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第59戦 VS閉じこもった妹

「本当に・・・・今までありがとうございましたっ!」


晴天の空の下、宝蓮荘の住民が巣立とうとしていた。

心なしか目は泣くのをこらえているのか、潤んでいるように見える。

真木の荷物は先に麗子が知り合いから借りたトラックで持っていった。

残る引越しの作業は真木自身だけだ。


「真木ちゃん・・・・向こうでも元気にしててください!」


本人がこらえているのをお構いなしに泣いているユカ。

相変わらず涙もろい。


「また家人にあの料理を食べさせてやれよな!」


何だかはた迷惑なことを言う健児。

あとで覚えとけよ。


「・・・・・・」


無言でプレゼントを差し出す林葉。

いや、泣くのに耐えてるんだろうが、普通に怖い。


「貸したゲーム、今度返しに戻ってね」


ふっとイケメンっぽく微笑む丼モノ。

なんだろう、この違和感。


「あんたのことだからあんまり心配はしてないけど、まあ何かあったら頼んなさいよ?」


姉御肌で励ます欅。

やはり下級生の女子にもてそうだ。


「じゃあ最後に。語尾に「☆」とかつけるのは、イタいから止めた方がいいぞ」


『ここでそれを言うのかよッ!!』


と一同。

いや、湿っぽい雰囲気が耐え切れんからな・・・・

自分が口調については人のことを言えないのは勿論わかっている。


「えと・・・先輩。カンナちゃんは・・・」


彼女は不安げにその場にいない自分の友達のことに触れる。

我が妹は「何でそんな重要なこと言ってくれなかったの!」と真木に怒って部屋に引きこもっている。

どうやら引越しのことを直前まで告げなかったことがお気に召さなかったらしい。

無論、それだけではないだろうが。

まったく・・・はぁ、と息を吐いてから、先輩らしく答えることにした。


「私に任せておけ。ただ一つほど後の電車に乗って欲しい。それまでには絶対に間に合わせる」


「お願い・・・します」


真木はらしくも無く、スカートのすそをぎゅっと握った。

さて、我がまま娘をみっちり教育するとしよう。









「カンナ」


「・・・・・・・」


部屋のドアをノックするも、返事は全くない。

しかし鼻をすする音がするので、部屋の中にいるのは間違いないのだが。


「お母さん、そんな子に育てた覚えは無いわよ!」


「・・・・・・・」


うわ、私の十年に一度、見れるか見れないかという渾身のボケをスルーしやがってくれた。

滅茶苦茶に恥ずかしいのだが。

ボケるところでは無かったか、まあ空気が読めない私はそんなことは気にせん。


「・・・・お母さんはそんなこと言わない」


「だろうな」


とりあえずは会話する意志はあると思って大丈夫だろう。

ドアに寄りかかって腕を組む、戦闘態勢だ。


「お前は何に怒っているんだ?」


「だって、真木ちゃん、ボクに一言も相談なかった・・・・」


「嘘だな」


「・・・・!」


正確に言えばそれだけではない、だろう。

実際そういう思いもあってしかるべきかもしれん。


「お前が小三だったかな。私のドラクエを進めていないと弁解したときも、今みたいな喋り方だった」


「・・・・・・」


実はほぼハッタリなのだが当たったらしいので結果オーライだ。

もっともそんな法則に頼らずとも、カンナの嘘は大体わかる。


「いいのか、このままで。こんな酷い追い出し方をして、また会ったときにお前はあわせる顔を持ち合わせているのか?」


何でもそのこと真木がカンナに告げたところ、急に怒り出して部屋から追い出したらしい。

それはもうありったけの罵詈雑言で。



「・・・・・・」


しばしの沈黙。

顔は見えないが、ドアの向こう側にいる妹がどういう顔をしているか想像がつく。

そしてカンナはようやく口を開いた。


「・・・別に、怒る理由は何でも良かったよ。でも真木ちゃんが遠くへ行っちゃうって思ったら・・・何が何だか・・・何か・・・・・・ものすごく嫌な・・・・気持ちになった」


だんだんと声は小さくなっていった。

カンナの心境は恐らく、ある種の現実逃避のようなものかもしれんな。

友達がいなくなるという事実を認めたくなかったのだろう。

驚愕、動揺、不安、そういった感情が行き場を失い、怒りという形で現れてしまったのだろう。


「じゃあお前が今しなくちゃいけないことはわかるな」


「・・・・・でも、ボクは真木ちゃんに酷いことをしたんだよ?もう愛想を尽かされちゃったかもしれない・・・・」


「カンナがもし真木の立場なら嫌いになるか?」


カンナはしゃくりあげて泣いていて、声は聞き取りづらかったがハッキリと自分の気持ちを言葉にした。


「・・・・違う」


「四十秒で支度しな。先に外で待ってるぞ」


最後にそう告げて私は部屋を後にする。

私が靴を履く頃、止まっていた時間が動きだしたかのように、ドタバタとカンナが動き出す音が聞こえた。

もう心配は要らないみたいだな。


ドアを開けながら自転車、最近空気入れたっけかとか考えていると、目の前に受け入れたくない現実があった。

受け入れたくないので、その事実に全く触れずにそのまま階段を下りる。

しかし先程、カンナの行動を現実逃避と評した自分自身が逃避するのはいかんな。

よし、叫ぼう。


「なんじゃこりゃぁああああああ!」


先刻までの晴天は打って変わって、外は土砂降りの大雨だった。

不味いな、非常に不味い。

ここから自転車の二人乗りをかっ飛ばす予定だったが、雨が降っているとなれば時間がかかる。

元々ギリギリのラインだったのに、雨のせいで完全にアウト側へと押し出された。

もし私が見栄を張らずに、二つ位先の電車で、と言っていれば・・・・・

私の大馬鹿野郎ッ!!

