第24戦 VS銭湯「桜姫路」
宝蓮荘に風呂は無い。
そのため近くの銭湯にいく必要がある。
というわけで、今日も掻いた汗を流しに来た。
「店番ご苦労、谷山」
「だから俺の名前は山谷だって言ってるだろ!」
山谷は私達がいつも通う銭湯、【桜姫路】の家の息子だ。
そのためこのように、受付で店番(?)を暇なときにする。
山谷については第12戦参照。
「それじゃ行こうか、家人君」
「ちょっと待った。健児、替えの下着は持ってきたか?」
「子ども扱いすんなよ!・・・・あ、忘れてた」
ほら見たことか。
4回に1回の頻度で忘れるからな。
宝蓮荘を出てくるときに注意し忘れる私も私だが。
「まあいいか。今はいてる奴があるし」
「取って来い」
「・・・・わかったよ、取ってくりゃあいいんだろ?」
後で追いつくから先入ってろ、と言って外の闇夜に健児は飛び出した。
ここから宝蓮荘までは大した距離ではないので、すぐに戻ってくるだろう。
「それでは先に行くとするか」
「うん」
丼モノと一緒に漢とかかれた暖簾をくぐる。
すると銭湯には滅多にこない人物を見かけ、少し眉をひそめる。
「やあ、家人君と克呑君」
「校長・・・」
「こんばんわ、校長先生」
ハハハハと笑う校長の目には、またも青い痣が増えていた。
前話の痣もも含めて、両目の周りに痣ができていた。
可愛くないパンダだ。
「・・・・女生徒のメルアドを聞いたぐらいいいじゃないか」
「お大事にな」
また奥さんに殴られたのか。
どうやら銭湯に来ているところを見ると、家を追い出されたようだ。
丼モノも呆れた表情をしている。
校長の愚痴に付き合いながら服を脱ぐ。
丼モノと並んで、足早に更衣室を抜ける。
「校長先生も大変だね」
「約10割が自業自得だがな」
同情の余地はあまり無い。
「お邪魔しま〜す」
「他人の家へあがる訳ではないだろうに・・・」
ドアを開けると視界には、富士山の代わりに壁に描かれた美しい桜の絵が飛び込んでくる。
もっとも西日本には富士山の絵すら描かれていないそうだが。
この銭湯の桜姫路の名の元になっている絵だ。
姫路がどこから来ているかは知らん。
今度谷山に聞いてみるか、と思いながら木製の小さないすに腰掛ける。
「家人くぅん、今日泊めてぇ」
体を洗い始めると、校長が身の毛もよだつほど気色の悪い声で話しかけてきた。
「・・・・・校長」
「そこまで嫌そうに顔を歪めなくても・・・・」
更にもう一つ痣を増やして許されるよな?
まあここは銭湯だ。
あまり暴れると他の客に迷惑だ。
「今日、家内に家を追い出されてしまって泊まる所がないんだ。ということで宝蓮荘に泊めてくれまいか?」
「ダンボールくらいなら分けてやろう」
欅と林葉が引越しの際に使ったダンボールが、今も大量に残っていて処分に困っているのだ。
「・・・この寒空の下、野宿しろと君は言うのかね」
「公園に行ってみろ。ホームレスの方々はお前の嫌がるそれを毎日やっているぞ」
それにダンボールで家を組み立てれば、野宿のカゴテリーには当てはまらないだろう。
私の知り合いにもホームレスをやっている奴がいるが、ダンボールの中は外に比べればはるかにマシだそうだ。
「うちの店長にでも頼んだらどうだ」
私が体の泡を流し落としながら提案すると、校長はではではそうするか、と言って体を洗い始めた。
店長と校長はやたらに仲が良い。
喫茶カフェにも校長が仕事の合間を縫って顔を見せに来る。
ちなみに店長の家は喫茶カフェの2階だ。
「さて」
手早く片付けて、湯船の方に移動する。
少し熱いがそこは我慢だ。
「ふぅ・・・」
よく風呂に入ると「生き返る」という表現がある。
しかし私は天国に来たような気分なので「死んだ」と言う方が意味としては合っている気がする。
いや、皆が湯船につかって「死んだ〜」と言うのはおかしいか。
「いい湯だね、家人君」
「ああ・・・」
どうやら考え事をしていたので、丼モノが隣に来ていたことも気づかなかったようだ。
「本当にいい湯だ・・・」
それこそ魂が抜けそうなくらいにな。
今、私は幸福感に満ち溢れている。
そしてその幸せを壊す男が現れた。
「いやっふぅううう!」
ドポーン!
勢いよく呼び込んだせいで水柱があがる。
とんだ湯が顔にかかる。
「痛ててて、思ったより浅かった」
「いつも入ってるのだから、それくらい分かれ、この大馬鹿者!」
「ちょ、痛いって!ぬれたタオルで素肌を叩くのがどん位痛いかお前わかってんのか?!」
「黙れ!マナーがなっとらん、マナーが!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃいい!!」
「まったく・・・」
人の幸せな気分をぶち壊しておって。
まったく。
「ふぅ・・・」
「で、今度は何してるの、健児君?」
「見て分かるだろ。銭湯に来たら女湯を覗くのがマナーってもんだろ」
「そんなマナーがあってたまるか」
とはいえ男女を仕切る壁は大分高さがあるからな。
普通には上れない。
「健児、梯子ならここだぁ!」
「サンキュー谷山!」
「だから山谷だ!!」
「待て待て待て待てぇ!何をしている、お前一応この銭湯の息子だろ!」
「「人間は壁を超えることで強くなる生き物だ」」
「声をそろえるな、声を!」
「よし、この校長も参加しよう!」
「俺もまぜてくれ!」
「ワシもじゃ!」
「俺も!」
「貴様らいい加減にしろぉおおお!!」
この後山谷の母出現
家人とタッグを組み説教口撃
銭湯(もしくは温泉)と来たら覗きは定番だと思います。
肝心の覗く部分が長さと私の描写力が足りないのでカットしましたが・・・
あと桜姫路は完全に語呂だけでつけました。
姫路市在住の人はスイマセン。
・・・いますか、姫路市の方?