第29戦 VS雪上に舞い降りた2人の悪魔
「お兄ちゃん、雪が積もってるよ!」
「・・・・・とりあえず窓から侵入するのはやめてくれ」
朝起きたら何故かわが妹が枕元に立っていた。
ベッドなので枕元という表現が正しいかどうかは、かなり怪しいところだが。
カンナはニット帽にジャンパーという、いつ雪山で遭難しても割と安心ないでたちでニコニコと笑っている。
金縛りかと疑ってみたものの、寒いだけで五体満足で手足の自由も利く。
「妹よ、私は今とても寒い。なので窓を閉めることを要求する」
「じゃあボクはお兄ちゃんと遊ぶことを要求する!」
「そちらの要求は却下。こちらの要求が、速やかに行われることを切に望む」
「いーいーかーら!雪が積もったら遊ばなきゃ損だよ!」
「仕方ない・・・」
息は雪と同じように白い。
存外、白い吐息は雪と同じ成分かもしれない。
と面白くも無い冗談を考えてみながら、着替えをしようとする。
「カンナ、着替えるので外で待っていてくれ」
「兄妹なんだから気にしなくていいと思うよ」
「一理あるが・・・・コラ。子供ではないのだから一人で着替えくらいできる」
そういいながら頭をぺしぺしと叩くと、カンナは私の服にかけた手を離して不満げに返事をして外へ出て行った。
「まったく・・・」
手早く長い付き合いの防寒着に着替えながら朝食を取る。
昨日の夕飯の余りが無いので、喫茶カフェから持ち帰ったシュークリームを胃の中へ入れる。
ふむ、甘すぎず後味も中々良い。
「ヌヌ、外へ出るか?」
「ヌ〜ん」
否定のイントネーション。
毛布をかぶりここから一歩も出ないという強い意志が瞳に宿っている。
猫はコタツで丸くなるというくらいだ。
寒いのは苦手らしい。
仕方が無いので、ヌヌ猫を置いて外へ出る。
「ふぅむ」
今年は例年のようにたくさん積もらなかったようだ。
地球温暖化の影響らしい。
「お兄ちゃん。こっちこっち!」
ヌヌとは正反対に、カンナはいつもより元気だ。
子供は風の子という奴か。
「で、麗香。それは?」
「題名【北極の白き星】」
「凝り性だな」
人の背丈より大きい雪でできた白熊は、妙な威圧感さえ持っている。
大きさはともかく、その繊細なつくりは札幌雪祭りのレベルだ。
「まるでホッキョクグマを雪でコーティングしたようだな」
余りにも良くできていて、本物ではないかと疑ってまう。
短時間でよくこんなものができるな、と感心しながら雪像に触る。
「コーティングしたのは熊じゃのいけどね〜」
「は?」
突如、触れていた白熊の雪像が音を立てて崩壊する。
雪の鎧を脱ぎ捨て彼女が現れる。
「やあ、息子!バレンタインデー以来だね!」
「あー・・・うん」
頭の隅ではそんな気がした。
「家人なかなか起きないから、心配したよー」
「数時間雪像の中に入りっぱなしだったのよ〜」
凍死されたら困るからカンナちゃんに頼んで起こしに行ってもらったのよ〜、と麗香は言いながらカンナの頭をなでる。
何故すぐ呼ばずにしばらく放って置いた・・・
「それじゃあ皆で遊ぼうか!」
「は〜い」
「はぁ」
母さんは風邪を引かないのか?
やはり馬鹿は風邪をひかないのが相場らしい。
「じゃあ雪合戦!」
「ルールは?」
「命尽きるまで」
「別のにしろ!」
何故そんな漢のルールにしなければならない。
「じゃあ当たったたら負けでいいじゃないの〜」
「フィールドは屋根の上!」
「陸上で」
「はぁい・・・」
チームはグッとパーの結果私とカンナ、母さんと麗香だ。
「カンナ、準備は良いか?」
「ばっちり!」
「レン、どうする〜?」
「決まってる・・・全殺しだ」
「よし、逃げよう」
「ちょっと待とうか、お兄ちゃん」
色々と無理だって。
あの人たち怖い。
黒い瘴気が駄々漏れしている。
二人とも目を爛々と光らせ、口を悪魔のように歪めて笑っている。
「逃げてばかりじゃ何も変わらないよ!」
「・・・・わかった」
妹に言われていたのでは、私の立つ瀬が無い。
私も男だ、腹を括ろう。
「行くぞ、カンナ!」
「うん!」
私達の戦いは、まだ始まったばかりだ!
仙人掌先生の次回作にご期待ください(大嘘)
シリーズ、打ち切ってみよう。
宝蓮荘はまだまだ続きます。
100000hit突破しましたしね!
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