仕方ない、このまま一か八か足を磨り潰すつもりで自転車を漕ぐしかないか・・・・・


「家人さんっ!」


「ユカ?!」


ユカだけではない。

先程真木を見送って解散したはずの皆が、土砂降りの中から宝蓮荘のほうへ駆けて来た。

遅れること数秒、黒い自動車が走ってきた。


「林葉君がこの雨だと自転車を走らせるのはキツいだろうって。皆で近所の人運転を頼んできたんだよ」


丼モノはそう言って髪をかき上げた。

今なら言える、お前は確実にイケメンだ!


「事情はもう私達が話したから」


「皆・・・ありがとう」


「水臭ぇよ、家人」


車を手配することに思い当たった林葉の方を、彼女は少しだけ微笑んで、そして少しだけ恥ずかしそうに右手を挙げた。

私もそれに応え、右手で手の平を叩いた。

手が湿っていたせいか、土砂降りの中でも聞こえるほどいい音がした。


「お兄ちゃん、その車・・・・」


「話は後だ、行くぞ!」


「う、うん!」


私達兄妹はその黒い自動車に飛び乗った。

カンナは後ろの席に乗り、私は助手席に乗ってすぐに頭を下げた。


「すまない!」


「お願いします!」


「いい、いい。気にすんな、家人にカンナちゃん。橘のアネさんには色々と借りがあるんや」


サングラスを掛けていたのでわかり辛かったが、運転席に乗っていたのは蒲公英組の人だった。

クイっとサングラスを掛けなおすその仕草は、「若頭ぁあああ!」と呼びたくなる位格好いい。

いや、ちょっと怖くなってきた。

グラサンだけでなくパンチパーマに紫のシャツ、という絵に描いたようなヤーさんの助手席に座るとは思わなかった。


「超特急で頼む」


「ああ、これでもワシはルイージを使わせりゃ、組内の誰にも負けたコトがねーんや」


「いやそれマリオカートの話じゃ・・・」


何だか嫌な予感がしてきた。

組員同士でマリオカートに興じる極道もどうかと思うが、そんなコトではない。

遠慮がちに不安の核心に触れてみた。


「前に運転したのは?」


「免許取ったのが・・・・何年前やったっけ?」


「ぎゃぁああああ!!」


やーさんがアクセルをベタ踏みし、車が急発進した。

慣性の法則のせいで異常なGが体にかかる。

バックミラーを見ると、カンナがうずくまって震えていた。

し、シートベルトを掛けねば・・・・・


一言言わせて欲しい、人選絶対ミスってるだろこれぇええええええ!!

明らかに交通違反な速度で反対車線を行ったりきたりもしている。

ちょくちょくとクラクションが鳴っているのが聞こえる。

良くこれだけの豪雨の中、このスピードで走れるな・・・


「クソッ邪魔くさいな。スターがあれば避ける必要も無いんやけどなぁ」


「現実の運転にマリオカートの話を持ち出すのはやめてくれ!」


「まあまあ。久々にしちゃ今日は調子がええで」


あろうことかマリカーやくざは、鼻歌を歌い始めた。

スターを取ったときのBGMだろうが、どこか音程が外れている。


「お兄ちゃん・・・・」


「大丈夫だ、もしものときは一緒に死んでやる」


「何や、失礼なやっちゃな」


とかいいつつ言葉とは裏腹に、彼は上機嫌そうだった。

そうしているうちにも前にいた車が次々と後ろで豆粒になっていく。

赤信号でドリフトを決めたり、車体が片方浮いたりといつ今月の交通事故数に数えられてもおかしくない運転だ。

やばい、死ぬってこれ。


「ぅおう!」


歩道に一瞬乗り上げたため、ガクンと振動が伝わる。

やはり私が変な見栄さえ張らなかったら・・・・


「着いたで」


「い・・・生きてる。よし、カンナ!」


「うん!」


私の妹は車を降りて、土砂降りの中を走って駅へ向った。

雨の向こう側のその背中は先程部屋に篭っている人物とは別人のようだった。

何となく小鳥が巣立っているようにも見えて少し寂しい。

付いていくのは野暮というものだろう。

時計を見ると十分に別れの言葉を言える時間だ。

むしろこの運転で間に合わなかったら本当に泣くぞ・・・・若干もう涙目になっているが。


「話し込んで電車を乗り損ねるかもしれんしな。後で誰かのメールで連絡すればいいから先に帰るとするか・・・・・・」


「よし、まかせな」


「いや。コンビにで傘でも買って帰るから、後はだいじょぅぁあああああああああ?!!」


母さん、父さん。

私は親より先に死ぬ、相当な親不孝者のようだ・・・・







後藤真木引越し完了

橘家人はそのまま、マリカーヤクザにドライブに連れて行かれる

本当はこの話、シリアス調で進めるつもりだったんですが、マリカーヤクザが出てきたせいでコメディに、ついでに長くなってしまいました、とほほ。

ちなみにマリカー=マリオカートです。

わからなかった人すいません。


ここからは宣伝になってしまいますが「猫 in the 地球最後の日」という短編を書きました。

ヌヌ猫は出てきません、あしからず。

是非読んで下さい。


あとシリアスパートにジブリネタをブッコンでしまいましたが・・・・

何人くらい気づいてくれるでしょうか。

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