…ご令嬢」

「まぁまあ、窓辺にいらしゃるのが?生きていらしたのね。出てこないものだから本来は既に……ねえ?」

「おや?隣におられるのはレンフォールド公爵家の嫡男殿ではないか」

「おお、本当だ。久しく見ていなかったな。もしや、隣のご令嬢と婚約されたのか?」

「さてな……一緒に会場入りしたのを見たぞ」

「ではやはり?」

そういったヒソヒソ話している声が聞こえる。ひそひそ声なのに内容まで耳に流れている。

( どうしてこうなってしまったの?早く音楽を演奏して!!)

図書塔で、男性とぶつかってしまった日から一週間後、兄の代わりに招待されていた夜会に参加していた。

人を避けて生きて来た彼女にとってこの場の空気は耐え難いものだった。ダンスが始まれば楽しく踊り出す。そうすれば視線の先にはホール内で踊る者たちへと注がれる。

ひっそりと主催者と挨拶をして、一曲ダンスを見届け気づかれないようにこの屋敷から出ようと思っていたのに、全ての予定が台無しだ。

深いため息をつきたいが喉まで来た空気を押し留めチラリと隣でにこやかにお酒を含みながら談笑をしている貴公子を盗み見る。周りからチラチラと向けられる視線を不快に思う。

こうなった理由は兄にもあるが、兄の場合仕事という不可抗力だ。とは言いつつ彼女も不可抗力だ。まさか今回招待された屋敷に結界が張られているとは思わなかった。知っていれば急遽ではあるが欠席する旨を伝えたというのに。そうすればこんな予定外の視線を受けずに済んだ。




パンっ!両手を頭上で上げ腰を曲げ深く頭を下げている。茫然と見下ろす王都にあるエアルドレッド伯爵家の屋敷の日当たりのいい私室で、夕食まで微睡んでいると兄は入ってすぐに上記の体勢を足元でしていた。

(普段取り乱さないお兄様が…-一体何?)

ただただ見下ろしている妹、アイリス・セリーナ・リア・エアルドレッドを八の字眉毛で見上げる。この顔は本当に困った時にしかしない顔。

「と、兎に角床に膝をついてなどいなくていいから座って話しましょう?」

自分にとって厄介な頼み事だと四つ年上の兄の クラーク・グレン・リオ・エアルドレッドをなだめ、向かいの席に腰を下ろすように促す。

(こんな時にルーファスお兄様も居ないなんて……)

少し目眩を覚え額に手の甲を少し当て、ゆっくりと息を吐き、目の前に座っている困り果てたクラークに隣に鎮座している大きめなテディーベアに抱きつきながら引き攣った笑顔を見せると土下座とまでは行かないが、ソファの上で先程の姿勢になる。

「嫌だと思う!お願いだ!アリスが欲しいテディーベア好きな奴買う!お願いだ!緊急要請で、今夜の夜会に行けなくなった!頼む!行かないわけにはいかない家なんだ!」

一呼吸でそう言われて理解する時には虚ろの遠い目をして寝たふりをする。

(アイリス17歳。去年社交デビューの時トラウマの為去年2度ほどしか出ていません。ピンチです……でも、お仕事なのです。兄が…-)

騎士団に所属している兄二人。今日は夜会に合わせた長男のクラークがお休みの日だった。いかなくていいはずの夜会に赴かなくてはなりません。

「一人で行って欲しいと……」

「ああっ!」

「わかりました。頑張ってみますね………」

仕事なら仕方がないと腹をくくりため息混じりに答えた顔は既に一仕事こなしたように疲れた青い顔だった。

「本当か!兄様!限定お菓子もつけちゃう!ありがとう!」

安心したように笑った兄は急いで玄関に向かった。その後ろ姿を見送りソファに倒れこむ。テディーベアの顔はブサイクになってしまった。

表舞台に滅多に行こうとしない。妹に頼むくらいだ。何かあったのだろう。兄達を心配しつつチラリと時計を見ると午後4時を少し回ったところだった。

(急がないと時間がありません)

