第62戦 VSゴスロリ「幼女?」
そして過去最大の長さをまた更新。
「僕は今、家出をしているんだ」
「・・・へー」
左手で頬杖をつき、反対の手でアイスティーをカラカラとかき混ぜる手を止めないまま私は応えた。
幼女・・・もとい黒いゴシックロリータに身を包んだ少年は、何だか誇らしげに胸を張っている。
ちょっと悪ぶったことを、子供は格好いいと思うのは今の時代も変わらないらしい。
ファミレスの涼しいエアコンは、少年を得意げにさせるまでその責務を果たしたようだ。
と思ったら少年は私の反応の薄さのせいでスネた。
「・・・なんだよ、それ。パフェ、おかわりするぞ」
「へぇ、そいつは知らなんだー格好いいなー」
アイスティーをかき混ぜながら無表情で応えてみた。
おお、睨んでる睨んでる。
手を止めて元幼女だった少年の方を見ると、顔を真っ赤にして涙目になりながら睨んでいた。
どう見ても「カワイイ」という形容しかできないロリのそれだった。
可愛いのだが非常に心苦しいものがあるな。
いじめすぎたようだ。
「で、どうして家出なんぞしてるんだ?」
元幼女はお冷を口につけてから、口を開いた。
「家出って言ってもまだ一日も経ってないけどね。あ、すいません、パフェもう一つ」
「こんの糞餓鬼が・・・・」
人がせっかく涼しいファミレスに連れてきたというのに、なんてふてぶてしい奴だ。
しかし話題を逸らされたとこ辺り、あまり動機は話したくないようだな。
もしくは打ち明けるほど心を開いていないか。
どちらかと言うと後者の色合いが強そうだ。
「お前、これからどうするつもりだ?」
「・・・・」
無言のまま少年は再びお冷に口をつける。
ノープラン、か。
このまま交番に突き出して、ハイさよならってのも後味が悪いしな。
よし。
「行くアテがないのなら、服を買いに行くのに付き合ってくれないか?」
どうせ近々買いに行く予定だったのだからいい機会だ。
このままコイツを放って宝蓮荘に直帰するわけにはいかんだろう。
「知らないオジサンについていっちゃ駄目、ってお母さんは言ってたぞ」
「知らないオジサンにアメを貰ってはいけない、とは言われなかったか?」
「言われた、でもこれはパフェだ。だから大丈夫」
「・・・へぇー」
本日2へぇー。
金の脳はいづこへ。
「でもまあパフェが食べ終わったら行ってあげてもいいよ」
「へぇへぇ」
たまには頑張ってへりくだった形にして4へぇーまで稼いでみた。
100へぇーまで残すところ96へぇーだ。
しかしコイツ、このえらそうなやつ何処かにいたな。
あ、私か。
結局この後、元幼女の今年の先生についての話を、私がぬるくなったアイスティーをかき混ぜながら聞く描写が続くので割愛させてもらう。
ちなみにへぇーポイントは途中で飽きて数えるのを止めた。
「ほ、本当に買ってもいいのか?」
「パフェを何杯もおかわりしておいて、ここで遠慮するなよ」
私達の現在地点は偶然近くにあったユニクロだ。
流石にゴスロリ幼女を連れ歩くのは私の精神衛生上、非常によろしくないので男服を着せてみることにした。
前話で触れた小学校時代からの友達の母親に頼むのも悪いので、ユニクロ案を採用。
それ以前にゴスロリ幼女を連れたまま友達の母親に会えるか。
しかし精神ダメージを回避しても、財布へのダメージは大きいがな・・・・
今月はバイトが多い月でよかった。
「でも・・・」
なにやら渋っていたが、面倒なので無視してレジを通る。
子供なら人に遠慮なく頼ればよかろうに。
「えっと・・・その・・・ありがと」
「おう」
よく言えました、という意味を込めて俯いた頭を軽く撫でてやる。
やはり子供は髪がサラサラだ。
「ほら、さっさと着替えろ」
試着室に少年をぶち込む。
これで脱・ゴスロリだ。
割とあんな街中であんな格好をしていたのだから、ゴスロリに何らかの拘りを持っているかと思えばそういうわけではないようだ。
それなら何故・・・と暫く考えているとカーテンが開いた。
「お待たせ」
「・・・・・・」
「何だよ、その顔」
下が黒めのジーンズで、上がテキトーな柄がプリントされた白いTシャツ。
更にその上に帽子をかぶっている・・・と文章にすればさほど変でもない。
ただ少年というよりは、どちらかというと男装した少女といった方がしっくりくる。
ファッションのおかげか先程よりかは大人っぽくなってはいるが。
「お前、本当に男か?」
「ぶれいもの!なんなら・・・触ってみるか?」
「それはいい」
全力で手を突き出して拒否。
周りからどんな風に見られるかわかったものではないからな。
そもそも人として大切なモノを見失いそうで怖い。
とりあえずそこまで言うのなら本当なんだろう。
「おし、隣の公民館に行くぞ」
「ん」
自動ドアを抜けてしばしの地獄、暑い。
