第23戦 VS戦乙女
彼女らは戦乙女だ。
敵をなぎ倒し、蹂躙する。
行く手を阻むものには容赦などしない。
彼女らの戦場には、弱者はその地に足を入れることすらかなわない。
欲望渦巻き、力だけが物を言う世界だ。
だが私はそこに足を踏み入れる。
私が戦うべき敵、そして同じモノを求める同志。
そう、彼女らの名は【戦乙女】
百戦錬磨の猛者が集う。
そして始まる聖戦の真の名前は【タイムセール】
彼女らの、そして私の戦いが今、始まる。
「開戦の時間までもう少しだな・・・・」
「あら橘さん、今日も来てらしたんですか?」
「どうも」
主婦の齋藤さんだ。
全盛期と比べれば腕は落ちているものの、長年培ってきた経験は侮れない。
「お互い頑張りましょうね」
「ああ」
彼女ら戦乙女は、戦闘しているとき以外は仲が良い。
だが戦いが始まれば話は別だ。
聖戦に情けなど言語道断もってのほか。
恨みっこなしの真剣勝負。
情けをかけられることは今までの己を、全てを否定されると同義・・・・・・らしい。
「やあ家人君」
「・・・・校長殿、コレはまた珍しい」
校長がタイムセールに来ているのは、始めて見たな。
そもそも戦いが始まった段階で、戦乙女や私などの熟練者以外の人間は近寄ることすら難しいからな。
聖戦に一生トラウマを持つことになる。
二度と聖地に入る事ができなくなる。
「家内に言われてな」
どこか遠くを見つめる校長。
「そうか」
恐らく喧嘩したな。
片目に青痣ができているからな。
これはグーで殴られたと見える。
「後十秒ってところね」
齋藤さんの言葉で空気が張り詰める。
一般客はこの空間にいるだけで、気絶してしまうだろう。
現に校長はすでに泡を吹いて倒れている。
店長がメガホンを構えた。
代々タイムセールの合図は店長がする決まりになっている。
『これより、超高級純国産牛肉のタイムセールを開始します。お一人様につき一つなのでお気をつけ下さい』
『おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』(一同)
店長の一声で獣どもが解き放たれる。
これを止めるのは、軍の一個師団を一人で相手にするようなものだ。
「お客様・・・落ち着いて・・・・・・・・ぐあぁっ!!!」
「て、てんちょー!」
「店員Hよ・・・俺の屍はこのスーパーに葬ってくれ・・・・」
「何を言ってるんですか・・・・・弱音をはかないで下さいよぉ・・・・」
「メガホンはお前が継いでくれ・・・・」
「そんなっ・・・店長は貴方ですよ!しっかりしてください!!」
「できれば最後に子供の顔が見たかったな・・・・フッ」
「店長来週結婚式でしょう?!親をようやく説得できて、何度も辛酸をなめてやっとたどり着いたゴールですよ!あきらめないで下さい!!」
だがその問いに答えるものはいない。
店長の手はダランと垂れ下がっている。
「店長・・・店長・・・・店長?!店ちょぉおおおおおおおおおおお!!!」
といっても毎度のことで、タイムセールが終わる頃には復活しているがな。
毎度おなじみのパターンだ。
「あ、先輩!」
「ん、真木か」
こんなところで会うとはな。
戦場ではないどこか別の場所でで出会えていたら・・・あるいはもっと別の・・・
「何考えてるんですか」
「気にするな。ふぅむ、不味いな。大分後方に位置してしまったな」
「じゃ、先輩お先にっ★」
「な!」
と・・・飛翔んだ?!
他の戦士の肩を次々と伝い、空中を移動しているだと!
「見ましたか、先輩!」
こちらを振り返り嘲笑う。
あの機動力は私は無い。
が、しかし。
「おまえの敗因は・・・たったひとつだ・・・真木・・・たったひとつのシンプルな答えだ・・・」
「――え?」
「前方不注意」
気づいたときにはもう遅い。
真木の顔は少し大きめな棚に吸い込まれていった。
そしてそのまま地に堕ちていき、戦場に呑まれていった。
恐らくこれで再起不能だな。
「さて、そろそろ切り込むとしよう」
私が人に誇れる能力が1つある。
それは視界の広さ・・・つまり全体の戦況を把握することだ。
戦場の中でものを見ずに、盤上から見るような感覚に切り替える。
押し合いへし合いになってる分、ある程度パターンが見えてくるはずだ。
ダメージがすくなさそうな場所を潜り抜けるしかない。
「行くか」
頭の中にルートが完成する。
しかしそれは一本道でなく、枝のようになっている複雑な道だ。
視覚情報、空気の流れ、音、勘。
ありとあらゆる情報を駆使して、臨機応変に道を選び進む。
「邪魔だ、どいていろぉおお!」
「貴女、もうお終いなのよ」
「負けるかあああ!」
「喰らえッ!」
「オラオラオラオラァ!」
「私はもう駄目・・・先に行って・・・」
「でも!」
「この私の前では全てが無力ッ!」
彼女らの闘気がビリビリと肌に伝わってくる。
だが私も負けるわけにはいかない。
着実にダメージが体内に蓄積される。
足がきしむ。
肺が空気を求め悶え苦しむ。
集中力を限界に近い。
それでも「諦める」と言う選択肢はない!
「うおおおおお!」
あと数十センチ。
届け!
「甘い」
最後に立ちはだかったのは齋藤さん、その人だった。
腕をはじかれる。
「ここは一騎打ちと行きましょうか」
周りがゆっくりと引き、私達と肉を囲う。
一騎打ちを邪魔することは何人たりとも許されない。
「勝っても負けても互いに遺恨は無し」
「当然よ、橘さん」
「いざ・・・」
「尋常に・・・」
「「勝負!!」」
このプライドと肉をかけた一騎打ちは後の世に語り継がれるほどの名勝負となる
次回に続きません。
・・・・正直、やりすぎました。
書いてるときが楽しくて楽しくて止まらなかったんです。
そのくせものすごく眠い。
どうやら疲れていたようです。
またこんな話やってもいいですかね・・・・