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第53戦 VSお泊り会「原始の争い」

「何故・・・何故なのよぉおおおおおお!?!」


「落ち着け健児。胸に手をあて、深く息を吸い、そのまま窓から飛び降りろ」


「家人君そういう冗談は・・・今の健児君ならやりかねないよ」


ゴンッと鈍い音が、開け放たれた窓から夜の寒い風と共に部屋へ入ってくる。

飛び降りたところで所詮ここは一階なので特に頭をぶつけるくらいだが。

「高二男児、一階から転落死」全国区の新聞で載りたくはないよな。


「健児ー、謝るから戻って来い」


「借金五十万ドルってどういうことだよ・・・円換算だと・・・」


「まあ四千万円は下らないよね」


察しの良い方はわかっているとは思うが、前編から少々時間が飛んでいるのであしからず。

無駄な部分は省くのが近今の風潮だ。

今に始まったことではないと思うが。

しかし重要でない部分こそ必要だったりするものである。

学校の授業の内容とか。

そうでもないか。


「というか健児、あとゴールしてないのはお前だけだぞ」


「うわ、丼モノ地味に終わってたのか」


ブツブツつぶやきつつルーレットを回す。

ひたすらひたすら狂々狂々と。

人生ゲームは最後の辺りに決算日というコマがあって、借金があると通過できず、そこでルーレットを回し金を稼ぐ。

聞こえるのはカラカラ・・・と寂しげな音だけだ。

あまりにも借金の額が膨大で、長すぎるために丼モノが痺れを切らした。


「健二君、結局は全額返済するんだから飛ばしてもいいよ」


「駄目だ・・・自己破産という道は通らない・・・もう二度とお金が借りられなくなる・・・」


駄目なのはお前だ。

ゲームとリアルの境界が大きく揺らいでいる。


チク、タク、チク、タク


カラララララ


静か過ぎて普段は聞こえないはずの、時計が秒針を刻む音さえ聞こえてくる。

嫌な雰囲気だ、空気が重い、変な汗が流れる、どこかへ逃げ出したい。

何故盛り上がるためのパーティゲームで盛り下がらねばならんのだ。

室内の気圧が下がりきった頃、健児が地獄から戻ってきた。


「っしゃぁああああ!やっと全額返済!!」


長きにわたる戦いにようやく終止符が打たれようとしている。

長すぎるわ。

健児の手によって回されたルーレットは、軸から飛び出さんとばかりに回転している。


「2、バカンスで月に行く。$250,000払う」


「家人、ロープと椅子」


「前回と同じ流れはやめろ」


健児は静かに握った拳を震わせた。

かろうじてでた声は、泣くのをなんとかこらえているようだった。


「何でだよ・・・俺、何か悪いことしたかよ・・・」


「健児、お前の車には子供が沢山乗っている。それに比べて丼モノの家は全く子供に恵まれていない」


「でもどうやったら俺はあいつらを養えるんだ・・・・」


「ど阿呆!お前達の車の行く先を見てみろ!!」


「億万長者の土地・・・」


「そうだ!お前は」


「その流れもさっきやったから」


同じネタを二度繰り返すお笑いのテク、天丼を知らんのか。

丼モノという名前だというのに何たる


「君がそのネタに触れるようなら、僕がその幻想をぶち殺す」


「ごめんなさい」


目が本気だったな。

私でも丼モノに怯むことくらいある。

まあ名前ネタってのはいじめの原因だし、人によってはかなり触れられたくないものだからな・・・

今の時代、変な名前も珍しくないが。

入学式の時にアトムとウランいう名前の生徒が同じクラスだったのには驚いたものだ。

ア○ルだとかワキガだとか子供に名前をつける今の世を考えればまだマシか。

かくいう私も変な名前だから苦労したものだ。


「家人ー。ハラー・ヘッター」


「ん」


先刻まで世界が終わるというような状態だったのに、随分と早い立ち直りだことだな。

こういう健児の切り替えの良さは、私も見習いたいものだ。

テンションの上下が激しいだけとも言うか。

鬱と躁を繰り返すのも大分危ない精神状態だよなぁ、と思いつつ茶菓子が入っているはずの戸を開く。


「・・・・ほい」


「サンキュー、旨そうな猫缶じゃん・・・俺は人間だ!」


「味は薄めだけど、食べられるらしいよ」


「聞いてねーしっ。家人、次ふざけたの出したら、某後輩にお前がそろそろお前の料理を食べたがってたってゆーぞ」


それは怖い。

本当に怖い。

とても怖い。


「すまん。なんとなく目に入ったのがこれだっただけだ」


「目に入ったからって出すなよ」


むしろ俺は狼だ、と健児は妙な主張をする。

猫缶に餓えたヌヌ猫に引っかかれて大ダメージを食らう奴が狼というのも情けない話だ。

我が家では猫缶なんて滅多にお目にかかれない贅沢品だからな。

ヌヌ猫がサイヤ人(猫)に覚醒するのも無理は無いか。


「ふぅむ」


「僕もお腹へって来た・・・何も無かったの?」


「無いわけではないのだがな・・・」


戸棚にあったのは何とも寂しげなたった1つのモンブランケーキ。

喫茶カフェからお持ち帰りしたものだ。


「1人分しかない」


「「へえ」」


急に2人とも声のトーンが下がり、部屋は冷戦状態のような雰囲気に包まれる。

まったく、ここには相手に譲ろうという精神がある立派な若者はいないようだ。

言うまでも無く私も含めてだが。

電車の席ならともかく、自分の食物を相手に譲るわけがない。

かの有名なイエス・キリスト様が「下着が2枚あったら、持ってない者に与えなさい」とか言っていたような気がする。

逆を言えば1つしかないケーキを与える道理は無い。


「当然ここは、一番初めに言った俺が頂くべきだよな?」


「必ずしも言い始めた奴と、実際に行う奴が同じとは限らんだろう」


「家主として客をもてなすべきじゃない?」


「ハ、料理である丼モノが自分にご馳走しろだと?片腹痛いな」


プツンという音が聞こえた気がした。

黒いオーラを身に纏った丼モノが、ゆっくりと立ち上がる。


「ふれるな、って、言っ、た、だろぉおおおおおお!この地味目絶食系堅物型中二口調頭でっかち!!」


カチン


「いい度胸だな、おい!パックに詰めて吉野家に寄付してやろうかぁ!?」


「僕は点呑克鈍だ!牛丼の要素無いだろッ!!!」


「おまえらさぁ・・・」


「「薄幸馬鹿は黙ってろ!!」」


プッチン


「あんだとてめーらっぁあああああ!」


「全員まとめて0と1の境界に還元してやる!」


「来るが良い・・・ただしその瞬間に貴様らは終末を迎えることとなるだろうッ!」


さあ、命を掛けた死闘が今はじまる・・・と思いきや


「近所迷惑だっつーの!!!」


突如乱入してきた欅によって、全員まとめてノックダウンされたとさ。







3人とも女性陣に説教を喰らうこととなる

後日、疲労により仲よく遅刻

教訓

お泊まり会は翌日のことを考えて

私の家だと途中で母がマジギレして夜更かしもクソもあったもんじゃありませんでした。

そのくらい許してよ、マミー。


そろそろ最終編に取り掛かろうと思います。

この超うだうだな更新スピードに付き合ってくれる方、どうもありがとうございます。

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