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第63戦 VS眠れぬ夜

布団にくるまったまま、天井をぼうっと見つめる。

暗く静寂に包まれた室内にはたまに通る自動車の音が良く響く。

少し前まで暑さに苦しんでいたのが嘘のように、布団の外は肌寒い。

カーテン僅かな隙間から月の光が差し込んでいた。

古典的とも呼べるような形の目覚まし時計が、舞台上の俳優のように月光のスポットライトに照らされている姿はどこか滑稽だ。


現在時刻0:32


「眠れない・・・」


私は時間の使い方には自信がある。

普段から全く無駄がない、常に動いているようなスケジュールを組んでいる。

散歩とかできる日は極々稀なのだ。

酷使された体はいつもはいい具合に疲れているので、布団に入るとすぐに寝入ってしまう。

しかしこの前、徹夜でゲーム大会をしたので、生活リズムが狂ってしまった。


「どうしたものか」


そういえば子供の頃は母さんと一緒に布団にもぐって、本をよんでもらって・・・・・ないな。

なんにせよ眠れぬ秋の夜に読書と言うのも風情があって良いだろう。

今は重さが無いとかそういうレベルのまぶたも、その内重くなるはずだ。

体温を奪われたくは無いので、本棚から読みかけの小説を取り出してついでに蛍光灯の明かりをつける。

月の明かりで読書に耽るのも悪くは無いが、情緒よりも目の健康を優先すべきだろう。

みの虫よろしく布団をかぶり、ページをめくってしおりを探し当てる。

私は本の中の世界へと落ちていった。







現在時刻1:10


「あれ?」


とは言えどこかでこんなオチになるとは思っていたが。

左手の方にあった紙は束は今やほとんどが右手側に移ってしまい、残すところは広告部分と裏表紙だけである。

要約すると本の内容が面白すぎて読みきってしまったわけだ。

駄目大学生の話なのだが、気取った文体と中身というか主人公自身の軽さが妙にマッチしていていた。

全四章で、四つのサークル内一つを選択した場合を章ごとに描いている、という構成も中々面白い。

同じ状態、心境描写する際にコピー&ペーストを乱用するのはどうかと思ったが。

ギャグにしては・・・・・って読んでいた本の内容をおさらいしている場合ではなくて、だ。

蛍光灯の光を血圧を上げないよう最小限の動きで蛍光灯の光を落とす。


「眠れないときと言えば――――――」


やはり羊を数えるのが王道か。

羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹、羊が四匹。

羊が五匹、羊が六匹、羊が七匹、羊が八匹・・・・


そういえば何故人は眠れないときに羊を数えるのだろうか。

別に山椒魚だろうと朱鷺だろうとイリオモテヤマネコだろうと構わなかったように思う。

何故羊なのか、それはイメージに拠ってのことかもしれない。

羊と言えばフカフカとした毛皮が特徴だ。

その印象が安眠へとつながり、やがては眠るための民間療法になったのか。

あるいはいつも羊を数えているうちに居眠りしてしまう羊飼いがいて、彼が眠れぬ夜に羊を数えてみようと思ったのか。

いや、羊のスペルはsheepだから・・・・・







現在時刻2:43


結局下らないことばかり考える私の脳みそは「本当に社会主義<資本主義なのだろうか?」というところまで行き着いてしまった。

どうやって羊の話がマルクスやエンゲルスまで到達出来たのか自分に問いかけたいものである。


「・・・・・・」


不味い、非常に不味い。

明日は七時間授業で且つ、音楽などの休憩教科が無い主要教科だけのハードな曜日だ。

授業中に眠るのは私の主義に反する。

そもそも席が教卓のまん前の時点で居眠りするはずができようか、いや出来ない。

反語表現を用いなければならないほど不可能だ。


「よし」


暖房器具という概念が存在しない布団の外へ赤裸々にダイブ。

今までの敗因は精神状態を上手く操作して寝ようとしたからだ。

そんな自己暗示程度のものではもう駄目だ。

睡眠薬などで体を直接眠らせるべきだ。


「・・・・・くっ・・・」


二、三回程間合いを取り直すことによって、やっとこさ電気のヒモを掴む。

急に明るくなった台所は少し不気味だ。

ゴキブリが出るかもしれないからな。


「っと」


観音開きの棚をを早くもかじかんできた手で開ける。

眠れないときはコカインを摂取すれば良く眠れるという。

ってコカインは麻薬だ。

カテキンだったか?

いや、カフェインだったかもしれない。


・・・・・・・とりあえずコーヒーでも飲んでみるか。

「カフェ」とついているのだから何かゆったりとした感じになるのだろう。

少なくともカテキンは角ばった音なので多分ハズレだ。






現在時刻3:15


ハズレだったろこれぇえええええ!

「カフェ」とついているからと言って優雅でゆったりしているわけではないようである。

良く考えればウチの喫茶カフェなんかは、ほとんど居酒屋のようなものだ。


「私にどうしろと言うんだ!」


念のため近所迷惑にならないような音量で叫ぶ。

布団の中はすっかり温かくなっており、不快指数は最高潮へと達していた。

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!

今からでも遅くない、体を疲れさせれば何とかなるはず。

寝間着のままに靴だけスニーカーを履く。

ドアを勢いよく開け放つ、やはり近所迷惑を考慮しながら。

暗闇を優しく月光が照らす町へと、私は「睡眠」という人類最上の命題を抱えて飛び込んだ。







現在時刻8:30


「という夢を見た」


「夢だと言い切れない微妙な夢オチよね、それ・・・」










この世界が蝶の夢でないと誰が言い切れるだろうか

ということで皆様の安眠の手助けになったでしょうか?


一応説明しときますと、主人公が読んでいる本は「四畳半神話体系」です。

最近一押しの小説。

嗚呼、大学行きたくない・・・・就職は尚更。


ついでにもう一つ一押し。

「ラピュタ効果と夏の夕暮れ」というのを読んでみてください。

てか私が書いた短編ですけど。

珍しくシリアス短編。

四面楚歌の人比良さんの東方夢十夜の読了後すぐ書いたので雰囲気が別に似てないです。

夢現再販に狂喜したのは私だけではないはず。

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