第36戦 VS風邪と玉ネギ
「ゴホッ、ゴホッ・・・・・はぁ・・・はぁ・・・」
はぁ・・・・風邪(&熱)をひいてしまった。
そのためベッドの中で悶え苦しむ羽目にあっている。
何故私が河に突き落とされなければならんのだ。
理不尽、実に理不尽。
「・・・リンゴ・・・」
「ああ。すまん、林葉」
情け無いことにベッドを出るのも億劫だ。
林葉の剥いてくれたリンゴを食べようと手に取ろうとしたがさえぎられ、直接口に入れられる。
そのくらいはまだできるのに・・・
リンゴを頬張って堪能していると、更に熱が上がりそうな人物が現れた。
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャ〜ン♪」
「呼んでない。帰れ・・・」
「ヒド〜い。麗香先生、超ショックぅ〜」
「・・・・・この」
麗香は年甲斐もなく、わざとらしく落ち込む。
とりあえず罵ろうかと思ったが、うっかり年齢のことに触れそうになったのでやめておこう。
麗香の年の事に触れて、怒らせると怖いからな。
「で、何しに来たのだ?」
「心配だから一応見に来たのよ〜」
「麗香に心配されるとは・・・早く治さないとな」
本当に不甲斐無い。
何か早く風邪を治す手段は無いだろうか?
「・・・玉子酒・・・」
「ああ・・・ありがとう」
実は真木の作ったモノではあるまいな?
というオチを警戒して、においを嗅ぐが、異常は無い。
今回は無臭性か?
「・・・大丈夫・・・」
どうやら考えを見透かされてしまったようだ。
安心して玉子酒を飲みほす。
しかしすぐにぱっと風邪は治らない。
風邪を治す手段が何かないか。
「・・・ネギ・・・」
布で包んだネギを首に巻きつけるのは、よくある民間療法だが・・・
効果の程はどうなのだろうか。
「お尻にいれても効果があるって聞いたことがあるわ〜」
「・・・やるなよ?」
座薬なんかより大分辛い。
そこまでして風邪を治したいとは思わない。
事が済んだ後、ネギはどうするのか。
次の朝のみそ汁なんかに・・・・と思うとぞっとする。
「・・・口からなら・・・」
「リンちゃんったら○○○○○なんて、おませさんね〜」
ネギを男性のアレに見立てるなぁああ!!
今までそういうつもりで言ってたんだな?!
ってよく考えると、私が咥える立場じゃないか!!!
叫びたくとも悲しいことに怒鳴るだけの力が残っておらず、ヒューヒューという音の呼吸になるだけだ。
林葉は顔を下に向けている。
わかりずらいが、恐らく恥らっているのだろう。
「下・・・ネタは・・・やめ・・」
「あらららら?体力の限界が近づいてるみたいね〜」
周りの景色が僅かに歪む。
麗香の声が、どこか遠い世界からのもののように感じる。
頭が意識と無意識の境界線上で揺らいでるかのように朦朧としてくる。
「これはもう、ネギしかないわね〜」
何故か混濁した意識の中でその言葉だけが、やけにクリアに聞こえてきた。
「へぶらっ!!?」
「どうやら成功したみたいね」
「・・・ネギが無いから・・・」
「ほご・・・!?んぐ・・・・・!!?」
ネギの代わりに台所にあった玉ねぎがぁああああ!!
顎が外れるっ・・・!!
「もういいわね〜」
心情的にキュポンと、私の口から玉ねぎが吐き出される。
涙目になりながら麗香を睨みつけるが、豆腐にかすがい、暖簾に腕押し、ぬかに釘。
まったく意味を成さなかった。
「で、おいしかった?」
「ふざけるなぁああああ!死者に鞭打つような真似をするとは・・・本ッ当おまえって奴はぁあああ!!」
「死者じゃなくて病人じゃない。むしろ風邪が治って健康になってるわよ〜?」
「あれ?」
声も普通に出るし、ためしに測った温度計は平熱を示していた。
のしかかるような倦怠感も無い。
今ので風邪が完治したのか?
「これがショック療法って奴かしら?」
「・・・不思議人間・・・」
「違う、私は正常だ!」
恐らくは玉ねぎだ。
あの玉ねぎには何らかの特殊な作用が・・・
「家人は蓮の息子じゃない。それで十分な説明になるわ〜」
「・・・・・・」
そう言われると納得せざるを得ないような気もする。
母さんは40℃の熱でも巨大雪だるまを作るような人だからな・・・
どこかと遠い目をしながら、超人な母に思いをはせる私であった。
3分後、橘蓮来襲
ここだけの話、家人の母(橘蓮)のモデルとなったキャラクターは私の母親です。
流石に私の母はあそこまで超人ではありませんが。
喜怒哀楽がハッキリしている、という点でです。
あと子供っぽいところとか。
今思えば宝蓮荘の大人たちは子供っぽい奴ばっかだ・・・