第52戦 VSお泊り会「人生遊戯」
人は誰かを蹴落とせないと上には行けない。
現状に妥協するなら案外そうでもないかもしれないが、少なくとも毎日の食卓では否が応でも他の生物の糧とする。
私達は無意識の内にそういうことを感じないようにしているのかもしれない。
誰がいちいち飯を食べるごとに、魚や牛の気持ちを考えるだろうか。
「いただきます」や「ごちそうさま」は人間の罪悪感を紛らわすためのものかもしれん。
ただ生命に感謝する気持ちが無いよりかはマシだと私は思う。
しかし、他を殺すことを意識しないようにするのではなく、逆に意識するためにあるようなモノがある。
例えば・・・・ゲームなんかがそれに当たるだろう。
「家人、裏切ったな!」
「サバイバルにおける同盟なぞ、マラソンの前に「ゆっくり走ろうぜ」とかいう約束よりずっと軽いわッ!」
「とか言ってるうちに堕天・ネガティブゾーン!」
「ぐあぁああ!」
「セーフ、範囲外へ・・・」
「残念賞!」
「零距離のファイアジャンプパンチだとっ?!」
「ハイ終了~」
「くっそー」
画面の「CONGRATULATION」の文字がゲーム終了を告げる。
これで丼モノの6連勝目だ。
中々勝てんものだな。
「あ、もうこんな時間か」
丼モノが見上げた先の時計は戌の刻、即ち夜8時くらいをさしている。
遊んでいる間に大分時間が立っていたようだ。
そろそろお開きか、と思ったら健児が床に大の字で倒れる。
「あー帰んのたりぃ」
「なら泊まって行くか?」
「親は?」
「私の家、今日は親居ないんだ・・・・って何を言わせる」
「誰も言わせてないから」
それはともかく。
まあ布団は来客用が1つとソファーがあるしたまにはお泊り会もいいだろう。
とか思ったら健児の奴は勝手に押入れを空けて布団を出していた。
手と気の早い奴だ。
男三人布団の上。
女が三人寄れば姦しいというが、男だと何になるだろか。
「さあ、家人よ・・・お泊り会の定番、エロトークか恋バナといこうか・・・・」
「前者はともかく、後者は誰か話せる奴はいるのか?」
「・・・」
「・・・」
「・・・最近のラブプラスっていう恋愛ゲームについてなら」
「よせ丼モノ、余計空しいだけだ」
辺りには気まずい雰囲気が漂う。
男が三人寄れば暗くなるらしいな。
気を使ったのか丼モノが明るく振舞う。
「そ、そういえばハガレンの新刊でたよね?」
「無理に明るくすんな、丼モノ。俺はもう死ぬ。家人、ロープとかねーか?」
「せめて滞納分の家賃を払ってからにしろ」
隣に自分より落ちている奴がいるため、逆にひいてあまり落ち込まずに済んだ。
「フヒヒ」とかダークに笑ってる健児を見ていたらどうでも良くなった。
「うだうだするな、それでも男か!とりあえず現実が上手くいかなくとも、ゲームの中だけなら結婚できるぞ」
よ・・・っと。
というわけで人生ゲームを押入れから引っ張り出してくる。
「これで結婚できないとか展開になったら・・・」
「いや、そういうこと無いように出来てるから」
確かに普通の人生ゲームは結婚のイベントが絶対に出来るようになっているよな。
製作者もこういう事態を想定して作ったのだろうか。
「ふぅ・・・家人の言うとおりグダグダしても仕方ないな。よし、俺赤い駒!」
「じゃあ私は白い車で」
「僕は青にするか」
大分年季の入った箱から、各々自分の分身となる駒の車を取り出す。
先代の頃からのモノなので紛失している職業カードなんかもあったりする。
恐らく父さんや母さんも宝蓮荘に住んでいた頃、これを使っていたのだろう。
「一番手、俺!」
勢い良くルーレットが回りだす。
ちなみにサラリーマンになるルートとさまざまな職業につけるコースがあるが、ネタでもない限りリーマンコースは選ばない。
社会の歯車の象徴ともいえる職業に何故就かねばならん、というのは無くてそっちを選ぶと給料が十中八九低くなるからだ。
「3、えーと【リカちゃんと映画を見に行く。$1000払う】だな」
「やっぱ俺なんか根本的に駄目なんだよな・・・しょっぱなからこれだよ」
俯いてブツブツ何かをつぶやいて再び落ち込む健児。
アップダウン激しいな。
「健児君、落ち込まないでほら!彼女で来たって意味なんじゃない?」
「いいや、ぜってーこれサイフ代わりに使われてる、都合のいい男Aだってこれ・・・」
「馬鹿野郎ぉおお!」
「グあっ!?」
俯いていた顔にアッパーを入れ、無理やり顔を上げさせる。
下ばかり見ていても近づいているトラックに気づかなかったりして危ないからな。
「なにすんだよ!」
胸倉を掴んで、へこたれている奴にカツをいれる。
この馬鹿はどうして・・・!
「どうしてお前はリカちゃんを信じてやれないんだ!付き合っているなら向こうのことを信じてやれ!!そうしないとその内大好きなリカちゃんに逃げられてしまうぞ?!」
「けどよ・・・」
「けどもクソもない!「人を信じて傷つく方がいい」って金八先生も歌っていただろうが!」
「そうか・・・だよな。俺、間違ってたよ!」
「君ら何の茶番だよ」
「「熱血ごっこ」」
ハイ次。
丼モノのターンだ。
健児とは対照的に、コロコロとゆっくりルーレットを回す。
「8、医者だね。家人君」
「すまないが医者の職業カードは紛失したので、代わりにお手製カードでもいいか?」
「じゃ、それで」
人生ゲームには無くした時のために、何でも書き込める白いカードが入っていたりするのだ。
家庭によっては手書きで「ぷろぐらまー」などと書かれていたりするのがあったりして、中々に可愛げ気があるものである。
「ってこれ可愛いけど医者って言うよりお医者さんだし!」
スパーンと淫乱な医者の職業カードが、メンコのように地面に叩きつけられる。
カードの内容に題名をつけるなら「幼女と医師」だろうか。
そういえばまともに聞こえるが幼女の顔は赤みを帯びており、本来はだける意味のない部分まではだけている。
「何がむかつくってこれ僕の好きなエロゲ絵師の画風とそっくりなんだよ!」
「知らんよ」
実際に本人でもおかしくは無いが。
そんな面子が集まる、それが宝蓮荘。
「じゃあ俺!」
健児はまたルーレットを高速回転させる。
止まった数字は・・・・9。
「えーと、就職のマスに止まれなかったからフリーターだね」
フリーター・・・それ人生ゲームにおいて稀にしか出現しない最悪の職である。
後編に続け
序盤の恋バナの話を振ったら、誰もネタが無かったというのは実話です。
中3の修学旅行から女ッ気が皆無に等しかったんですね・・・私。
「女一瞬ダチ一生!」とも言いますしね、悔しくなんて無い。
ただ恋人達のクリスマスにコミケの会議をしているのは流石に空しくなりましたが・・・・友達からの「今、彼女と家にいる」のメールには殺意を覚えたものです。