第60戦 VS地球温暖化
「家人~、あぢ~ぞ~」
「なんでクーラーが無いんだよ・・・・」
「やかましい、文句があるなら帰れ・・・・・」
熱い・・・・暑すぎて畳から煙が出ているような気さえする。
林葉から借りたSF小説を読み進めようと思ったが、暑さが邪魔をして集中できないので中々本の世界に入り込めない。
これ以上の読書続行は不可能と判断し、現実とは相反する極寒惑星を探索するページをわざとらしく音を立てて閉じた。
健児と丼モノが暑さでダレている現実を見ていると、ますます先程のページへ逃避したくなってくる。
そもそも何故私の部屋に野郎が三人も集まっているのだ。
むさ苦しくて仕方ない。
「丼モノは部屋にクーラーがあっただろ」
「毎日フル稼働してたら壊れちゃったんだよ。そうでなきゃこんなむさ苦しいトコ来ないよ」
「健児」
「光熱費ケチったら電気止められた・・・・」
で、唯一扇風機が残っていた我が家にわらわらと集まってきたわけか。
何だか今回は私が被害者のようだ。
ちゃぶ台にうつぶせてアニメのうちわを扇ぐ丼モノが、うめくようにして声を上げた。
「女性陣の部屋に押しかけるのは無しかな・・・・」
「欅と林葉の部屋は間違いなく欅が追い返すだろうし、ユカは里帰り中。カンナは真木の家へ遊びに行っていて、麗香は絶賛仕事中、というところだろうなぁ」
今度はタンスにもたれかかってジョーの如く燃え尽きた健児がうめく。
ゾンビのパーティがあったらこんな陰気な感じだろうか。
「合鍵使って勝手に部屋を借りるのは・・・・・」
「やってもいいが後でどうなっても知らんぞ・・・・・」
だよなぁ、少しアブない提案をした男はと更にうつむいた。
そのまま横に倒れてゆっくりと転がり、呪怨チックな感じで半身を起こした、もっとも呪怨を見たことはないが。
「なんか涼しくなるコトしよーぜ」
「あぁ・・・・?」
「うわ、家人ガラ悪・・・・」
これだけ熱ければ、人の一人や二人グレても全く不思議ではなかろう。
目を閉じて不良から一瞬で更生してから健児に尋ねた。
「で、涼しくなるコトとは?」
「怪談話だよ、怪談」
汗だくの顔ながらもドヤ顔で健児が答えた。
定石と言えば定石、夏の定番だ。
健児が緩やかといおうか気だるそうにカーテンをしめた。
部屋が一気に薄暗くなり、稲川淳二か松崎しげるが出没しそうな雰囲気になる、嘘だ。
丼モノがうつぶせのまま「じゃあ言いだしっぺからどうぞ」と喋った。
何か怖い。
「悪の十字架、という話だ・・・・あるスーパーの前で一人の老婆が・・・・」
「開くの十時か、だろ。んな使い古されてカビが生えたような話されても・・・・」
「開くの十時か?」と「悪の十字架」をかけた話は「布団が吹っ飛んだ」と同じ位使い古された小噺だ。
少なくとも私達の世代では常識だが、知らん奴はグーグル先生に聞いてみるといい。
「せめて最後まで話さしてくれよ~」
「別の意味で寒くなったからいいんじゃない・・・・?」
「たまに酷いコトいうよな、お前・・・・・じゃあ次、家人」
「そんな急に言われてもネタのストックがあるわけないだろ」
一応、この宝蓮荘に亡霊が住んでいた、という話はあるが大して怖い話でもないしな。
ん、一個思いついた。
「じゃあちょっと話させてもらおう・・・・」
月のない新月の晩、その日に限って殺人鬼が自分の仕事をする。
彼は死体を解体してからパーツを再び縫い合わせるのを好んだ、マトモではない形に。
喉から手が出るほど、という表現をを実際にやってみたり、男性の死体の股間の部分に首を縫い付けて「女じゃなくても出産できるみてぇだな」なんて声を押し殺して歪んだ顔で笑いながら。
その日の仕事は猫を連れて歩く少女だった。
口をふさがれて涙目であがく姿はどことなく扇情的で、男は興奮し、インスピレーションを刺激されたのかいつもより人間離れした姿に縫い付けた。
良い作品を仕上げた達成感に酔っていると、いっしょに歩いていた猫がいないことに気付く。
まあ猫に見られたところで、目撃されたとは言わねぇだろ、と男は帰った。
三日月の晩、殺人鬼はコンビニで雑誌と晩飯を買って帰る途中ことだ。
少女を芸術作品に仕立てた路地の入り口に猫がいた。
「ヌぅ・・・・ヌう・・・・・」と変な声で鳴いていた。
ついでにコイツで作品を作り上げるとするか、と猫についていって路地裏に入り、彼はナイフを取り出す。
ナイフが頭へ振り下ろされる直前、猫と目があった。
その金色の目は、男を指一本筋肉一繊維自由に動かせない金縛りの状態にした。
全身が動かなくなった彼に向って猫がもう一度鳴いた。
冥府のそこから響くような、到底猫とは思えない低い声で
「ヌぅ・・・・ぬう・・・・・・・・・縫う・・・・?」と。
次の晩、人型をしていたとは思えないほどに、全身をバラされて縫い付けられた男性の死体が発見された。
「・・・・検視の結果によると、どうやら生きたままそういう風にされたそうだ・・・・・終わり」
誰も口を開かない真っ暗な部屋。
ノーリアクションというのは話し手にとって辛いものがある。
ではなく皆ビビっているようにも思えるが。
かく言う私も話しておきながら、背筋の寒気が一向に止まる気配がない。
強がらずにはいられないという風に健児が無理やり声を絞り出した。
「あ、あれだな。途中でオチが読めたけど中々じゃねーか?」
「でもヌ、ヌヌちゃんをネタにしたのは面白かったよ」
「・・・・・・・・ヌぅ・・・・」
「「「ぅおおおおおおおうッ?!!?!」」」
いきなり背後に現れたヌヌ猫は、役目を終えたと言わんばかりに去っていった。
心臓に悪いやつめ・・・・・
「何ビビってるんだか、健児」
「お前も今、思いっきりビビってだろーが!」
私だって怖いのは得意ではないんだ・・・・・
下手したら私より年上かもしれない猫の話だからな。
本当にその通りだったら嫌なので、未だに誰にも確認はとっていない。
「で、でもさ。この話ってフィクションだよね?」
「さあ・・・・先代の管理人から聞いた話だからな」
「そー言やこないだアイツが勝手に俺の部屋に入ったときに、後ろ足で襖を閉めてた気が・・・・」
「サッカー部の先輩にそんな連続殺人事件があるって聞いたことがあった様な・・・・」
「「「「・・・・・・」」」
全員、ダッシュで叫びながら欅と林葉の部屋に向った。
皆まとめて殴られたのは言うまでもない。
「ヌん」
殺人鬼がいた話は事実である
日常が帰ってきました。
夏コミが曇っていても安心の汗だく度だったのでこんな話になりました、嘘だけど。
しかしキーボードを叩く指を見やると皮がむけている・・・・嘘だけど。
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃんというラノベを読んだあとなので「嘘だけど」を多用してます、嘘だけど。
割とそういう感じに書きたくなるのは元々です、嘘だけど。
というのも嘘だけど。
・・・・しつこい。