第30戦 VS暗闇の中の呪い
暗闇だ。
私の周りは黒で塗りつぶされている。
それでも手探りで自分の求めるものを、暗闇をかき混ぜるように探し続ける。
見つかるかもわからないものを探し続ける。
最初から無いのならば、それはとても空しいことだ。
それでも今日という日のために一心不乱にまた暗闇をかき混ぜる。
見つからない。
光が・・・光が欲しい。
この暗闇の世界を反転させる光が欲しい。
「先輩、懐中電灯が欲しいなら普通に言ってください」
「すまんな、ありがたい」
真木が持って来た懐中電灯によって、先刻まで暗闇だった押入れの中が照らされる。
するとすぐに求めるものが見つかった。
「それ何ですか?」
押入れの中から普通のダンボールより、一回り大きめの木箱を取り出す。
そしてその木箱に腕をかけて、真木の質問に答えるかわり質問を返す。
「お前は今日が何の日だかわかるか?」
「3月3日・・・・あ、雛祭りですねっ♪」
「正解だ」
「ということはその中は雛人形と見たっ☆」
「2問目も正解」
固くなってしまった木箱の蓋をあけ、中から雛人形を取り出す。
男女2人の最も少ない人数だが仕方あるまい。
少数精鋭ということにしておこう。
「大和邸の方はもっと大きい雛壇があるんですか?」
「3問目も正解だ」
20段くらいの雛壇がある。
多ければよい、というものでもないだろうに。
「さて、誰の部屋にこれを飾るか」
「先輩の部屋じゃないんですか?」
「私は男だ」
雛祭りは女の子の為の日だからな。
「女装すれば問題ありませんよっ★」
「問題大有りだ!」
一応宝蓮荘の女子、全員のための雛人形だからな。
いっそ屋根の上にでも飾ってみるか?
勿論冗談だ。
「真木の部屋はどうだ?」
とりあえず一番手短にいた人物に声を掛けてみる。
すると真木は躊躇うそぶりを見せた。
「普通の雛人形だったらそうしたんですけどね・・・」
「何処からどう見ても世間一般常識における雛人形だが?」
「その人形、呪われてるような気がするんですよ」
「失敬な。ちゃんとその筋の霊媒師に頼んで除霊済みだ」
「本当に大丈夫なんですか?!」
「大丈夫だ。金さえつめば何でもやる霊媒師だからな」
私は幽霊を見たら裸足どころか全裸で逃げ出すほど苦手なので、さっさと処分してしまいたいのだが。
その知り合いの霊媒師は捨てたらもっと大変なことになる、と言うので捨てるに捨てられないわけだ。
「とりあえず屋根の上に十字架を立てて、そこに縛り付けるのはどうですか?」
「・・・・・そのような和洋折衷は私の好むところではない」
「てか先輩。さっきから手がガタガタ震えてますよ」
「人間苦手なものの1つや2つはあるものだよ、真木」
幽霊とか本当に勘弁して欲しい。
嗚呼、ホラー映画を見る人の気が知れん。
ガタリ
「うわぁあああ?!」
「先輩ッ!?」
「ヌ〜ん」
「何だ・・・ヌヌか」
ほっと胸をなでおろす。
「・・・・先輩、その・・・恥ずかしいです・・・」
「あ・・・・スマン」
私としたことが取り乱しすぎてしまった。
後輩に抱きつくとは我ながら情けない。
「ぬぬぬぬ〜ん」
ヌヌ猫が雛人形を見つめる。
その瞳は恋人を見ているかのような熱視線だ。
「ヌんッ!」
雛人形をの片割れを咥えて玄関の外へ持ち出す。
ってぇえええええ!!?
「ヌヌ、それは捨てたら呪われてしまう!」
「え!?」
「ヌ〜ん」
駄目だ。
完全に気に入ってしまっている。
「先輩・・・・」
「何だ?」
振り向くとそこには・・・・雛人形が。
意識が暗闇に溺れる。
「ドアップで雛人形を見せただけなんですけどねー。まあさっきの仕返しってことで♪」
雛人形の捨てたら呪われるというのは、完全にデマである
霊媒師の嘘だったらしい
宝蓮荘もこれで30話。
次は登場人物紹介をして、そしたらずっと放って置いた伏線を回収します。
ちなみに今回の話は3月3日に合わせる為に猛スピードで書き上げました。
なにせ雛祭りの存在を忘れていたもので・・・
そのためミスが多いと思うので、発見次第報告してくださるとありがたいです。