第50戦 VS球技大会「オーガ」
「ナイッサー!」
ボールが音と共に大きく飛ぶ。
パステルカラーの模様が残像で混じりあって回転する。
数回宙を跳ねたあと、地面に落下し双方の快活な声をかき立てた。
うーん、私もアイツに影響されてるかもね。
「惜しい、惜しい!」
「次に集中して!」
けど状況ははっきり言ってマズい。
準決勝まで来たけど、この点差でそのまま行くと絶対負けてベスト4に終わってまう。
バレー部が少なく、ここまで来ると士気だけではどうしようもない。
というのが現状説明。
「欅!」
力任せにスパイクを放つ。
相手は触れられないような位置とスピードだ。
が・・・
「アウト!」
「う・・・」
「ドンマイ、欅!」
駄目だ、コントロールがなってない。
さっきから力みすぎでミスしている。
「欅先輩、悪いけど勝たせてもらいます♪」
ネットの向こう側から嫌みったらしく微笑む真木ちゃん。
このアマ・・・ッ!
相手チームはメンバーのほとんどがバレー部のため、技術で圧倒されてしまう。
「ふっ!」
やっぱ技術がどうのこうの言ったことはなし。
床をえぐるような大砲が体育館全体に響く。
「ご、ごめん・・・」
「仕方ないわよ。アレはどうしようもないわ」
本当にどうしようもないわ、アレは。
身長は目算で3メートル、影がきざした濃い顔。
隆々とした筋肉がさらに彼女をバケモノたらしめている。
「どうした、こちらをそんなに見つめて・・・」
「なんでもないわ」
ハスキーと言えば聞こえはいいものの、地獄のそこから聞こえるような低い声に少したじろぐ。
色々と反則だと思う。
「フン・・・中々の強敵と聞いていたのだがなぁ・・・」
「仕方ないよ、ウチのクラスが強いだけだよっ☆」
「ふむ・・・」
その言葉(主にあのアマ)に怒りを覚えるが何も言い返せず、自分の中にイライラが募る。
しかし事実、彼女が出てきてから全く太刀打ち出来ていない。
真正面にスパイクが飛んできても、ほとんどの子がパワーに押されあらぬ方向へ飛んでしまう。
「ハイッ!」
前方にトスが上げられ、それに向って地面を蹴る。
あのマッチョにボールが回る前に決めなくちゃいけない。
右端の開いた空間にスパイクを打ち込む。
誰もボールに触れることはない。
「アウト!」
また・・・
これじゃ全然駄目だ。
「リーダーたる者が冷静さを欠くとは論外だな。指揮官がこれではチームの底が見えるというものだ」
彼女のニィと吊り上げられた口元に、更にいらつきがつのる。
このっ・・・
しかし引き締まった筋肉の塊の腕がボールを持つことで、我に返る。
「さて我のサーブだ。そうだな、一発くらい本気で打ってやるとするか」
「頼んだよー♪」
「ぉぉおおおおおおおお!!!」
砲弾。
そう呼ぶのにふさわしい球だった。
信じられないことに最低でも100キロは超えるだろう巨体が、自身の身長分空を飛ぶ。
振り下ろされる腕は恐らく、人の首を圧し折るのに十分な威力だろう。
ボールに掌が触れたと同時に、大気が振動する気がした。
そしてアームストロング砲が自陣のコートをえぐる。
速さも尋常でなく、誰も触れられなかった。
「ハハハハ・・・フハハハハハ!」
これに勝つのは無理だ。
理性ではなく本能でそう感じた。
もう駄目だ・・・
「審判、タイムだ!」
戦意を失った私に、聞きなれた声がした。
同僚のあの男だった。
家人達はもう優勝を決めたようだった。
「皆集まってくれ」
正直、作戦タイムを取っても何の意味もない。
アレを止められるはずがない。
「欅!」
「は、はいっ!?」
急に名前を呼ばれて変に声が裏返る。
眉間に皺を寄せて、家人は話し始めた。
「無理に一発で決めようとするな。あの猛者を意識しすぎだ」
「でもアイツに打たせたら・・・」
「欅」
今度の声の元はチームメイトだった。
意志の強い瞳に私は少したじろぐ。
「次はちゃんと止めるから」
「だけど・・・」
「止めるから」
だよね?と皆に微笑み、チームはそれに答える。
「これだけ心強い仲間がいるんだ。もっと信頼してみろ」
「うん・・・」
誰が言い出すともなく、円陣を組む。
そして私は思いっきり息を吸い・・・
「絶対勝つわよ!」
『おー!』
気合を入れて配置につく。
サーバーの鬼が微笑んだ。
「どうした、逃げんのか?」
「ハ、あんた如きに誰がびびんのよ。私の相棒の母親はもっとすごいわ」
「ほう・・・」
不適に笑い返すと、彼女はまたにやりと微笑んだ。
そして球を宙に浮かす。
「ほざくのは我のサーブを止めてからにしろ!」
大砲がまた飛んでくる。
止めると宣言した仲間の正面だ。
「う、うわあああああ!」
まともに受けられるはずもなく、彼女は吹っ飛んだ。
しかしボールは私の頭の上にあった。
吹っ飛びながらも彼女は役割を立派に果たしていた。
スパイクに最適な位置。
トスを挟むまでもない。
コートを蹴ってとんだ瞬間、あの鬼と目が合う。
頭の中に思考が氾濫する。
これを外したら皆に合わせる顔がない。
しかもこの試合、私のスパイクはほとんどアウトになっている。
成功確立は・・・・
「欅!」
いつも家賃を取り立てるあの声が、私の負の思考を全て払った。
ほぼ無我の状態でスパイクを打つ。
「っしゃぁああああああ!」
ボールは相手コートに確かな足跡を残し、大きくバウンドしていた。
最終的に結果は〆組の負け
チームは全員で涙を流した
例の巨漢の彼女は今回最大の強敵は〆組だったと、後日の学校新聞で述べている
皆様お久しゅう、仙人掌です。
というわけで遂に50話突破です!
加えて一周年!!
(実はデータが一回ぶっ飛んだので二周年くらいですが)
コメントを下さった方の励ましもあり、何とかここまでたどり着くことができました。
読んでくれている方々、本当にありがとうございます!
そんな事情もあってか、今回はガチです。
というか書いているうちにそうなっただけですが・・・・
少しでも宝蓮荘を見守っている人がいるかぎり、連載は続けたいと思います。
気長に待っててください!