時計を見た後背後を見るといつもより二人多い侍女がにこやかに立っていた。

「お兄様方テディーベア2つですよ。あと本も追加してもらおうかしら?」

ソファから気だるげに立ち上がり何度目かわからないため息をつく。

大慌てで身支度をして水色のフリルがたっぷりと使われているドレスに身を包み夜会会場となる屋敷にやって来た。従者に恭しく手を取られ馬車から降りる。

(視線が刺さる)

エアルドレッド家の馬車から幻とまでに言われた令嬢が降りて来たのだ。

屋敷に入ろうと一歩踏み出した。しかし、パチンっ!大きな音を立て激突した衝撃と吹き飛ばされる感覚にきつく目を閉じる。地面に体がぶつかると思いきやその衝撃が来なかった。

「あれ?痛くありません。いえ、初めのは痛かったのですけれども」

呟くように唖然と屋敷を見て、上を見上げる。

図書塔でぶつかった男性が綺麗に髪をあげてキメた服装でそこにいた。顔を若干覚えてなければ初めましてと言ってしまいそうな程あの時とは雰囲気が異なっていた。

「凄い勢いで飛ばされていたけど………妙な物は……持っていなさそうだね?」

「ええとそんなもの持ってたら自分の体が吹き飛ぶので持ちません」

「怖いこと言うね。さて、どうして阻まれたのか……」

俯き、ため息を出したいのを必死で堪える。

「魔力を持っていないせいなのか、体質なのか定かではありませんが、詳しい人曰く魔法関連に拒絶される体質だそうです。今回この屋敷に張られている結界に拒まれたのかと思いますが、私にとってこれが日常なので然程気にしてはいません」

口を大きく開ける男性とこの屋敷の使用人だと思われる女性が恥も捨てしばらく固まっていた。

「兄達もいない今私はこの屋敷に入ることすらできないし帰ろうかしら?」

「待ちなさい一人で納得しないで!?魔力がないから結界内に入れないとか聞いた事ないよ!?」

我にかえったのだろう、帰ろうと馬車の方へ向かおうとすると焦った声で手首を掴まれた。

「そうでしょう。事例などないですから」

「いつもはどうしてるのかな?」

「え?魔法具を使うときのように誰かに魔力を流してもらってます」

訊かれたので、反射的に答えてしまった。

(あ、帰してもらえない)

頭を抱えたいが、こんなところで抱えられるわけがない。もう諦め、流れに任せ色々放棄したい気分だ。

「なら、流せば入れるんだね?」

「ええ、ですが魔法関連には魔力も含まれていて家族と唯一親友の一人が流しても成功するかはその時によります。なので、うまく行く可能性は低いのです」

「そう、厄介な体質だね。とりあえず、やってみようか」

そう言われて、屋敷の方に男の人にエスコートされ共に行く。

ゆっくりと暖かいものが流れてきた。

「あったかい?」

「ああ、よかった。拒まれなかったね」

(ええ?)

キョロリと周りを見渡すと玄関ホールに立っていた。

「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はアレクシス・エセルバード・リオ・レンフォールド。君は?」

「え?え?こんな事初めて……」

「おおーい?」

「え?あ、その、アイリス・セリーナ・リア・エアルドレッドです」

名乗ると目を見開かれた。その目は嫌いだ。と思い視線を下げる。

「そう、クラークの妹か…。うん、出るときも同じ?」

「あ、はい」

「じゃあまた、帰るとき声かけて」

そういうと、会場のフロアに行ってしまった。




(なんで、隣にいるんですか)

チラリと盗み見ると視線に気がついたアクシスが微笑んだ。

「レンフォールド殿。こちらのお嬢さんは?」

「同僚の妹君です。彼らは今日仕事のようですし、

一人だったもので、人見知りもするらしく」

そうなのだ。あのときもほとんど目を合わせず話していた。人が苦手なのだ。

「アイリス・セリーナ・リア・エアルドレッドと申します………」

頷いた髭を生やした中年の男性はニコニコしていて落ち着かない。

音楽が流れ、一息つこうとすると手を出された。

「一曲、踊って帰りなさい。顔が青い」

「はい……」

震える足をなんとか動かし中央に行き、ステップを踏む。

(踊らずに……帰りたかった)

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