第31戦 VSおやつ会
はむ、とかぶりつくと円が欠けて、不恰好な月の形になる。
欠けた部分が大きければ三日月だ。
口の中に入った方は、恐らく彼女の舌に存分に甘さを感じさせていることだろう。
「どう、美味しいかしら?」
「とっても美味しいです、このどら焼き」
喫茶カフェから持ち帰った売れ残りが欅と私だけでは処分できないので、ユカの部屋に乗り込んでお茶会を開いたところだ。
もっともお茶会という響きほど瀟洒なものでなく、もう少し軽いものだ。
おやつ会とでも言うべきか。
「アキちゃん、もう一ついいですか?」
「いいけど・・・アキちゃんて私のこと?」
「そうですよ。ケアキから後ろの2文字を取ってアキちゃんです!」
「ユカ、ケアキじゃなくてケヤキだ」
「え!?」
そ、そうなんですか〜とユカは顔を真っ赤に染める。
それを見た欅は口元がかなり緩んでいる。
どうやら可愛い物好きらしい。
ふぅむ、それにしても・・・
「どうしたのよ、家人。さっきから落ち着きが無く見えるわよ?女の子の部屋に入って興奮してるの?」
「そういうわけではないのだが・・・」
「じゃあどうしたの?」
「こんな女の子らしい部屋を始めて見たのだ・・・」
「そんな感慨深く言わなくても・・・・」
所狭しと置かれたぬいぐるみの数々。
ふかふかのベッド。
お嬢様という言葉をを想起させるカーテン。
花を主題とする絨毯。
家具の全てがこの部屋の主は女の子であることを示している。
今まで私が見てきた女性の部屋は、麗香のゴミ屋敷のような部屋。
母さんのスポーツジムのような部屋に、先代管理人のトラップルーム。
カンナも私と部屋が同じだったため、女の子らしい部屋ということは無かった。
「これが・・・女の子の部屋・・・っ!」
「あんた端から見るとただの変態よ」
やかましい、余計なお世話だ!
という言葉が喉まででかかったが、ユカの方を見て詰まってしまう。
「どうしたのよ?」
「欅、アレ・・・」
私が指差すと、あっち向いてホイの同じように欅がその方向に首を向ける。
その先には幸せそうに蒸しパンを頬張っているユカがいる。
「和むわ・・・」
再び口元が緩む欅。
今のユカを見たら10人中9人は「可愛い・・・」と口に出してしまうだろう。
残りの1人は目の不自由な方か、言葉が話せない赤ん坊などだ。
そのユカは花形にあしらえたクッキーを見て、思い出したようにハッと顔を上げた。
「家人さん!」
急に身を乗り出してきたので、こちらの体がビクリと驚く。
「な、何だ?」
「宝蓮荘の敷地を使って花壇を作ってもいいですか?!」
「ああ、全然構わないが・・・・」
自分の心中を見透かされたような気がして、必要以上に驚いてしまった。
心臓はまだバクバクと音を立てている。
「でも何で急に花壇を作ろうと思ったの?」
「昨日テレビで見て影響されただけです・・・・」
そう言うとユカは顔をうつむけ、真っ赤にしてしまう。
「そんなに恥ずかしがることでは無いだろう」
「でも宝蓮荘に住んでるからには、ちょっと変わった理由じゃないと駄目だと思ったんです」
「だそうよ」
地味に心が傷つく。
別に宝蓮荘はそんな場所ではない。
変な奴が集まりやすくはあるが。
「まあラフレシアを育てたいと言われるよりマシだ」
「そんなこと言うわけ無いじゃないですか」
「人食い花を育てたいとか言ったりしてな」
「それも無いです。人をなんだと思ってるんですか!」
「すまんすまん」
怒っても怖く無い人は稀にいるようだ。
むしろ可愛いぐらいだろう。
「でも料理で人食いの怪物を生み出す子はいるわよね」
「・・・・まあな」
「暗い顔をしないで下さいよ・・・ほら、もっと笑って下さい!」
「そうね、顔を貸しなさい」
「人の頬を引っ張るものでは無い、この貧乳・・・・痛だだだだ!!」
「コノヤロウ」
「アキちゃん。それ以上やったら家人さんの顔に、モザイクが必要になってしまいますよ」
「胸がある女に私の気持ちはわからないわよ!」
「いいじゃないですか。アキちゃんはスレンダーなんですし」
「スタイルの王道、ボンキュッボンからは外れるがな」
「家人さん!」
「家人・・・・とりあえず歯ぁ食いしばりなさい」
「2人とも落ちついてって言ってるでしょう!?」
「ユカは静かにしていてくれ」
「黙りません!」
「――――――!」
「○○○○○―!!」
「○△××◇!」
この後3人とも口論で疲れて昼寝に突入
ほのぼのとした雰囲気を意識して書いてみました。
と言うのは嘘で、室内なのでドタバタさせにくかっただけですが。
ここからデート編に繋がります。
たまにはそんな感じのも。