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第55戦 VSネオ・引ったくり

南国植物が生い茂っている、というより蠢いている。

下手をしたらこいつらに食われてしまうのではなかろうか、という小さな恐怖心すら抱いてしまう。

前回来たときよりも私の親戚、こと大和花子のお花屋さんは進化していた。

もっとも今はお花屋さんというよりタダのジャングルだ。

しかしそれには目もくれず、レジで同人誌を読んでいる茨姫・・・無理があるか。

ツタや触手、麻薬が精製できそうな花に囲まれた老人を見据える。


「もう一度言う。暫く引ったくりを止めろ」


「ひどいのう・・・・近頃の高校生は老人のささやかな楽しみさえ奪うなんて非道じゃ・・・」


老人といっても口調の割には、まだ五十代後半だがな。

それにこのババァが全力で走れば、かのボルトーもメではない。


「だから何度も言わせるな。最近引ったくりが多発しているんだ」


「わっちは関係のう言うとるじゃろ」


「紛らわしいしからだ。今町民はピリピリしているのだ。てかわっちって初めて聞いたぞ」


警察がそこそこ頑張っている上、悪さをすると法で裁かれなくとも極道(たんぽぽ組)にしめられる。

治安はかなり良い町なのだ。

たまに出現する素手で建物を破壊するバケモノや、気まぐれでトンデモ校則を出すセクハラ校長などの問題児を除けばの話だが。

・・・・問題児のほとんどが身内だったな。

不名誉極まりない事実にため息をついてみる、はぁ。


「い、家人さん・・・助けて・・・」


「ってユカ?!」


そう言えばガーデニングのために肥料を買いに来たユカがついてきていた。

とかその前に生きている(あたりまえだが)ような植物に取り込まれているユカを助けねば!