右手に持ったゴスロリの入った袋が熱源な気がしてきた。
ちらりと横で暑そうにしている元幼女を見て思う。
服を買ってやって恩を売ったのだから、そろそろ聞いてもいいだろう。
「結局、そうして家出したんだ?」
「―――――・・・・・」
一瞬だけ動きを止めてまた歩き出す。
先程よりしかめっ面になった表情はためらっているように見える。
数歩歩いた後、決心したのかようやく口を開いた。
「お姉ちゃんが、僕に女の子のカッコをするように言うから」
「―――――・・・・・へぇ」
私も同じように僅かな間、動きを止めさせられた。
なんともリアクションに困る話である。
再び自動ドアを抜けて公民館に入り、その辺にあった椅子に並んで腰掛けた。
「イヤだってちゃんと言ったのか?」
「お母さんがあまり家にいないからお姉ちゃんはいつも家事とかで忙しそうで・・・・・だからお姉ちゃんになんかしたいけどできないから・・・・」
「そして本当は嫌だけど姉がそれで安らぐのなら、と」
深刻そうな顔のまま元幼女は小さく首を縦に振った。
そして話を続ける。
「でもこないだクラスの友達にたまたま見られて・・・・それをからかわれて・・・・・」
「・・・・・」
で、姉に止めてもらうようにも言えず、かといってこれ以上続けたくない。
その板ばさみをどうしようもなくて逃げようと家出したわけだ。
随分と優しい子だな。
息を長々と吐いてから、説教役を買って出ることにした。
「あのなぁ」
「何」
不機嫌そうに俯いたまま声を出す元幼女に、言葉を続ける。
「弟に女装させるよう言われるのと、家出されるの、姉がどっちの方が嫌と思うかわからないわけでもないだろう?」
「だけど・・・・・」
「それを拒否するくらいの我が侭・・・いや、姉の我が侭をハイハイと言って全部飲んでやる必要は無いんだ」
私は正面を向きながら話しているからわからないが、何となくこっちの方を向いた気がした。
「姉が忙しいのを気にしてるなら、お前が家事を手伝えばいいだろ。できないなら私が教えてやってもいいし、そういうことができる友達に頼ってもいい。直接言えないのなら母親に言うのだって別に悪いことじゃないだろ」
「うん・・・・」
「つまりだ」
椅子立ち上がって振り返り、熱中症の原因となったゴスロリが入った袋を手渡した。
これ以上私が持っていたら、私がこれを持って帰ることになってしまう。
「もう少し人を頼れってことだ。甘えろってことだ。家出なんかして心配かけるより、何万倍もいい」
手を掴んで椅子から立たせる。
「だから早く家へ帰れ、な?」
「・・・・・わかった」
何とか一件落着だ。
最近どうにも説教臭くなってる気がするがまあいいか。
「これで途中で誘拐とかされたらお前の姉に合わせる顔が無いから、一応途中まで送ってくぞ」
「まだ昼間なのに・・・・別にいいけど」
そして二人並んで炎天下の中を歩き続ける。
気のせいかもしれないが、先刻よりは涼しくなった気がする。
「あ、一応これが私の家の電話番号な」
手帳に番号を殴り書きしたものをから切り取って渡してやった。
連絡先もよこさずに、何かあったら私を頼れ、ってのもおかしいしな。
元幼女はそれをたたんで袋の中にしまう。
「じゃあ僕のケータイ番号、今から言うから」
「・・・お前その年でもうケータイなんか持ってんのか。というか番号覚えてるのか?」
「じーぴーえすってヤツがついてるからケータイは家。番号は前にお母さんが迷子カードみたいの買ってくれて、それに書いてある」
多分、家族はコイツのことを溺愛しているのだろう。
忙しいから放任になってはいるが、時間があったら恐らく超過保護になるだろうな・・・
なんてことを考えながら言われたとおりに手帳のアドレス帳に名前を書いていると、とある事実に気づく。
「そういえばお前、なんて名前だ?」
「名前は自分から名乗るものだよ」
生意気な・・・・
「橘家人。お前は?」
「大和薫。あんま好きな名前じゃないけど」
「私は年寄りになって恥ずかしい名前でなければ、大体良い名前と思うがな」
世界は大分狭いな・・・・
そういえば先代管理人が昔「甥が超可愛いの!」と言っていたが、確かその名前が薫だった気がする。
「もうすぐだから大丈夫」
「ああ。じゃあな」
「うん。また今度」
手を上げて別れる。
良いことをした後は気分が良いな、ハッハッハ。
そして天を仰ぐ。
まだ灼熱の太陽に手をかざしながら
「ここは何処だ・・・・・」
やはり世界は広いかもしれない。
橘家人が宝蓮荘に帰還したのは結局日が暮れてからだった。
男の娘は性格付けが難しいです。
家人みたいな偉そうなキャラにしようとしてもキャラが立たない・・・
てことで一ヶ月以上空けてすいませんでした。
近頃、大学受験が近づいてきて逃げたいです・・・・