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微笑ましい空気が流れる部屋に静かなノック音が聞こえた。
「入ってくれ」
アレクシスがそう一言扉に向かっていうと、静かに扉が開いた。
堅物そうなきっちりと髪を結い上げた侍女が、アレクシスに近づくと綺麗な装飾がされた少し大きめな白いボックスと何も装飾がされていない黒い艶やかな手のひらサイズの物をを渡す。
「ご注文されていたものが先ほど、届きましたので届けに参りました」
「ありがとう、間に合ってよかったよ」
ホッとしたように安堵の表情をふわりと見せたアレクシスはチラリとアイリスを見た。
「モリー、彼女にドレスを……それ相応の身支度を頼めるかな?」
「心得ております」
しっかりとお辞儀を見せてから、くるりと方向転換をしてアイリスに向き直る。
「時間がありません。まずはその疲れ果てた淑女足らぬ顔をどうにかさせましょう。着替えとメイク結い上げはその後です。アイリス様」
さあ、こちらはと促され部屋を後にする。
和かな見送った3人は息を吐く。
「どうやら、誤解を解けたみたいで助かった」
「ああ、お前の婚期を逃すところだったぞ」
「ひどい言われようだね」
「間違ってはいないと思うけれどね」
二人からの冷たい言葉に乾いた笑いしか溢れない
「エアルドレット伯爵家と結婚するからには覚悟を決めろよ。浮気となどしたら流石のレンフォード公爵家といえど潰れるからな。これ以上傷つけるのは良くない」
クラレンスの言葉にピクリと眉をひそめる。
「それはどういう意味だい?僕が彼女を傷つけるとでも言いたいの?」
「いや、そうは思っていないさ。けど、エアルドレット伯爵家は普通の伯爵家ではないからだ」
二人は首を傾げた。クラレンスは仕方がないと首を振る。
「知らなくとも無理はない。その事実を知っているのは一部の貴族と王族のみ。ちなみに今のご当主は婿養子」
「ああ、王妃がエアルドレットの血筋だと言いたいんだね?」
「いいや、そこじゃない。と言いたいが少しばかり関わるけど、………おかしいと思わないか?一般常識的にはエアルドレット伯爵家は裕福過ぎでもなく貧乏でもない。至って普通の貴族」
「うん、それが?」
貴族であるアレクシスは貴族のパワーバランスの図面を脳裏浮かべエアルドレット伯爵家がどの位置にいるかを再確認した。
貴族社会には詳しくはないがアイリス本人からどの位置にいるか聞いているメアリーもかすかに頷く。
「侯爵家へ養子に出されたとはいえ、エアルドレットの血筋であるミリア様が当時の王太子妃の座につけたか。不思議に思はないか?」
「でも、クラレンス、王妃様と国王様は恋愛結婚って聞いたわよ?」
メアリーの言葉にクラレンスが頷いたが考え込んでいたアレクシスが僅かに見開いた。
「…確かにおかしい。僕たちが生まれた頃には結婚なさってはいたけど、父から聞いた話だと、あまり反対の声が上がらなかったと、反対の声は下級貴族ばかり、それもあまり古くはない新参者の貴族。古くはないと言っても100の歴史はあるけどね…」
「多分、エアルドレット伯爵家の秘密は教えられると思う。けど、今ここで知っていた方がいい。さっきも言ったけど、この秘密を知る者はごく僅かだ」
「でも、それは何故?」
ふうと息を吐いたクラレンスは二人に、座るよう促してから、腰掛けて少し俯き何度か瞬いた。
「それはエアルドレットが旧国の王族だからだ…」
「なんだって!?」
貴族の嫡男でもあるアレクシスは驚きを隠せない。歴史は学んでいるが、そんな重大なことは教わらなかった。
「ねえ、クラレンス…なぜ、なんでそんなに驚いているの?旧国の王族って?」
「メアリーが知らないのは無理がありません。歴史なんて習わないのですから、今のヴァーエレット王国の前の王国が存在したんですよ」
「それってエレアルトード王国のこと?それって国名を変更した関係で同名の家名にだけって書物で読んだことあるわ」
「ええ、それが庶民の中で伝わっている常識だと思います。実のところは違います。ここから先はアレクシス、お前も知らない」
「ああ……だと思ったよ。今まで習ってきた歴史はなんだったんだ」
衝撃のあまり、放心状態になりそれから抜け出せないでいた。
「家督を継ぐ時に教えようと考えていたとは思うぞ公爵は。あまり触れ回りたくないからなこれはエアルドレット伯爵家の威信に関わるからね」
「エレアルトード、エアルドレット全く違うけど少し似てるわね」
「ええ、メアリー気づきましたか。そしてヴァーエレット王家。現在の王族はかつて、エレアルトード王族を支える腹心の家だった」
そう、呟いた彼は少し眉間にしわを寄せていた。二人は顔を合わせ静かにクラレンスの話を聞く体制に入った。