第44戦 VSブレイクタイム・ブレイカーズ
ゆらりゆらりと足が弓の形をした安楽椅子に身をゆだねる。
家の中にまで浸透する陽気の効果もあってか、安楽を通り越して極楽にまで逝けそうな心地だ。
昼寝に突入しても良いが、林葉から借りた本がまだ読み終わっていないので、早く読んでしまおう。
本を読みつつ、紅茶を楽しみ、椅子に揺られる午後のひと時。
この雰囲気にいつまでも浸っていたい・・・・
「家人、遊びに来たぜ!」
「・・・安らぎの時間のなんと短いことか」
本にしおりを挟んでから閉じ、そして脇へ置く。
ため息を吐いてから、そのまま虫取りににでも出かけそうな健児の方を見る。
「お邪魔するよ、家人君」
女三人集まれば姦しいと言うが、男三人が集まると何になるだろうか?
むさ苦しい、といったところか。
「悪いが二人とも今日は帰ってもらおうか」
「何でだよー」
「たまにはゆっくりと優雅に午後を過したいのだ」
「この部屋で優雅って難しくない?」
「・・・・・家賃」
私がその単語を口にしたや否や、全力で二人とも駆け出し私の部屋を出る。
あれほどの加速力があれば、ロンドンオリンピックも夢ではないのではなかろうか。
家賃滞納はまだ一ヶ月だからおおめにみてやらないこともない。
ああ、大目に見てやらないことにしよう。
明日辺り出向くとするか。
「さて」
再び本を手に取ろうとすると、欅が入ってくる
「入るわよー」
「・・・・・」
本ではなく、この先の展開が手に取るようにわかる。
アレだろ。
どうせ私に優雅な午後は無いのだろう?!
「あのさ・・・」
「何だ?」
欅らしくも無く、もじもじと恥らっているようだ。
恥や外聞など、当に捨てていたものかと思っていたがそうでもないようだ。
何故か一発はたかれた。
読唇術でも持っているのか。
「勉強教えてくれない?」
「プッ」
(鉄拳的制裁中)
「人が恥を忍んで頼んでるってのに・・・」
「ああ、うん。今のは私が悪かった。しかしスリーパーホールドは無いと思う」
「もう一発別のが欲しいの?」
「独り言だ、気にするな」
そこ、弱ッちいとか言うな!
冗談さておき、あの欅ともあろうものが私に頼みごととは何かあったのか。
「中間考査が4教科赤点すれすれで・・・」
彼女は小さい声で「期末考査、本当に赤点取るかもしれない」と続けた。
補習で時間を持っていかれると、ただでさえ部活とバイトの二重苦が余計辛くなるからな。
「しかし何故、林葉に頼まなかったのだ?」
「頼んだわよ。そしたらリンがちょっとにやっと笑って、ケンカになったのよ」
「本当にお前ら仲が良いな」
全く、とため息をつく。
どちらにせよ林用は教える方には向かなそうだしな。
それなら仕方ない。
「まあ勉強を教えるくらい良いだろう。で、教科書ノート諸々は?」
「家人ので」
「今日は勉強する予定が無いからほとんど持って来ていないぞ」
かろうじてあったのも、只今ユカに貸し出し中だ。
欅は苦笑いを浮かべた。
「・・・・全部置き勉してるんだけど」
(少年説教中)
「他力本願もいいところだな」
人に教えを請おうというのだから、そのぐらい準備して当たり前だろう。
散々に叱り飛ばした後、お帰り願った。
いい加減読書に・・・
「家人さ〜ん」
「・・・なんだ?」
人の家屋に入るときはノックはいらないという法律でもできたのだろうか。
ウチの住民は不法侵入上等か。
不機嫌さを隠そうともしない。
眉間にしわを寄せ答える。
「あれ、もしかして来ちゃ不味かったですか?」
わかっていたはずだ、この展開は。
これは運命と受け入れようか。
「別にもう良い。で、何のようだ?」
「用が済んだので、ノートを返しに来ました!」
「ああ」
何となく受け取ったノートをパララとめくる。
するとそれに合わせて、右下の猫のようなものが動く。
「って人のノートでぱらぱらマンガを書くな!」
「痛っ!」
ユカの頭に拳骨を落とす。
そして説教。
「勉強に集中できなくて・・・・ごめんなさ〜い」
「まだこれくらいだから許してやろう」
健児に貸したら「あの教育実習生の人、可愛くね?」のような内容が延々と書き続けられ、丼モノにいたっては18禁絵だからな。
その辺りに比べれば、まだまだマシなケースだ。
「もう落書きはするなよ」
「はーい」
軽やかなステップでユカは帰って行った。
拳骨のとき、何処と無く喜んでいたことは・・・・気のせいにしておこう。
そろそろ午後のブレイクタイムと行こうか。
と思ったら電話が鳴り出した。
おい、私にも堪忍袋の緒はあるぞ。
「いい加減にしろ、誰だ!」
「お、お兄ちゃん・・・助けて!」
「!?」
結局、家人にブレイクタイムはなかった
次回へ続く
もう更新は来週にしよう・・・
と、完全に惰性に陥っていましたが、コメントに救われ更新しました。
多分これがなかったらとっくに連載やめてるんだろうな・・・
コメントを下さる方々、本当にありがとうございます。