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数人の侍女たちに連れられ浴室に来たアイリスは鏡に写る自身の顔が数時間前よりは良くなっている顔色にホッと息を吐いた。
チャポン……と音をたてながら広い浴槽で、曲げていた膝をグッと伸ばしてだるんと力を抜いた。
レンフォード家の侍女三人の一人はアイリスの髪に艶を出すため香油を丁寧に塗り込んでいる。あとの二人は両腕を磨いている。
三人も付いて入浴は初めてで少しばかり、緊張するアイリスに困ったように微笑んだ侍女に言われたが一向に力が抜けない彼女にに諦めたのか心得ていたのかそのまま続行してくれた彼女らに感謝した。
柑橘の匂いが鼻腔を擽り緊張を揉みほぐしていく。
ふわふわとした感覚にだんだんと力が抜け落ちる。
日に焼ける事を知らない白い肌は玉のように磨き上げられ、侍女たちに着飾れていく。コルセットを締める工程はとても憂鬱だった。
(ううっこの世界からコルセットが消えてしまえばいいのに……)
そんな心のつぶやきを知らぬ侍女たちに締め上げられていく、体と心は悲鳴を上げている。それでも、ぎゅうぎゅうと締め上げられほっそりとした腰の出来上がりだ。
今回の婚約発表の夜会のドレスのデザインの相談を一度も相手にしていない。むしろあの件の発端で丸投げしてしまった。
デザインは夫人と妹である、ミッシェルとルーナが嬉々としながらお抱えの仕立て屋に怒涛の勢いで作らせた一級品。
見事なまでのドレスが、今一人の侍女の腕に有り、その美しさに見惚れた。
「綺麗……」
水色を基調にした淡く金色の詩集がきらめく。爽快な雲ひとつない空を舞う金の蝶。が足元を踊るように刺繍が施されていた。V字の胸元を瞳の色と変わらないパールグレイのレースが首飾りが無くとも映える図案にお見事と心の中で拍手を送る。
腰より少し上の部分で頭のリボンが後ろで結ばれており、大きな蝶、蝶の女王のようだ。
袖口も下に下がるよう大きな袖口は動くたびに蝶が舞うように見える見事に作られている、同様にレースがされている。
「これを私が着るなんて、ルーナ様が着るのでは?」
何かの間違いだと考えるアイリスに侍女は首を振る
「奥様とお嬢様がアイリス様にとお考えになった図案通りに作られております。あなたの一着になっております」
「夜会の舞う蝶のようにがイメージに、儚く
ほほえむあなたに似合うように考えられておりますからきっととてもお似合いになりますよ、あなたの色彩に合わせた作りですわ」
そう諭すように言われ、いつの間に欠かせられ、髪を結われ、庭園に舞う誰もが見惚れる蝶の出来上がりだった。