第3戦 VS後藤真木
104号室前。
・・・疲れたな。
あの馬鹿とやりあうのは疲れる。
ガチャ、ガチャ、ガチャッ、ガチャァ!
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャッ!!
・・・やはり扉は閉まっているか。
まぁいい。
私は、この宝連荘の管理人だ。
合鍵くらいある。
「え〜と、104は・・・あった」
ガチャリ、と扉を開ける。
肝試しでお化け屋敷に入る時ってこんな感覚なのだろうか。
「入るぞ、もう入っているがな」
――またも応答ナシ。
寝ているな。
一応ノックしてから、寝室に侵入。
「起きろ、真木」
「家人先輩夜這いかけに来たんですかっ♪」
「今は夜ではないっ!!てか狸寝入りか!」
「あ、夜まで我慢できなかったんですねっ☆」
「違うわっ!?それにいちいち語尾に記号をつけるな!」
「わたしはいつでもOKですよ$」
「記号なら何でもいいのか?!」
「気にしないで下さいっ★」
「悪趣味な冗談はやめてくれ・・・」
「てへっ♪」
「てへって・・・・」
コイツ相手だとペースが乱れる。
真木もユカくらい恥ずかしがればいいのだろうか。
あ、こいつの名前は【後藤 真木】
大和中学三年生だ。
私のことをいつも先輩と慕・・・ってはないな。
からかわれ続けているからな。
「家賃だ、家賃」
「まーまー、先輩もいっしょに寝ましょうよ?こんなに晴れ晴れとしている日は、布団の中に引きこもるのが一番です!」
「かなりインドアな発言だな、どちらかというとアウトドア派の癖・・・・っぇえぁああ!」
寝台に引きずり込まれた?!
「ちょ・・・顔が近いぞ・・・」
あぁ、なんか理性が持ってかれそう。
「先ぱぁい・・・」
息が顔にっ?!
桃色の吐息ってこんな感じなのか?
更に色っぽい真木の声がクワワァアアンと脳に響く。
いや、そんなことより家賃だぁあああ!家賃!!
たえろ、耐えるんだ私。
落ち着け、この程度のこと前にもあった。
それ以上のこともあった。
・・・・精神的外傷に触れるのはよそう。
逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ。
いや、この場合逃げるのか。
まずは今現在の状況を整理するんだ!
それから対策を練ろう!!
真木が私を布団に引きずり込んだ。
だからなんだorz
状況把握するまでもなかった。
「はぁなぁあせぇぇええええ!!」
真木中々力が強く、ベットの外へ出られない。
こいつ運動も勉強も、よくできていたからなぁ。
家事は破壊的だが。
ある意味創造的な腕ともいえるが、それはまた今度の話。
そんな場合じゃない!
「ふふ、もう遅いです、脱出不可能ですっ♪」
ガチャリ
「なッ――」
手錠だと?!
何故そんなモノが?!
「うふふふふふ、そろそろ観念して下さい☆」
目がイってないか?!
や・・・やられるっ。
色々な意味で!!
どうにかせねば。
「く・・・ヌヌ猫!」
「ヌ〜ん」
コイツは私の忠猫だ。
いや、【忠】でもなかったか。
「きゃっ?!」
「ヌヌヌヌ〜ん!!」
「やぁあああああ!!」
そういえば、真木はヌヌ猫が苦手だったな。
あ、ヌヌ猫がいつからいたかとかそこら辺は気にしないでくれ。
基本的に神出鬼没だから。
何処にでもいて、何処にもいないのがヌヌ猫だ。
「やめてほしかったら、手錠の鍵をよこせ」
「ひゃあああ、くすぐらないでっ!鍵なら化粧台の上にぃいいぃぃい!!」
「そのくらいにしてやれ、ヌヌ」
「ヌ〜ん」
ふむ、まったくもって聞き分けのよい奴だ。
人語を解す猫・・・か。
尻尾は一本だよな?
「もうちょっとで既成事実を作れたのに・・・」
「性質の悪い悪戯は、これで懲りたか?」
「いえ、全く!!」
ビシッとした敬礼。
殺意が湧き上がるほどに、清々しい。
期待した私が馬鹿なのか?
「ま、それより家賃だ」
「じゃあ、ちょっと待ってて下さい」
「ああ」
「えーと、ハイっ★」
ドジャラァ
・・・・はい?
「って全部五十円玉?!」
「私がそんな素直に渡すと思いますか?」
ないな。
しかし一円玉ではないところに優しさが感じられ・・・ない。
「ひーふーみーよー」
「ひふみひふみひふみひふっみー♪」
「ええぃ、紛わらしい!!」
く・・・面倒くさい。
「イー、アル、サン、スー」
「なんで中国語なんですか?」
「ウノ、ドス・・・えーと」
「わからないんですね?」
「うるさい!・・・いち、にー、さん、しー、ごー」
「最初から普通に数えてればよかったじゃないですか」
やかましい。
もう放って置いてくれ。
「ろく、しち、はち・・・」
よし、もう少しだ。
「先輩?」
「なんだ?」
「こっちにお札ありますけど?」
「・・・・・・・・・・」
後藤真木―辛勝、ある意味敗北
精神的に多大なダメージ
主人公が「何故」という単語を使っているときは、違和感が無ければ「なぜ」ではなく「なにゆえ」と言っています、きっと。