第25戦 VSチョコ会社の陰謀
喫茶カフェは名前の割にケーキ屋なので、クリスマスなどのイベント前は必然的に忙しくなる。
近頃はバレンタインが近いので、目も回る忙しさだ。
イベント前は忙しい。
忙しいと人手が足りない。
人手が足りないと私がカウンターに出る。
ということで今喫茶カフェに来ると、もれなく無愛想な店員がカウンターで出迎えてくれるぞ。
まあ私のことだがな。
「注文は何だ、山谷?」
「俺は山谷だ・・・って合ってるし。つかちゃんと仕事しろよ」
山谷も名前間違えられることに、慣れてしまったようだな。
ぐてぇ、と適当に持ってきた椅子に座り、カウンターに倒れこむ。
「これでも会計をしたり、仕入れをやったりと色々働いている」
「それってバイトが手を出していいのか?」
「うちの店長はパティシエとしては十分一流なんだが、経営に関してはてんで駄目なんだ」
天は人に二物を中々与えてくれないものだ。
その点私は子供の頃に経営などに関して仕込まれたからな。
「で、注文は何だ」
「【慰め】4つ頼む」
「クリスマスに引き続き今回も、か」
「・・・・・」
「・・・・・山谷」
「何もいわずにチョコをくれ」
感情を押し殺した震えた声を前に、私はご要望どうり何もいわずにチョコを渡した。
いや、何も言えなかったのだ。
「400円だ」
「ん、1つ多いぞ」
「おまけだ。もってけ」
「家人、俺は慰めならいらない」
そういって山谷はチョコをつき返してきた。
先刻【慰め】という名前のチョコケーキを注文したのは何処のどいつだ。
仕方ない。
「これはあくまで次への希望を込めてだ」
あと桜姫路での礼も込めてな、とチョコを押し返す。
「家人・・・」
「ほら、次の客が待っている。さっさと帰った帰った!」
「ありがとな」
山谷はそう短く言い残して去っていった。
今度の声はもう震えてはいなかった。
「じゃあな」
さて、次だ次。
「腐れ男、注文は何だ」
「だから客に向ってその口の聞き方は無くね?」
「腐った男さん、注文はなんでございましょうか?」
「肝心な部分が改善されてねぇし!何かドラクエに出てきそうなんだけど!?」
私はFF派だからな。
よくわからん。
「ところで相方はどうした?」
いつもカップルで来ているのにな。
詳しくは12話。
「チョコは?って聞いたら今年は逆チョコとか言われてんでパシってる・・・」
たぶん照れ隠しで口をついた言葉なのだろうな。
向こうは既に高めのチョコを予約しているし。
「じゃあこのチョコを持っていってくれ」
「?」
「金はいいから渡してやってくれ」
どんな顔をするだろうか。
まさか自分の予約したチョコが、渡すはずの相手から届けられるとは思わんだろうな。
「はい、次の奴ー」
「ふふん、相変わらずシケた店だ」
クリスマスの日に塩ケーキを注文した奴だ。
私以上に偉そうな奴だ。
「チョコ型爆弾1つ」
「そんな物うちには置いていないぞ。そもそも何に使うつもりだ?」
「何に使うか、だと?そんなもの決まっているじゃないか・・・フフフ・・・アーハッハッハ!!」
その男は高笑いをしながら店外に出て行った。
何がしたかったのだ?
「やっほー、家人!」
「・・・・・母さん、何故こんなところにいる」
汚れた服をキラキラと輝いた顔できているのは、私の母さんだった。
親が仕事場に来る恥ずかしさがよくわかった。
私の母さんの場合だと別の感情がわいてくるが。
「いやぁ、太平洋横断水泳やったらおなか空いちゃって。何かおごって!」
「コンクリートでも食べていろ」
「えーん、えーん。息子がいじめるよぅ」
母さんには是非とも自分の年考えて欲しい。
ある意味永遠の14歳だな。
「はい、次の方ー」
「スルー!?」
いいもん、いじけてやるもんと言って母さんは帰っていった。
言い過ぎたかと思わなくも無いが、母さんのことだから3歩も歩いたら忘れるだろう。
一応あとでチョコでも送ってやるか。
「家人君、ちゃんと働いてる?」
「ん、丼モノか。しっかりと働いてるぞ。注文は?」
「チョモランマ・モンブランをお持ち帰りで」
それはともかくさ、と丼モノは私の後ろを見ながら続ける。
「その後ろのチョコはツッコミ待ち?」
私はケーキを包装しながら答える。
「ああ・・・これか」
私の後ろで異様な存在感を漂わせているのは、チョコでできた1/1スケールの聖・バレンタインの像だ。
聖バレンタインの姿がわからないので、店長の妄想でデザインしたせいかイケメンになっている。
歯だけが白いのでやたらに目立つ。
「バレンタインは聖バレンタインを弔う日だから、そういうものを作って欲しいと依頼が来たのでな」
「頼む方も頼む方だけど、作る方も作る方でどうかしてるよ」
「私に言うな」
わからない人のために解説。
2月14日は元々、聖バレンタインという人物が処刑された日だ。
多分弔うための日では無いだろう。
「じゃ、仕事頑張ってね」
「ああ、帰り道には気をつけてな」
「?」
私の言葉に少し疑問を持ったようだが、そのまま帰っていった。
丼モノが店を出たとたん、私の忠告は現実となった。
「君は宝蓮荘に住んでいた親子丼君だったかなッ!」
「いや、点鈍克呑ですけど・・・」
「まあまあ、細かいことは気にしないで。ちょっと息子に振られて暇だから、アタシについてきて貰おう!」
「え、ちょ・・・うわぁああ!」
母さんは丼モノを担いでどこかへ連れて行った。
だから気をつけろと言ったのに。
「お前も気をつけろよな」
後ろにいる聖バレンタインに話しかけてみるが、白い歯をギラギラと光らせるだけで何も答えてくれなかった。
その日、克呑はボロボロになって帰ってきた
何があったか尋ねても、もう許してくださいと呟くだけだった
タイトルは単なるヒガミです。
バレンタインはモテないならモテないなりに楽しめばいいんだ!
今年は期待が本気でゼロなのでがっかりすることもなさそうです。
負け惜しみとは言わないで・・・・・
世界中チョコ会社に踊らされているだけなんだよぉ!
うわぁああん!
・・・泣いてもいいですか?
それとバレンタインが近いのでちょっと紹介。
よく感想を下さる、うゆさんが小説書いているので。
と言っても結構前からですが。
題は「姉妹と静けさと音」
恋愛モノです。
他にも色々書いていらっしゃりますが、うかつに人に勧められないのが多い・・・・