「で、どうすればよいのだ?」


「枯葉剤はおいとらんよ」


「何でそんな冷静なんですか!?」


や、別にこの前にウチで発生したモンスタープラントと違って口がついてるというわけでもないしな。

放って置いても害はなさそうな気がする。

むしろ猫が猫じゃらし相手に戯れているだけのような感じにも見受けられる。


「そもそも何故こんなのを飼っているのだ?」


「物好きな富豪に売りつけるためだよ。観賞用だそうさね」


確かに見る分には飽きなさそうだな。

先程からずっと元気一杯にうごめき続けている。


「無視しないで下さい!泣きますよ?!」


「仕方ないな、そろそろ助けてやってくれ」


「そしたら引ったくりしてもええのか?」


成る程、そう来るか。

だが町内会長に頼まれてきている以上、はいそうですかと言って引き下がることもできない。


「というわけでユカ。君のことは忘れない」


「見捨てられた?!」


「まあ冗談は置いといて、そいつらをなだめてくれ」


「仕方ないの」


花屋が触手をなでると、急に触手がしゅんとなった。

萎えたのか。


「一言余計じゃ」


「あだっ」


ばあさんが手元のスイッチを押すと、上からタライが落ちてきた。

ここは本当に花屋か。


「家人さーん・・・酷いですよぉ・・・」


泣きついてくるユカを適当になでてやる。

ふむ、悪くない髪質だ。

ずっとこうしていたいが、ばあさんをどうにかせねば。


「引ったくりが捕まるまでの我慢だ。な?」


「えー」


「可愛さのカケラも無いな・・・」


「家人さん、口に出てます」


おっとっと。

花屋は中々諦めないようだ。

そんなに引ったくりを止めるのが嫌なものなのだろうか。

こんなことは言いたくないのだが、致し方ない。


「ババァ、ここで売ってる栽培・取引が禁止されているモノを全て警察様に献上してもいいんだぞ」


「ぅぐっ・・・だがしかし甘いね、坊や。この私が根回しを行っていないとでも思うのかい?」


「頼みの綱の警察やってるお前の兄上は買収済みだ」


「何やてぇ!?」


「関西人でしたっけ?」


買収済みというか花子婆さんに手を焼いている、とこの間相談したらこのことをカードに使えと言われただけだが。

大切なのはノリだ、ノリ。

しょげている花屋に釘をさしておく。


「約束をやぶったらブタ箱行きだからな?」


「・・・チッ。わぁーったよ」


何かとキャラが安定せんな。

さて、用事も済んだし今日の夕飯を買って変えるか。


「行くぞ、ユカ」


「あ、まだ肥料が・・・」


「ん」


ユカを待っている間、腕組みをしつつ壁にもたれて往来をぼんやりと見る。

この歩いている人、一人一人に各々の人生があると考えると不思議なものだ。

それをほとんど知ることができないが、色んな人が自分と同じように泣いたり笑ったりして生きている。

私にとっては背景に過ぎないエキストラが、それぞれにとっては自らが主役なのだ。


焦燥に近い不安を顔に浮かべた少年を見やる。

待ち合わせの時間を過ぎているに、未だ待ち人来ず、といった状況なのだろうか。

バックれられたのか―――すると今の彼には歩いている人が皆、自分を嘲笑っているかのような錯覚に陥っているのかもしれない。


我が家へと続く道を眺めれば、自転車を限界まで酷使してこちらの方向へ走る青年がいる。

この先は駅だ。

もしかしたら恋人に対して誤解を抱いてきたことがわかり、遠くへ行ってしまう思い人に最後に一目会いたいが為に必死に走っているのか。

・・・・我ながら恥ずかしい妄想だな。


「いや、待てよ?」


その状況だとしたら全力疾走しているににも関わらず、マスクとサングラスをしているのは何故か。

花粉症の季節がやってきたから、そのような格好もおかしくないかもしれない。

だったら明らかにオバさんモノのバッグを持っているのは何故だ?

ふと抱いた疑問が、青年が花屋を通り過ぎる頃に確信へと変わる。

はるか後方から聞こえてきた聞こえるか否やという、使い古されたあのワードと共に。


「ひったくりよぉおお!!」


「・・・私の純情をかえせっ!」


「家人さん?」


「何言ってるんですか」とでも言いたげなユカには目もくれず、商店街をダッシュする。

こんな人通りの多いところで犯らかすとは血迷ったか!

しかし足では自転車にも適わないから当然・・・


「引ったくりだ!捕まえてくれ!!」


「応ッ!」


やたらと体格の良いすし屋の旦那が引ったくりの道を阻む。

二メートルを超えるであろう身長から発せられる威圧に、流石の引ったくりもビビっている。


「う・・・・・うぁあああああ!」


「む?!」


自転車の前輪が華麗に宙を舞う。

ウィリー走行か。

追い詰められた獣の如く彼は爆発的な力を発したのか、更に二メートルはあるすし屋の巨体を自転車が飛び超えた。


「あ・・・うぁっ・・・!」


激しく車体を揺らしながらも自転車は止まらない。

あのスピードでは最早止めることもできない。


「八百屋!借りるぞ!!」


「え?」


通り過ぎる瞬間に適当に八百屋から商品を引ったくる。

後で代金はどうにかするとしよう。

引ったくり犯が。


「喰らえ小松菜!」




―ゴンッ




お馴染みの鈍い音がする。

小松菜自体が硬いのか、それとも入れ物が硬いのか。

それは神のみぞ知るところである。


「ってぇ・・・くそ!」


自転車から落下した引ったくりは、そのまま駅の方へ向っていく。

不味い、丁度着いた電車に乗っていた客のせいで見失ってしまう。

小松菜では一瞬動きを止めるだけ精一杯だった。

否、その一瞬だけで彼女には十分だったようだ。

私の横を亜音速へと達したアイツが爆走して行き、そして地面を思い切り蹴ってからの回し蹴りが炸裂した。


「引ったくりはキャッチ・アンド・リリースが基本じゃボケぇえええええええええ!!!」


引ったくりは誇り高き引ったくりの下へ跪いた。

というかそれは間違ってるだろうに・・・







待ち合わせをしていた少年は、結局相手が電車を乗り違えただけだったそうな

めでたしめでたし

途中で出てきたすし屋は痴漢男のスシグルイにしようかと思ったのをやめたのは絶対に秘密です。

読んでる人も少ないのにこの後書きを読んでる人はもっと少ないのに何人がそんなマニアックなネタわかるんだろう・・・


今回はいつもより長めです。

オチを最初に決めていればグダグダやってるだけでいいので、非常に楽です。

昔の1.5倍くらいでしょうか。

このくらい長くても大丈夫ですかね?

元々一話が短いので大差ない気も・・・

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